日本人が「悲しみのため息」を吐く時、ブラジル人は「気合いの唸り声」をあげる  【平安山良太さんインタビュー vol.1】


ブラジルで指導者経験を積む平安山良太さんにお話を伺いました。

平安山さんにお話を伺いながら、ブラジル人のサッカーに対する姿勢は、すぐにでも真似することが出来るんのではないかと感じました。知らないから真似のしようがないだけで、非常に有用だと思います。

ゲーゲンプレスについて知るのも大切だと思います。インテンシティとか、デュエルという概念で遊ぶのも大事です。

しかし、最も大切なのは、ジョガなのではないでしょうか。

ジョガとは何か。インタビューの後篇に出てくる言葉ですが、サッカーを楽しもうという意味の言葉です。

さて、我々はサッカーを楽しめているでしょうか?一緒に検討してみませんか?

平安山良太(へんざん りょうた)
ブラジルのサッカー指導者、通訳(ポルトガル語)。中京大→名古屋グランパスU12→東南アジア研修→南米へ。ブラジル1部アトレチコ・パラナエンセに留学→SCコリンチャンス→アヴァイFC→ECバイーア。
Twitter(@henzanryota)

インタビュアー 中村慎太郎
『サポーターをめぐる冒険』(ころから)が、サッカー本大賞2015を受賞。ブラジルワールドカップの観戦記『Jornada』。
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中村:ハトトカへのご出演ありがとうございました。我が家のベッドではよく眠れましたか?(笑)

平安山:熟睡できました(笑)

※前日に音声チャンネル『ハトトカ』へとご出演頂き、その後我が家に一泊して頂いたあと、手製のパスタを食べて頂き、そのまま食卓でインタビューしています。

南米のサッカーを知った気でいませんか? 平安山良太監督とブラジルサッカーを食い尽くそう

中村:ハトトカで、喋り足りなかったところなどをインタビューさせて頂きたいと思います。本編は、興奮したぼくと松田が喋りすぎましたね……(笑)

放送でも触れましたが、ブラジルのサポーターの様子が興味深くて、日本人のサポーターはシュートが外れた時などに「ああーっ……」とがっかりすることはありますが、ブラジルではそういうことがないというお話でしたね。

平安山:声は出しますが、低い声で「ウーッ」ですね。惜しいというニュアンスが出ていますね。

中村:惜しい、なのですね。がっかりではなく。

平安山:惜しいという場合には、俺達が主導権を握っているという心理的優位さがあります。

中村:気合いを入れているようなイメージですね。

平安山:そうですね。「ああー……」と残念に思うサポーターの感情も大事なので駄目というと言い過ぎなのですが、どうしてもネガティブな雰囲気が選手に伝わります。

僕たちは決定機を逃してしまった。相手の立場からしても決定機にも失点しなかったのでラッキーだったと。つまり、相手が心理的に有利になってしまうわけですね。

中村:ブラジルでは、サポーターの振る舞いや言動に、プレイヤーが影響を受けるというのは当たり前の考え方ですか?

平安山:もちろんです。マイナスの影響をされないようにしようと選手も考えますが、選手も人間なので、まわりが「ああー……」と残念がっていると、やはり影響はゼロではありません。

中村:ワールドカップとか近づくと、サポーターなんて歌っているだけで意味がないとか、応援なんかテレビで見ていても一緒だろという議論が出てきますが、こういったことを言う人はブラジルでは見ますか?

平安山:見たことがないですね。

中村:なるほど。サポーターが選手に影響するという考えは当たり前なわけですね。

平安山:チームの中にいるとわかるのですが、サポーターがたくさん来ているとか、声を出してくれているとかは、本当にモチベーションになっています。サポーターが影響しないと思っている人も見たことがありませんし、意味がないという人も見たことがありません。

中村:他のブラジル人選手やスタッフについても同じ考えでしょうか。

平安山:そうですね。サポーターの一部が暴徒化してしまうことがブラジルではあるので、それはやめてくれというのはあるんですけど、基本的には応援してくれていることは本当にありがたいとみんな思っています。

中村:こういった考え方はアルゼンチンとかペルーとかでも共通していると思いますか?

平安山:そうですね。

中村:日本では、確かによくありますね。今書いている原稿でも「スタンドがため息をした」というニュアンスで書いています。これはこれでいいわけですが、戦う姿勢ではないですね。日本ではよく見ますし、代表戦なんかは巨大なため息が連発されるわけですが、ブラジルのスタジアムでは聞こえてこないということですね。

平安山:ほとんどないですね。

中村:これは小さいようですごく大きな違いかなという気がしています。サポーターも戦うという意識が強いわけですね。

平安山:そうですね。

中村:日本のサポーターには、俺は味方で一緒に戦っているという体でありながら、すぐ裏切る人もいます。もちろん多数派ではありませんが。ピンチになると、途端に選手を批判し始めるわけです。そういう人はブラジルにもいると思いますか?

平安山:いますよ。自分の感情を楽しむために、サッカーを観戦しに来ている人もいますから。

中村:戦う気持ちを示している時は「ウーッ」と唸ると。でも0−3とかになると、もうなんでもいいかなみたいな感じですかね。

平安山:接戦のときとかはウーッが多くて、でも0−3とかになってくると「ああー……」ってなるときもありますね(笑)

中村:ブラジルの人はわかりやすいですからね。ところで、ブラジルでも、やはりゴール裏が応援の中心なんですか。

平安山:そうですね。はい。

中村:ゴール裏はやっぱり普通の人座れないですよね?

平安山:基本的にゴール裏は、立ちあがって飛んでますかね。

中村:立ち見かどうかというよりも、たとえば僕がゴール裏に行ったらどうなるかですね。

平安山:そもそも席のチケットが買えないと思います。

中村:やっぱり人気席なんですね。

平安山:買えたとしてもちょっと本気度が高い人たちが多いですね。

中村:やはりそこは危険地帯ですね(笑)。バックスタンドとかメインスタンドとかはどんな感じですか?

平安山:ブラジル基本的にバックスタンド、メインスタンドもみんな立って観戦しています。

中村:みんな立っている!驚きました。

平安山:基本的にビッククラブであればみんな立っていて、みんなで歌いながら観戦しています。バックスタンドメインスタンドでも歌っていますね。

中村:日本はゴール裏の中心部しか歌わないですからね。でもそっちのほうがスタジアムの雰囲気はいいですよね。

平安山:雰囲気としては。

中村:応援に四方八方から包まれていく感じになりますからね。

平安山:ただ歌の種類は少なかったりするんですよ。意外と思われるかもですが。日本では、歌をチェンジしていくじゃないですか。ブラジルではそういう感じはないですね。

中村:サービス業みたいなところがあるんですよね。観客を飽きさせないように、エンタメとしてやっているところがあるようです。だから、応援はとても面白いんですけど、中心を張る人の負担は重いですよね。

平安山:コリンチャンスでは、大きなイベントの時は多少増えますが、応援歌はあまりそんなに変わりません。それがアイデンティティになっているところがあります。この曲が俺たちだと。

中村:日本でも、各クラブにアイデンティティになるようなチャントがありますが、替え歌か、他のどこかのクラブで使っている曲の借用ということも多いですね。

コリンチャンスのチャントって、そこでしか聴いたことないオリジナルのチャントばかりですよね。あれ覚えられないですよ(笑)。喋っているみたいなノリのチャントもありますよね。

平安山:ありますね。いろいろ歌っぽいのもありますよ。

中村:昔、サントスのチャントを映画で聴いたんですけど、もうまったく覚えられない(笑)。長尺のラップみたいになっていて、覚えられたのは「ウーッ、サントス!」のところだけです。あれは、迫力ありますよね。日本だと長くて覚えられないというクレームも出そうですね。

中村:観客席についてですが、子供席があると言っていたのはどのクラブでしたっけ?

平安山:ECバイーアですね。子ども席というよりはラウンジです。VIPルームの手前にある席なんですけど、かなり面白い席です。普通の観客席もありますけど、たとえば音楽団を呼んで、後ろでライブやっていることもあります。

中村:え?ライブですか?試合中も?

平安山:試合中もです。試合前後もですね。試合に飽きたら後ろに行ってライブに参加できます!

中村:なにそれ!(笑)今年のFC東京の開幕戦には、東京スカパラダイスオーケストラが来たのですが、それが日常ということですね。

平安山:グラウンドでもイベントをやっていてそれを楽しむもあり、後ろでライブを楽しむのもありなわけです。

中村:ロックフェスティバルみたいなイメージですかね。バイーアの観客動員数どれくらいですか?

平安山:平均すると20000人強くらいですかね。

中村:チケット代って、日本とはあまり変わらないんですか?

平安山:安い席で600円です。高い席で5000円くらいですね。

中村:だいぶ幅がありますね。

平安山:そうですね。vipルームで5000円くらいです。

中村:その600円の席ってお勧めできないですよね?

平安山:ちょっと見る角度が悪いのと、安いので荒くれ者がいっぱい来ます(笑)

中村:もし日本人が見るとしたら、ある程度知ってる人と一緒に5000円の席で見るのがいいですかね。

平安山:記念なんで5000円払っちゃってもいいかと思います。安全ですし。

中村:流石にvipルームとかでトラブルとかは聞かないですか?

平安山:基本ないと思いますけど。

中村:起こったら大事件ですもんね!

平安山:ちゃんと従業員もずっといますし、お金払ってでもサッカーを観にくる人たちですから泥棒もいないです。

中村:サポーターの比較で言うと、例えばFC東京はアルゼンチンのチャントを使うことが多いわけです。例えばボカ・ジュニアーズですね。アルゼンチンのサポーターについては、どう感じていますか?

平安山:アルゼンチンのサポーターは、クラブに対する忠誠心がとても高いと感じました。もちろんクラブによって違うとは思いますけど。

中村:それはブラジルよりもということでよろしいですか?

平安山:そうですね。ブラジル人は、サッカーが好きなんですけど、国土が広いし、治安は悪いしで、なかなか行けないという事情もあります。正直貧乏な人も多いですしね。

中村:ということは、テレビサポーターが多いという印象ですか?

平安山:多いです。どうしてもそうなります。

中村:逆にアルゼンチン人はスタジアムに詰めかけると。

平安山:アルゼンチンは首都ブエノスアイレスに人口が集中する一都市集中型の国です。国の半分以上のチームがブエノスアイレスにあるという状況です。日本に例えるとJ1のうち12チームが東京で、残りの6チームが地方という感じですね。

中村:なるほど。そうなると、観戦文化も当然違ってきますね。

平安山:はい。みんなスタジアムに行きやすいし、隣のチームにバチバチのライバル心もありうます。

中村:確かブラジルは、一部の中でもリーグが別れているんですよね。そうじゃないと無理ですよね。僕らもクイアバに行った時、なんて遠いんだと絶句しました(笑)

平安山:ブラジルには全国選手権もありますが、はじまったのは25年前くらいです。Jリーグと同じくらいの時期ですね。それまではずっと州選手権でした。広すぎて全国大会ができなかったわけです。

中村:あんまりイメージがないんですけど、強い地域というのはどのへんでしょうか。サンパウロとリオ・デジャネイロのチームが強いのはわかりますが。

平安山:ミネスジェライス州のアトレチコ・ミネイロとなんかは強いですね。

中村:ミナスジェライス!資源がとれるとこですね!北のほうはどうですか。サルバドールとか。

平安山:北のほうはお金がない地域で正直ビッククラブはないんですよ。小さいクラブはたくさんあるんですけど。そのなかでも一番大きいのがバイーア、スポルチ・レシフェ(ヘシーフェ)ですね。

中村:レシフェ。僕らがいったあそこですね。。

平安山:その次くらいにビットーリアが来るかなと。

中村:名前は知っているんですよね。助っ人外国人の元所属チームとして出てくるので。

平安山:最近この辺から取ってくることが多いですね。

中村:ビッククラブから持ってくる印象ですか?

平安山:ナンバーワンビッククラブではないんですね。ヘシーフェ、ビットーリアくらいだと、12位から15位くらいですね。

中村:『ハトトカ』の放送の中でも触れましたが、チームが降格しそうっていうことになった場合にそのあたりからハンティングしてくるというお話でしたね。

平安山:そうですね。

中村:話は変わりますが、ペルーのサポーターには何か特徴あったりしますか?ペルーのサポーターの話は誰も知らないかと思います(笑)

平安山:ペルーのサポーターは、サッカーに熱狂的なのは一緒ですがすごく自信がないわけです。サッカーが大好きで大好きでしょうがないんだけど、いつもブラジルとアルゼンチンに負けるわけですね。

中村:あー、なるほど。

平安山:国でもクラブでも同じです。うちのチャンピオンはいつも向こうに負ける、と。

中村:それは悲惨ですね。となると、自信が持てないのは仕方がないところはありますね。ペルーが強くなっていく見込みはあると思いますか。

平安山:取り組みはすごく真面目にやっていて、これからが面白い国だと思っています。実際今回ワールドカップに出ますからね。

中村:南米予選でワールドカップに出る恐ろしいですね。

平安山:本当ですよ。強い国ばかりですから。

中村:弱い国ってあるんですか?

平安山:ちっちゃい国以外はないですよ。一番弱いのがボリビアと言われてますけど、アジア予選に来たら最終予選までは残ってくると思います。

中村:平安山さんから、日本のサポーターはこういうことを取り入れたら面白いみたいなワンポイントアドバイスがあったら是非教えて頂きたいです。

平安山:これはサポーターだけの話ではないと思うんですけど、南米のクラブはクラブの公式ソングを持っていて、それが町中でも聞こえてきます。そうすると、曲そのものがアイデンティティにもなるし、日常的に聴いているので、試合がない時にもクラブへの愛着を深めてもらうことが出来ます。新規サポーターを獲得するという上でも、これはいいなと思っています。

中村:川崎フロンターレのサポーターは、「川崎市民の歌」を歌います。「好きです かわさき 愛の町」。前に川崎市民と一緒に見に行ったら、「あ、この曲、ゴミ収集車が流してる」と言っていました。川崎では日常的に流れている曲を使っているようですね。FC東京はそういうものはないですね。You’ll never walk aloneかアイドルソングか……。定番の曲が日常的に流れていると強いですね。こういった取り組みは、日本ではあまり聞かないですね。

平安山:日本だとなかなかないですね。

中村:曲については、日本だとサポーターのほうで勝手にやっているという体になりますよね。

平安山:そうですね。クラブ側が作っていくことが大事ですね。あとこれは、高度かもしれないんですが、ブラジルやアルゼンチンのサポーターってちょこっとだけ煽り合うんですよ。それを日本人のサポーターがやると、表面だけを見ているので変な方向行っちゃうんですけど。あくまでも友情の延長線上で、ライバル心を出した結果、ちょっと相手を馬鹿にするというニュアンスです。

中村:それは相手もわかってるんですよね。FC東京が「飛ばないやつはサガン鳥栖」とコールしたら、鳥栖のサポーター本気で怒ってしまうということもありました。FC東京はいつも怒られている気がします(笑)。ブラジルやアルゼンチンではこうならないわけですね。

平安山:ならないです。逆に相手も同じように歌ってきます。

中村:それが楽しいんですね。

平安山:あくまでも楽しいの範囲内です。たまに何人かが喧嘩しちゃうことはあるし、そこを真似しちゃう日本人サポーターもいるわけです。悪いところがニュースになってしまいますからね。そうじゃなくて、殆どの人はチャントを楽しんでいるわけですね。

中村:そういえば、松本で緑は大嫌いと歌ったら、大嫌いとは何事かと怒られたこともありました。後は、ネットが荒れますよね。ブラジルのネットは荒れるんですか?

平安山:掛け合いが楽しみでやっているわけなので、荒れるということはないように思います。みんな、本気ではやっていないんですよ。

中村:そういう文化があるわけですね。日本だとネット上の取締りをしょっちゅう見ますからね。もうめんどくさいから追ってもいないんですけど。

平安山:喧嘩のやり方が違うという感じですね。

中村:今のお話は、サポーターの古株などわかっている層はみんなわかっています。でも、わからない人も多いので、ネット上は荒れやすいという感じですかね。

ここで一回区切りましょう。ありがとうございました。次回はコリンチャンスのメンタルコーチが6人いるというお話や、ブラジルのサッカースラングについて伺いたいと思います。


【告知】
4月7日(土)18時から 高円寺のスポーツ居酒屋Kiten!で、平安山良太さんと、サッカー解説者の松田勇希、そして、わたくし中村慎太郎の3人でトークイベントをします。詳細はこちら!席数が限られますのでご予約はお早めに! イベントページ

以下、おまけとして中村慎太郎の感想を記します。こちらについては有料記事とさせて頂きたいと思います。有料である分、固有名詞を恐れずに出して、好き勝手語っています。

分量としては3000字程度です。雑誌の1ページを丸々字で埋めたくらいの量です。是非ご購読下さい!

内容は「スタンドのため息」から始まるサポーター論です。

日本サッカーののびしろは、我々だ!


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日本人が「悲しみのため息」を吐く時、ブラジル人は「気合いの唸り声」をあげる  【平安山良太さんインタビュー vol.1】

中村慎太郎

100円

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中村慎太郎

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