【小話】胃袋を掴め
人柄のいい女将さんの営む定食屋さん。
集客を増やそうと、店内の入り口に
『大盛りを時間内に食べ切ったら豪華景品プレゼント!』
という張り紙を貼った。
常連さんたちは「値段が安くなるのか」、「いやいやサービス券をくれるくらいじゃないか?」と予測し、ワクワクしながら女将さんに尋ねた。
「食べ切った時の豪華景品ってなんだい?」
常連さんたちはこの女将の味に惚れ込んでいたので、大盛りでも食べ切れるかもしれないと挑戦を検討していた。
女将から帰ってきた返事は「食べ切ったらあたしをプレゼントするよ!」。
婚姻届をひらひらさせ、ちょっと頬を赤らめる女将さん。
常連さんは挑戦したい気持ちはあるものの、失敗した際の心の傷を考えるとなかなか一歩踏み出せない。
水面下では牽制しあい、来店の度にあの告知の紙が貼ってあると安堵するのだが、頼むメニューは結局いつもと同じもの。
挑戦者は未だ無し。
女将さんは首を傾げて
「おかしいね。胃袋は掴んでるはずなんだけど」
と挑戦者が現れる日を心待ちにしている。
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