犯人はヤス、-終焉-|第14話|囮り
銃声が鳴った。
悟が振り返ると、フードの男がうつ伏せの状態で倒れていた。
「安!!!!」
フードの中から、安の顔が見えた。
警察官たちへ発砲しながら、安のもとへ向かう。
すると、一台のパトカーが歩道橋から現れた。
銃を構える悟。
「悟! 俺だ! 乗れ!」
運転席から顔を出しているのは、連だった。
理解が追い付かず、銃を向けたまま動かない悟。その目からは、薄っすら涙が流れていた。
蓮は、悟を無理矢理パトカーへ乗せた。
「蓮さん! 歩道橋の上にサヤが残されたままです! 救出してください!」
連は無言のまま、車をバックさせた。
そのまま歩道橋へ向かう。
後ろ向きに走るパトカー。
「悟、後ろを見ろ」
後ろの窓からは、歩道橋が見える。
「え……」
そこにいたのは、サヤを人質に、無表情のまま、二人が乗るパトカーを見る文屋長官だった。
連は、目一杯踏み込んでいたアクセルを緩める。
すると、正面から二台のパトカーが追ってきた。
(止まることはできない)
そこへ、野太いマフラー音が鳴り響く。
脇から現れたのは、三輪警部補が運転するポルシェだった。助手席には、薄っすら橋本の姿が見える。
二台のパトカーの前に割って入り、助手席から橋本が顔を出した。そのまま銃を構える。
橋本が発砲した弾は、タイヤに命中し、二台は回転しながら衝突。
振り向きざまに、橋本は、歩道橋にいる文屋長官に銃を向けた。しかし、引き金を引いても弾が出ない。
それだけではない。
三輪警部補が運転するポルシェのエンジンもかからなくなり、蓮と悟が乗るパトカーも動かなくなった。
4人が見上げると、空から光が差し込んでいた。
その光が差している先は、歩道橋。
4人が歩道橋を見ると、サヤの目が光っていた。
文屋長官が、サヤの能力を使い、4人の車や銃を止めていたのだ。
その間に、4人は警察官たちに囲まれる。
倒れたままの安と、文屋長官の指示どおり能力を使うサヤ。4人にはもう手立てはない。
ちょうど19時。
満月が真上に昇ったこの時間。
海岸から聞こえる波の音が、次第に大きくなっていく。
「何の音だ?」
「海岸の方から聞こえてきます」
海岸の方を見ると、激しく音を立てながら、巨大な津波が、市営住宅のアパートを飲み込んでいる。
悟が屋上にいた時に発生した地震の影響で、津波が発生したのだ。
少しずつ近づいてくる津波。
その勢いが収まる気配はない。
一気に4人と警察官たちは濁流に飲まれた。
最初から、こうなる事が分かっていたかのように、上から眺める文屋長官。
奇しくも、歩道橋にいる二人だけが助かる地獄絵図のような状況になってしまった。
「おい、目を覚ませ!」
橋本が、悟を叩き起こす。
ここは、高台にある寺院の跡地。
悪魔のような生き物が描かれている掛け軸と御堂が、悟の目に飛び込んできた。つい先ほどまで起きていた悪夢を思い出す。
悟は、金の縁であしらわれた座布団の上に寝ていた。布団代わりに、袈裟が、胸から腹にかけて掛けられていた。
「古谷警部、悟が目を覚ました」
後ろから、赤の声がする。
「これで全員か。みんなしぶといな、相変わらず。まぁ、無事で何よりだ」
蓮と三輪警部補も、同じ畳の部屋にいた。
しかし、いつも以上に距離感があるように見えた。
「すみませんでした。僕がサヤを……」
「何も言うな、誰かが悪いとかではない」
すぐに、古谷警部が遮った。
そして、落胆する悟を見て、橋本が言った。
「何も成果がなかったわけじゃありません。貴方の背中から巻物が出てきましたよ?」
「そういえば、巻物……巻物は今、どこにあるんですか?」
「あそこだ。びしょ濡れだが、赤と蓮が今、解析中だ」
線香の煙を使い、蓮が一文字ずつ見えなくなった文字を透視し、赤がその文字をパソコンに打ち込んでいる。
「でも、安が……」
「その話なんだが、少し不可解なことがある。全員聞いてくれ」
蓮が、何かを思い出し、みんなを集める。
「その安なんだが、道路で銃で撃たれ、うつ伏せで倒れていた。だが、津波が来た時、あいつは立ち上がった」
「ホントなのか?」
「ああ。この目でしっかり見た。透視で、安をみてみたんだが、『京』の文字が浮かび上がったんだ」
「京? もしかして……」
「ああ。生きてるんだよ、中島安は。しかも京都にいる」
「なら話が早い。一刻も早く安を……」
「待て! そういえば、悟、あの時、安が五芒星の石をアパートの屋上に置いていったと言ったよな?」
「はい」
「あの場所は、京都からちょうど南東に位置している場所だ。赤、ちょっと日本地図を出してくれ」
赤のパソコン画面に、日本地図が映し出された。
古谷警部が、京都とアパートの位置に、ポイントを打たせた。そして、その二つを、線で結んだ。
さらに、京都を中心に十字に切る。
「赤、京都から縦に入った線とそのアパートの角度はいくつだ?」
「およそ37度くらいかと」
「なるほどな。分かったぞ」
「何が分かったんですか? 警部」
「五芒星だよ。このアパートから京都を結ぶ五芒星の位置が正確に分かれば、安がどこへ向かったかが分かるはずだ。この五芒星は、結界なんだよ。それを、安が張った。理由は分からんがな」
そう言いながら、五芒星の右端に当たる37度の正確な位置を調整し、中心がどこに当たるかを、地図上で探し始めた。
すると、一つの場所が浮かび上がった。
そこは、平安時代に築かれた都市『平安京』だった。
「祇園御霊会か」
「平安京は、863年、都に蔓延する疫病の退散を祈る祇園御霊会を行った。非業の死を遂げた者は、死後もなお怨念を持ち続けている。その怨念は、やがて怨霊となり、自然災害を起こしたり疫病を流行したり、祟りを起こすようになると考えられている。それを、安は封印しようと、五芒星を作ったんだろう」
「文屋長官の狙いどおりになっているとも言えるわけか」
「そのために、サヤが必要だったってことですか? だとしたら、サヤが危ない!」
「慌てるな。計画を練らないと、相手はサヤだ。能力を悪用されれば、俺たちなど、簡単に殺されてしまう」
「それに、ここには巻物がある。これを読み解き、まだ文屋も知らない予言を把握することが大事なんだ。そして、必ずサヤと安を助ける。いいな?」
一度は死んだと思われた安は、京都へ行っていた。
文屋長官の目論みも、サヤを捉えたことで、ますます凶悪化している。
最終局面となる舞台、京都。
平安京にはまだ、悟たちも気付いていない重要なことが隠されていた。
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