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大正スピカ-白昼夜の鏡像-|第18話|疑念

京都の街を映し出す八咫鏡。

八咫鏡によって映し出された地下の世界。

地上と変わらない世界が、目の前に広がるはずだった。

しかし、正篤たちの目の前に現れたのは、空漠くうばくとした剥き出しの洞窟。真ん中には川が流れている。

「気が済むまで、その地下にある宝とやらを探すが良い」

澄子の策。

それは、地下を元の状態に戻すことだった。

澄子は、策を講じるために、サンカたちを地上に移動させていた。

「証拠がなければ、二人の容疑は晴れるはずだ。財宝が地下にあると思っていたのかもしれぬが、それは妄想に過ぎん。ここは、財宝はおろか、人が住める環境ではない」

正篤は、驚きを隠せなかった。

「財宝は、どこへ隠した? 地上に隠せば、見つかるのも時間の問題だ。そんな事、お前なら分かっているはずだ。それに、この場所以外に隠す方法はない。あれだけの量があるわけだからな」

「さっきから、何を抜かしておる? 最初からここに財宝など存在しない。諦めろ、正篤。お前たちの陰謀もこれで終わりだ」

澄子は、事態を先読みし、正篤より先に動いていた。
 



「神岡の陰謀を明らかにするために、私がまずおとりになります。彼は今、一定の考えのもと、動いているはずです。あれから一度も出てきていない安倍晴明。彼との繋がりを、私たちは、危険をおかしてでも解く必要があります。あと、このままでは、彼女も周のように能力を失ってしまいます」

國弘は、衣織が、周がかつて持っていた自分の事まで透視できる能力を持っている人間であると、澄子と鈴子、そして、周に明かしていた。

「彼女は今後、私たちに力を貸してくれるはずです。むしろ、彼女の能力に神岡の陰謀があるのかもしれません。彼女を迎え入れ、サンカの仲間と繋げることで、未来を変えられるのではないでしょうか」

「分かった。我々の一番の目的は、宝とサンカを守ることだ。一度、地下にあるものを全て、地上に移そう。奴らに見つかる前に全て消し去るのだ。地下での生活がばれ、そこに宝があると分かれば、奴なら、サンカの生き残りを抹消しかねん。あえて何もない地下を見せることで、証拠を隠滅するのだ」

「ですが、サンカたちはどこで生活させるおつもりですか?」

「サンカにも一度地上へ上がってもらう。彼らには、もう一つ重要な役目が担ってもらわなければならん」

「重要な役目ですか?」

「そうだ。彼らには、衣織の目眩めくらましになってもらう」

「なるほど。では、あの大量の財宝はどうなさるおつもりですか?」

「ここにおるではないか」

「ここにですか?」

「周を使うのだ」

「僕ですか!?」

「早速、出番が来たな、周。お前はもう、自分に関わる未来は透視できない。だが、今まで見てきた記憶は消されていないはずだ」

「確かに、周は、晴明の仕草について見ることができていました」

「つまり、これまで行ってきた透視の記憶があれば、あの場所に財宝を隠せるはずだ。奴らの盲点となっている、あの場所に……」
 



「おやおや、また会いましたね」

老婆が、周を見て、こう言った。

ここは、地下の洞窟内にある、コンクリートで造られた建屋。

以前、目隠しした状態で連れて来られたこの場所に、周、そして、駿河が姿を現した。

「駿河、お前はこのまま姿を隠すが良い。後に、重要な役目が来る」

澄子に助けられ、駿河は、八咫鏡を持って姿を隠していた。

駿河は、周とともに財宝を運ぶ役目を担っていたのだ。

周の記憶を辿り、透視で場所を特定した二人は、あえて敵地に宝物を持ってきていた。

「大量の宝物をお持ちになられて、どうなさいましたか?」

「お願いがあるのです。扉がたくさん並んでいるあの部屋にこれを隠してもらえませんか? この宝は、日本にとって大事なものです。一時的に預かっていただけるだけで構いません。この場所に置かせていただけないでしょうか?」

「なるほど、そういうことでしたか。ですが、その前にお伺いしたいことがあります。あなた方は、どうやってここへ戻って来られたのですか? 場所を特定するのはもちろん、入ることも許されないはず。入り口に、この場所を護る黒龍がいたはずです。彼があなた方を何もなく通すとは思えません」

「確かに、その通りです。私たちは、貴方がここにいる理由が分かれば、その点を解決できると思ったのです。そもそも、黒龍を扱える人間などいません。つまり、貴方が月光族なのではないかと予想したのです」

「なるほど、我々月光族をご存知でしたか」

「はい。私が持っている八咫鏡は、月光族のご先祖が作られたもの。これを黒龍に見せ、通してもらいました」

「そういうことでしたか。しかし、私は、今世ではとらわれの身。そのような重大なお役目は、さすがに……」

「この宝を隠していただければ、必ず、貴方を仲間たちが住むところへお連れいたします。約束します。この宝物は全て、貴方たちのご先祖さまが作られた物です。彼らのご子息である貴方こそが、この役目に相応しい人間です。どうか、お引き受けいただけないでしょうか? お願いいたします」

駿河と周は、深々と頭を下げ、老婆にお願いをした。

「長年、この日の当たらない場所で、門番として務めてまいりました。今世には、これ以上のお役目はないと思っておりましたが、まさかこんな重大なお役目を私にいただけるとは……。分かりました。これが最後の天命と捉え、謹んでお受けいたします」
 



「やはり、ここにはありません」

正篤のもとへ報告に来た政府職員の男。

それに対し、何も返さず、その場で立ち尽くす正篤。

「ここにはもう用はないはずだ。さっさと地上へ戻るが良い」

澄子が、正篤を煽るように腕組みをし、威圧する。

「そろそろだな」

すると、大勢の政府職員が地下へなだれ込んできた。

「3人を捕らえよ!」

「やめろ! 二人の容疑は晴れたはずだ!」

そのまま、澄子、國弘、衣織の3人は、政府職員たちに捕えられた。
 



3人が連れて来られたのは、京都御所にある一室。

天皇を支える八咫烏たちが並んでいる。

3人は、捕らわれたサンカたちとともに、部屋の中央で膝をつくよう命じられた。

正篤は、一段上がったところに掲げられた垂れ幕の前に立っていた。

正篤が御辞儀をしたのに合わせ、八咫烏たちも頭を下げた。

すると、天皇が現れ、派手な王座に、牙笏げしゃくを頬に当てながら座った。

その光景を見ていた澄子と國弘は、周の言っていた話が頭によぎった。二人は脳裏に焼き付けるように、暖簾のれん越しの天皇を見ていた。

天皇家の身でありながら、その傍若無人ぼうじゃくぶじんな振る舞いと、王の座に相応ふさわしくない横柄おうへいな態度に、全員眉をひそめていた。

「これより、長年隠されてきた宝の詳細と、そこにいる容疑者の事情聴取を始める。ここからは、陛下の前であるゆえ、嘘偽りない回答を求める。嘘は慎め。では始める。まずは、この3名の……」

「そんな話はどうでも良い。ところで、宝はここへ持って来れたのか?」

「容疑者の二人と巫女の澄子が、どこかへ隠したと思われます」

「正篤、お前、ここまで大規模に事を進めておきながら、未だに一つも見つかってないのか?」

そう言うと、天皇は、正篤に向けて牙笏を飛ばした。

牙笏が膝下に当たっても、言い返さない正篤。

しかし、珍しく、天皇の顔を睨んだ。

「何だ? その目は。何か言いたげだな?」

澄子と國弘は、この時初めて、二人に溝ができ始めていることに気付いた。

明治の後期から長年に渡り、天皇家の指南役を務めてきた正篤から見ても、今の天皇の態度は許せなかった。

珍しく反発するような素振りを見せた正篤。

よく見ると、八咫烏たちも、正篤と同じように天皇を睨んでいる。

澄子と國弘は、予想外の事態に困惑しながらも、このチャンスをものにするために、必死に頭を巡らせていた。
 



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