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慣れてもスリリング

最近、レジで免税対応を求められることが増えてきた。一時期減っていたのだが、今月に入って既に私一人で三回も遭遇している。Yさんが三回、Dさんが二回、Mさんも二回。合計十回くらいだから、まあ多い方だ。
観光客の多い店舗に比べれば物凄く少ないが、駅前とはいえ都心のベッドタウン的なこの辺りにしては多い方だと思う。
ゲーム機の免税が取りやめになった(不正が多い為)ので、三階の玩具コーナーの免税扱いはぐんと少なくなったらしい。でも衣料品を扱う我がレジは増えつつあるのが現状である。

ちょっと前までは
「Tax free,OK?」
と言われるとギャーッとなって固まり、オロオロして誰彼をインカムで呼びまくっていた私だった。
免税は一回ずつ、一人ずつ色んな事が起こる。例えは適切ではないかも知れないが、出産みたいなものだと思う。様々なケースがあるから一回一回油断出来ないし、終わるまで絶対に逃げられないし、手間がかかって大変だ。
新米のレジ係の私には長い間、とても一人で手におえるシロモノではなかったのである。

免税と言っても、レジ操作自体はそんなにややこしくない。レジ操作に入るまでの様々な確認作業が多く、それが大変なのだ。
免税するには資格要件を満たさねばならない。先ずはこのチェックが怠れない。
大体は『短期滞在』だ。観光客はこれに当たる。パスポートだけ提示してもらえば良いから、確認するものが少なくて楽である。スタンプの押してある上陸許可年月日を確認し、要件を満たしていれば良い。
『一時帰国』はやや面倒だ。パスポートだけではなく、現地の大使館発行の『在留証明』か、『戸籍の附票』(どこに住んでるか、や日本での本籍地などが書かれている)がないと受け付けられない。それも発行日付が有効かどうか、しっかり見なければならない。
『基地関係者』はもうちょっとややこしい。基地固有の、特殊な確認書類が存在する。ここの店は比較的基地に近いし、Yナンバーの車もちょくちょく見かけるが、来店は少ない。過去にはMさんが一度だけ扱ったことがあるだけだが、来ないとは限らないのでいつも空いた時間にマニュアルを確認するようにしている。
しかし基本的に必要な作業はどれもおおむね同じであるから、慣れれば出来るようになる。

困るのはイレギュラーなことが起きた時だ。
先日来られた中国のお客様の時はちょっと大変だった。パスポートリーダーの調子が悪いのか、スキャンしても読み取らない。
パスポートリーダーは写真のあるページの下の方の『>>><<<』みたいな印字(正式な名称を知らない)をスキャンする機械で、パスポートの個人情報が全て読み取れる優れものだが、読んでくれない時は全て手入力することになる。とても面倒だし時間がかかる。
この時はやむを得ず手入力をした。二年目にして初めての経験だった。滅多にあることではないらしい。
これだけ何回も対応していても、やっぱり毎回『何か』あるのが免税であると、あらためて思わされた。

それでも随分鍛えられて、昨日はとうとう誰も呼ばずに一人で対応してしまった。
普通に短期滞在のお客様だったし、消耗品(使ったら減るもの全て。日本国内で消費してはいけない為、パッキングが必要となる)もなかったし、所謂オーソドックスな免税対応で良かったからである。
この方にお帰り頂くのと前後して、Mさんが出勤してきた。Mさんは、パスポートリーダーを手にしている私を見て目を丸くした。
「今のお客様、免税だったんですか!?」
「はい、短期滞在でしたし、パッキングも必要なかったですし、誰も呼びませんでした。大丈夫だったと思います」
そう答えるとMさんは、
「ええ!凄ーい!!在間さん、偉ーい!」
と初めて全て一人で対応出来た私を祝福?してくれた。
Mさんはいつもオーバーリアクションなので、ちょっと照れたが嬉しかった。初めてのおつかいから帰った子供の気分である。

こんな調子で、もう随分慌てずに対応できるようになった。『習うより慣れろ』である。
しかし、油断は禁物だ。本当に色んな事が起こるのが免税である。
Yさんは先日精算していたら、いきなり画面に『危険物あり』という文言が出て慌てたそうである。お買い上げ商品の中にシャンプーがあり、液体なので発火などの恐れがないものか、レジで確認させる目的で自動的に表示されたらしい。
「一瞬、肝が冷えちゃったよ」
と苦笑いしておられた。
ベテランのYさんでもそんなことがある。

普段から免税だけを専門に取り扱っている百貨店の免税カウンターなどの方だと、こんなにいちいち慌てることはないのだろう。
慣れてきても、高頻度でイレギュラーなことが起こる免税は私にとって、相変わらずスリリングなものであることに間違いはない。
『免税は任せて』と胸を張って言える日は、まだまだ遠そうだ。








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