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どしゃ降りが嬉しい日

今日は朝から酷い降り方だった。私は歩いて出勤するが、店につく頃にはズボンの裾がかなり濡れてしまった。
それでも、私はウキウキしていた。
滅多にないどしゃ降りだからである。こういう日はとても嬉しい。

今日は月に三度ある特売日の内の一回目だ。店の指定する支払い方法で全額支払うとほぼ全ての品が五パーセント引きになる。だからお客様は必死になって、我勝ちにお買い物なさる。必然的に、うんざりするくらい忙しい。
しかしこれだけ雨の勢いが強いと、五パーセントの為にわざわざ出かけようか、という方はグッと減る。特に高齢のお客様は雨の中でのご来店をとても嫌がる方が多い。次の特売日でいいや、となる方も多いのだろう。
来客数が少ないので、当然レジはヒマになる。
お陰で私はいつも以上に、ゆったりとした時間を過ごすことが出来るのである。

こういう日は、いつもはやりたくても時間がなくて出来ない床の汚れ落としを、メラミンスポンジやアルコールを使って丁寧にする。一年ほど前に綺麗に張り替えたのだが、白っぽい為汚れが以前より目立つようになった。春休みでお子さんが多かったせいか、ジュースなどをこぼした後もちょこちょこ見受けられる。放っておくと埃と一体化して取り辛くなるし、第一見た目が悪いから、せっせと取る。
高いところにあるディスプレイの埃を掃う。風の強い日が多く、正面玄関近くの商品には結構な量の埃が積もっている。脚立を使って、丁寧に掃除すると綺麗になった。誰もこんなところ見ないけど、まあ良いや。
こんな具合に気になっていたところの掃除を黙々とやると、天気は悪いけど気分がスッキリする。
ちょこちょこやってくるお客様をこなしながら、綺麗に掃除出来た。

どしゃ降りの日は湿度が高いから、埃があまり舞い上がらない。それは良いけれど、いつもはすうっと滑っていく床掃除のシートが、とても重く感じられる。
でも丁度ウエットシートで拭いたようになるからだろうか、床が綺麗になる。
湿度が高いと良いこともある。

春は縁起を担いで財布を新調する人が多いから、財布の棚が乱れやすい。
これも気になっていたので、棚の埃を掃いつつ丁寧に陳列しなおす。
開けっ放しのファスナーを閉め、外れている値札を付けなおし、小さな汚れがあればクリーナーを使ってそっと落とす。
財布を並べる為のスタンドが放置されているから、それも回収して所定の場所にしまう。これでYさんも次の商品出しがしやすくなるだろう。
ぺちゃんこの鞄にアンコを詰め、とんでもないところに置いてある商品をもとの位置に戻し、左右がハの字に開いたようになって置かれているパンプスをキチンと揃える。
パンプスは両足を揃えた後、左足をほんの少し前に出すのが正しい並べ方である。入社したばかりの頃、靴担当のFさんが教えてくれた。こうすると一番靴が美しく見えるそうだ。
これも汚れや傷がないか、チェックしながら行う。

入学式や入社式で履く為に、パンプスを見に来るお客様ももうひと段落した。ハルタのローファーのコーナーもぐっと圧縮して、同じ場所には夏のサンダルが早くも並んでいる。
流石にお求めになる方はまだごく数人だけれど、そのうち増えていくのだろう。
学生の『部活リュック』コーナーも、ハンカチギフトコーナーも、みんな圧縮である。日傘、サンバイザー、夏のものがドンドン売り場に増えていく。
もうすぐここで三回目の夏を迎えるんだなあ、と感慨深く思いながら、黙々と商品整理をしていく。
誰にも邪魔されず、こんな風に自分と対話しながら、夢中で商品整理するのは幸せな時間である。

洗濯物は乾かないし、ちょっと外出すればびしょ濡れになるし、傘は荷物になるし、本当は雨は嫌いだ。
だけどこんな風に幸せな夢中になれる時間をくれるから、私は仕事のある日のどしゃ降りが大好きなのである。

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