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またかい

今日の私は疲れている。未だ嘗てないくらいクタクタである。全ては今朝起こった事件?のせいである。

いつものように出勤し、朝のルーティン業務を済ませ、何人かのお客様をお見送りした頃、一人の女性客がチラシを片手にやってきた。
「このシューズ、どこに置いてあるの?」
一緒にチラシを覗き込む。
今ウチの店はゴールデンウイークに向けて、各売り場でセールの真っ最中である。毎日何かしらお得な商品が数量限定で出ているのだが、今日はウチの売り場のブランドスニーカーであった。

前任のH課長からは
「チラシは必ず前もって目を通しておくように。お客様から聞かれたら、わからなくて慌てることになりますよ」
と言われていたのだが、いつもついつい後回しになってしまっていた。今回のチラシも私はまだチェックしていなかった。しまった、と思った。
限定四十足。朝一で来ればよりどりみどりだとお客様は考えたのだろう。当然である。
キチンとチラシの商品を確認しておかなかったことを悔いつつ、売り場をウロウロすることになった。まあ探せばあるだろう、と思っていた。

ところが、ない。どこにもない。
二階の衣料品で扱っているブランドだったので、インカムで聞いてみた。が、ないらしい。催事をやっている三階にも聞いてみた。やはりない。
この頃、私はなんとなく嫌な予感がしだしていた。前任のH課長は特売の前日にはキチンとワゴンを組んで商品を並べて値段を書いたポップを付けて、転がしていけば良いだけの状態にしてバックヤードに布をかけて置いていた。しかし、今回バックヤードにそんなものはない。さては。
「大丈夫?商品見つかった?お客様お待ちいただいてるのよね?」
二階のインナー担当のKさんが心配して駆けつけてくれた。
「スイマセン、見当らないんです」
「バックヤードは?」
「見たけどわかりません。二階と三階のバックヤードにも荷物ありますし・・・」
困惑する私がそう答えると、Kさんはインカムで
「Nさん!靴服のバックヤード、確認行ってもらえますか?」
とメンズのNさんに応援要請してくれた。
「もう探してる!二階にはないよ!」
Nさんの声が返ってきた。さすが、早い。にしても一体どこにあるのだろう。
Nさんがバックヤードから戻ってきた。手ぶらである。
「荷物が多すぎてわからん。K課長に電話しようか?」
そう言って下さったが私はそれを遮り、
「いえ、Oさんに架けます」
と言ってすぐに靴担当のOさんに電話した。

「はい、Oです」
昨日は遅番で十時までの勤務だったOさんは眠そうである。申し訳ない。
が、急ぐので事情を説明する。
「え!売り場に出てないんですか?!ウソ!ごめんなさい!」
ビックリして目が覚めたようである。やはりK課長に商品出しを頼んで帰ったらしかった。そんなことだと思った。しかしとにかく今は急ぐ。
「商品、どこにありますか?」
「一階のバックヤード。段ボール四箱分です!ポップは作って、レジの後ろの棚に入れてます!よろしくお願いします!」
Oさんはしきりにすまながっている。しかし彼女のせいではない。
私がメモに
『一階バックヤード 四箱』と走り書きすると、覗き込んでいたNさんが走って行き、間もなく台車に乗せて持ってきてくれた。

「五十パーセント引きのタグ、まだつけてないよね?」
Kさんは自分の売り場の割引タグを持ってきて、次々と商品に貼っていく。任せっぱなしには出来ない。申し訳なさすぎる。
「こっちは私やります」
「オッケー」
二人でやると早い。あっという間に終了した。
「どこに置く?」
Nさんに聞かれて困った。今日は社長の臨店があるので、あちこち綺麗に物がどけてある。が、そんなこと言ってられない。ちゃんと用意をしとかないあんたが悪いんじゃ。ええい、後で社長に怒られろ。
「ここにします」
適当に場所を作って、靴の箱を積んでいく。KさんもNさんも一緒に積んでくれて、無事に商品出しが終わった。
「本当にありがとうございました!」
この店に来て以来、腹の底からのお礼を言う事が増えたなあと思いつつ、NさんとKさんにしっかり頭を下げた。

「おはようございますー」
と笑顔でDさんが出勤してきたのは十一時だった。
「えらい目にあいました」
と笑い混じりに報告すると、Dさんはとても驚いていた。
「ひどい目にあったねえ」
「ホンマですよ。でもNさんとKさん来て下さって助かりました」
「ったく、あの課長、なんとかなんないかな」
Dさんが舌打ちする。

朝の勤務は色々とイレギュラーなことが多い。出勤している人数が少ないから、対応するのが大変なこともある。でも誰かがきっと助けてくれる。直属の上司は助けてくれなくても。
でも良い勉強になった。これからはチラシはちゃんと見て、先に商品を確認しておこう。
やっぱり『上司が頼りないと部下は育つ』ことも再確認した。
今日は早めに寝ることにしよう。