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いっぱいいっぱいです

最近仕事が忙しい。めちゃくちゃ忙しい。心をなくしそうである。パートであることを忘れそうである。世の中が加速度的にコロナ前の日常に戻ろうとしているのを、身をもって感じている。
ハンカチはお別れの贈り物の定番なのか、ホワイトデーを過ぎても相変わらず毎日、たくさんのラッピング依頼がある。新しいリュックを買い求める高校生風の子供とお母さんの二人連れがやって来ると、新入生向けの割引券を持っていないか、いちいち確かめる。キャリーケースを買う若いカップルが来ると、中を開けて使用説明をし、鍵と保証書の確認をする。
それら全てに対応しながらレジを打ち、両替をし、変なオッサンが来れば追っ払い、忘れ物をしたお客様を追いかけ、総合案内所よろしく道案内をしながら商品整理をし、床掃除をする。
とにかく忙しい。

加えてレジシフトの作成がある。これは非常に面倒で、あちこちに気を遣い、労働効率の悪い「仕事の為の仕事」である。
私はこういう「意味のない」仕事が大嫌いである。何時から何時まで、誰がレジに入るかなんて、予め決める意味はあるのか、常に疑問に思っている。実際は決められたとおりに人は入らないからだ。応援に来てくれるGさんの入る時間帯は売り場のメンバーに周知しておかねばならないと思うが、レジ専任スタッフが私一人の状況に於いて、誰が入るかは出勤時間で自動的に決まってしまう。休憩時間に交替するだけだ。
無意味なこと、これ以上のものはないと思っている。だが、いちいちこれをわざわざ二階にある事務所のパソコンまで行って打ち込み、ご丁寧にプリントアウト!してレジ台に貼り付ける、という極めてアナログ且つ非効率な作業をやらねばならない。
ため息が出そうになっている。

更にウチの売り場は今、大改装をやっている。改装に伴う棚拭きや床掃除、ゴミ捨てもここに加わる。
先日入ったバイトの子は、一日来ただけで来なくなった。連絡が取れず、ロッカーの鍵を持って行ったままなので、事務所の人が困っているらしい。
そんなわけで、相変わらず私の業務量は減りそうにない。

なのに一昨日、Mさんが
「在間さん、ボツボツ慣れてきた頃だと思うので、新しい仕事教えますね!」
と課の連絡ノートに書いていた。Mさんには何の恨みもないが、即座に勘弁してくれ、と思った。読んだ、という意味のハンコは押したが、「了解しました」ではないぞ、と思っていた。
しばらくして課長とMさんが出勤してきた。私の顔を見るなり、Mさんが
「ノート読んで下さいました?じゃあ今から早速教えましょうか!」
と言った時、私の中で何かが切れた。

「ちょっと待って下さい。私、今一人で二人分の仕事をしています。要領が悪くてご迷惑はおかけしていると思いますが、これ以上仕事増やされたらやり切る自信がありません。身体も心ももちません。そこまでのお給料も頂いておりません。それでもやれと仰るならここ辞めます。私、もう今いっぱいいっぱいです!」
私があまりにもはっきり言ったせいか、課長とMさんは固まってしまった。

以前の私ならきっと、一人で抱え込んで倒れるまでやっていたかもしれないし、「これくらいのことがさっさと出来ないなんて、私って能力低い」と勝手に落ち込んだり、「そもそもすぐやめるようなバイト採るんじゃねーよ!」と課長を恨んだりしていたと思う。これらはなんの解決にもならない。自分をしんどくするだけである。
今の職場は私以外はみんな超がつくベテランばかりである。この人達は百の能力を持っていて、百十の要求をされたら十だけ頑張れば良い。でも私はまだ二十くらいの能力しかない。百十要求されたらお手上げだ。真面目に頑張っているつもりだけれど、今の仕事で手一杯である。余裕なんてない。
ベテラン社員に新人の頃の気持ちになってくれ、といっても難しいことだろうと思う。誰にも悪気はないのは分かっている。でも言わなければ伝わらないことはある。
思いがけない形にはなったけれど、本音を伝えられてスッキリした。思ったほど後ろめたくなかった。

その日の夜、帰宅した夫に
「今日、切れてもうた…」
と仔細を話したら、
「ええこっちゃ。お前、やっと我慢せんと本音言えるようになったな」
と喜んでくれた。
ちょっとしょげ気味で報告したのだが、夫は
「それでええ、それでええ。自分を大事にせえ」
と終始ご機嫌だった。

私が発言してから、明らかに課長とMさんの態度は変わった。一人しかいないレジ専任スタッフが辞めたら困るからだろうけど、理由は何でも良い。
分かってもらえれば、まわりはそのように対応してくれる。大切な「私」を店の生贄に差し出す義務は私にはない。

という訳で、私今いっぱいいっぱいです!求む、有能な新人さん!