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男同士の話

若い頃の職場の上司に、Kさんという人がいた。内勤の課長補佐で、仕事の出来る人だった。
根っからのスケベで、今だったら完全にセクハラになるような行為を、しょっちゅう私達女子行員にやっていた。すれ違いざまに『オハヨ』と言いながらお尻をスルっとなでるのである。近づいて来るとみんないつも身を躱すようにしてすれ違うように心がけていた。
なのに憎まれない、不思議な人だった。

見た目は映画『ツインズ』のダニー・デヴィートのよう。小柄で頭がやや薄く、太目でもあった。
しかしそんな外見とは裏腹に、人の心をつかむ術は恐ろしく心得ており、お客様にはKさんのファンが大勢いた。カラカラと明るく豪快に笑い、大雑把な感じはするのに、事務手続きなどは完璧で手を抜かない。お客様の様々な話をよく覚えている。相手の懐に入るのが上手で、気付くと話に引き込まれてしまう、という人が大勢いた。
若い頃はかなりの業績を上げた、腕利きの営業マンだったというのも頷けた。大きな病気をしてから本人が志望して内勤に代わった、ということだったが、心の中はずっと営業マン時代と同じだったに違いない。

Kさんには凄い美人という噂の奥様と、小学生の息子さんがいた。
それだけなら平和だったのだが、人たらしのKさんは実はモテ男でもあった。そして行内の特定の若い女子行員と堂々と不倫関係にあった。
店長も何度か転勤させることを考えたらしいが、その度にお客様との太いパイプを持つKさんを出す勇気が出なかったようで、彼は結局ずっと店にいた。
私は噂は聞いていたが、そんな現場に出くわしたこともなければ興味もなかった。ただ『あんなチビデブハゲ三拍子そろったオヤジにでも、そう言う事は出来るんだなあ』と感心していた程度だった。

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