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アドビシステムズの人事制度「Check-in」(ノーレイティング)

こんにちは、フリーランス人事をしている、はやとです。

これまでHRに関わる記事をいくつか書いてきましたが、
具体的な人事戦略や人事制度を考えていく上で皆さんが参考にしたいのは
「他社事例」だと考えてます。

好評であれば、シリーズ化も考えたいと思いますが、
まず第一弾は、働きがいのある会社としても有名なアドビ(アドビシステムズ)について今更感はありますが、良い事例ですので、解説していきます。


人事制度「Check-in」の特徴

アドビは、2012年にノーレイティングと言われる人事制度「Check-in」を実現しました。
日本でも3~5年前に流行った概念ですが、まさに10年以上も前に行っています。

ノーレイティングとは、A・B・Cなどのランク付けをしない人事評価のことを指します。

アドビの人事制度の特徴は大きく3つあります。

①3か月に1回以上のペースで、個人の成長にフォーカスした内容を話す面談を設ける
②面談記録は自由フォーマットで人事に提出する必要がない
③上司が、部下の昇格・給与を決められる

①については、面談の内容と面談のペースが秀逸です。
通常、年に1回、ないしは2回の面談だったものから、最低年4回を必須として、上司部下の会話回数を増やしました。
また、その面談時の内容はある程度人事がフォーマットを用意して、上司の負荷を減らすと共に、効果的な内容にしているのです。

②についても、上司の負担を減らしています。
面談の回数をこれまで以上に増やすということは、1人当たり増やした回数だけ負荷がかかります。
通常、上司は8人程度の部下がいるので、×8倍の負荷がかかってしまいます。
そこで、面談記録提出を必須とせず、行っているかどうかだけを管理する方式に変えたことで、上司の負荷を少しでも削減しようとしています。
人事とは、人事管理(=HR)ではなく、人材開発支援(=HD)のための組織であることを端的に表す素晴らしい運用だと思います。

③については、外資系のノーレイティング実施企業ではよくある内容です。
評価自体は行うのですが、ランクごとの相対評価による給与支給ではなく、これまでの絶対評価を踏まえて、各上司の予算内から給与を決めるというやり方です。

人事制度「Check-in」を導入した背景

アドビが人事制度「Check-in」を導入した背景は主に2つありました。

①上司の評価に多大な時間を要していた
②評価結果通知後に離職が増えていた

まず、アドビの場合は、それ以前の年間評価では、上司は、定められたフォーマットに評価内容を2ページにもわたり記載しなければなりませんでした。
また、部下1人に対して5人の関係者からフィードバックコメントを集めなければならず、1人評価するのに8時間要していました。

それだけ時間を要しているにもかかわらず、評価すると離職されてしまう。
一般的に相対評価をすると、最高の評価をもらえる人は10%ほどのごく僅かであり、レイティングをつけられるだけで、大半の人のエンゲージメントは下がってしまう事実があります。
「有用なフィードバックが得られない」「評価に納得できない」などの理由で離職につながっていました。

人事制度「Check-in」を導入した結果

結果として、定量的に効果があり、経営インパクトの大きいものになりました。

①上司が査定に費やす時間は合計年間10万時間以上削減
②離職率は過去最低の水準
③従業員満足度調査結果上昇
④会社業績向上
⑤株価10倍以上

メリットしかないですね。

本事例から推察されること

これを見て、「うちもノーレイティング始めよう!」と思ったあなたは危険です(笑)

アドビの導入背景や文化的なものにおいては、成功したというのがポイントです。

ノーレイティング≒リアルタイムフィードバック≒コミュニケーションの質の向上による評価の納得性向上

つまり、ノーレイティングを行うことで、評価の納得性を高めることにつなげる必要があり、納得度がこれまで低い理由としては、フィードバックサイクルが遅く、ビジネスサイクルに追い付いていない、上司との関係性が築けておらず、評価の理由もあまり分からないということが多いので、何度もフィードバックを行っていくことが手段となります。

アドビでは、上司の負荷を当時より減らすよう、人事が努力したことに成功のポイントもありますが、通常は、上司負荷が増えるので、いかに負担がかからない運用をするかも大きいポイントです。

また、上司のレベルが高く、部下も一定自走能力が担保されていて、上司に対する信頼感がなければ成立しない話です。中小企業が行う場合は、この辺りがネックになるケースが多いように思われます。

細かい話も含めると日本企業が行おうとすると、以下のようなハードルを乗り越える必要があります。

・リアルタイムフィードバック/目標を容易に可視化/記録する仕組みを用意する
・マネージャーへの権限は給与原資からの給与配分までできる能力があるか考える(部下の昇格までが現実的)
・ローパフォーマー管理はどうするか考える(代謝を促す仕組みにするのかどうか)
・降格、定年後再雇用者への扱いをどうするか考える(一般的に日本人は評価を厳しくつけにくい傾向)
・逆に上司によって評価差が大きくなる場合も考えられ、上司への評価基準・トラッキングの仕方を考える

ノーレイティングは、リアルタイムフィードバックを行うと、負荷がかかるものなので、一般的には、部下人数が少ないベンチャー企業に有利で、採用活動においても、大企業との差別化も図りやすくなります。

ただし、間違った運用を行うと逆効果であり、「管理職教育」が鍵を握ります。

管理職になるのも「プレイヤーとして圧倒的成果を出した」を条件にすると失敗する可能性が高まり、「プレイヤーとして成果を出しつつも、周りへの成長支援意欲や信頼度があるか」を条件にして、プレイヤーとして圧倒的成果を出している方については、専門職などの複線型制度にしていくことが現実的かと思います。

最後に

ご覧いただき、ありがとうございます!

読んでいただいた皆さんのご参考になれば幸いですし、ぜひご意見いただけたらありがたいです。

これからも定期的に記事にしていきますので、ぜひお気軽に「スキ」お願いします!

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