和声法と和声聴音の基礎感覚 第0回

 とりあえず「第0回」と銘打ってみたものの、ちゃんとシリーズとして続いていくかどうかは謎です。普通に「これ別に需要無いなあ」と悟ったらやめます。

 私がこれから記述しようと試みるのは、西洋クラシック音楽の和声の仕組みを学び、実際に和声を耳で認識するために、どのような考え方が有用か?ということです。もちろん巷には偉大な先生方が執筆された和声法の参考書が既に何種類もあり、ことさら真新しいことを書き加える余地は無いように思えます。とはいえ一方で、音楽大学に入学した(作曲科以外の)人たちが和声法の授業で苦労したり、参考書を手に取って和声法を独習しようとする人たちが困難に突き当たる例もしばしば目にします。また、理屈として和声法を理解していても、それが音楽を聴く耳と繋がっていなければ、じゅうぶんに知識が活かせていると言えないでしょう。音楽大学に入る人たちのほとんどは「ソルフェージュ」の一環として和声聴音の訓練を積んでいるはずですが、せっかくならば「聴くこと」と「理屈」を同時に考えてみたいものです。そういうわけでこの文章を書くことにしました。

 そもそも和声的テクスチャーは次の三つの要素を持っていると思います。

⑴ 各声部の旋律的な流れ(継時的な動き)

⑵ 各瞬間の同時的な(複数の音の)響き合い

⑶ 響きの質感の(継時的な)変遷

……中途半端に堅苦しく、中途半端にフレンドリーに書いたら何が何やら分かりにくくなってしまいました(苦笑)少し説明を加えてみましょう。まず⑴について。和声というのは当然複数の声部(パート)によって構成されているわけです。これはピアノ演奏のみを学習してきた人が軽視しがちなことですが、合唱や管弦楽合奏を考えてみれば明らかなことです。弦楽器は限定的ながら重音奏法が可能ですが、基本的に一人の人・一つの楽器は一つの声部を担いながら、音楽は進んでいきます。そして各声部の動きの質感(例えば滑らかに上昇しているとか、乱高下しているとか)が織り合わさっているのです。専門的な言い方をすれば、和声法は対位法を内包しています。なお、和声法や和声聴音においてソプラノ・アルト・テノール・バスの四声合唱体を「標準」として学習するのは、基本的な種類の和声を扱うにあたって過不足ない声部数で、音域の配分としてもバランスが良いため、これを学んでおけば様々に応用しやすいと考えられているからです。

 次に⑵について。これは分かりやすいかもしれません。要するに一つ一つの「縦の響き」がどうであるかということです。長三和音・短三和音とか、根音が何であるかとか、転回形がどうであるかとか、そういうふうに記述できます。

 最後に⑶について。これは和声の「進行」と呼ばれる概念を指しています。例えばドミナント和声からトニック和声へ進むというように、ある響きからある響きに移行することである一定の秩序が認識されるという、いわば音楽において共有されている「約束事」です。こう書くと何やら教条的で茶番じみているように感じてしまうかもしれませんが、音楽に限らず文化はこうした「約束事」をめぐる遵守と逸脱の駆け引きという性格を持っているものです。

 イントロダクションとしてはこれぐらいで良いでしょうか(何しろ第0回なので)。終わりに和声聴音の例題を一つ提示しておきます。

【例題1】次の譜例を見て

スクリーンショット 2022-04-03 23.24.01

⑴ ソプラノの旋律を歌ってみましょう。

⑵ 下掲の音源を聴いて、譜例の欠落部分(第2〜4小節のバス・第4〜6小節のアルト)を書き取りましょう。何回聴くかの制限を設ける必要はありません。

⑶ 全体を聴きながら、或いはピアノ等で弾きながら、一声部ずつ歌ってみましょう。

(発展) 様々な長調に移調して弾いたり歌ったりしてみましょう。

(↑ファイル名で「解答」の変換を間違えたことに気付きましたが、修正するのも面倒なのでそのままで…)

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