和声法と和声聴音の基礎感覚 第2回

§1 声部の書法②

 前回(https://note.com/haydnique_1210/n/n0edb8dd3b3f9)からえらく時間が経ってしまいました。正直自分でも忘れていたのですが、思い出したので執筆します(需要があるかどうかはさておき)。

 前回は各声部の旋律線を大まかにどう設計すれば良いか、ということを考察しました。今回はいよいよ声部間の関係の原則について述べていきます。そもそも和声法の理論における声部間関係の規範は、ルネサンス以降のポリフォニー音楽の技術(対位法)の伝統を引き継いでいます(「声部の書法」と言っている時点でその基盤には対位法があります)。もっともここで対位法の理論に深入りすることはしませんが、重要なポイントは「反行は好まれる」ということです。反行というのは下の各例のように二声部が逆方向に進行することです。

反行の例

これに対して二声部が同方向に進行することは並行と言います(さらに言うと、片方の声部が異なる音に進行し、もう片方の声部が同音に留まることを斜行と呼んでいます)。

左二例:並行/右二例:斜行

さて、実際にはわれわれは四声体を扱うことになるわけですが、四声部全てが並行になるのは避けることから考える、すなわち反行や斜行が含まれる進行を優先的に考える、というのが私のおすすめです。もっともこれは絶対的なルールではありませんし、全声部が同方向に動くのが良い場合もあるので、あくまで一つの考え方の拠り所だと思ってください。具体的な例を示すと、下のようなのは悪い例です。

1番目(の和音)→2番目、2番目→3番目で全声部が並行している。その結果として…

全ての声部が並行になっている結果として、連続8度や連続5度といった「禁則」(次回解説する予定です)が多発しています。連続8度、連続5度というのは名高い禁則で、少し和声法を勉強したことのある人なら必ず耳にしたことがあるでしょう。もしかすると音楽学校の和声法の試験でこれらの禁則を多く犯してしまい大幅な減点を食らってしまった、という忌々しい思い出のある人もいるかもしれません。実のところ、これらの禁則は「四声部全てが並行になるのを避ける」という考え方を持っておくだけで自然と回避できる可能性が高いのです(ただし、繰り返しになりますが、この考え方を適用しなかったからといって必ずしも問題が起こるわけではありませんし、逆に適用すれば絶対に問題が起こらないわけでもありません)。

これら二例は全く問題が無い。

 今回はこのあたりまで。次回はいよいよ様々な「禁則」について、そもそも禁則とは何なのかというところから説明していけたら良いなと思っています。

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