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第89話「世の中はコインが決めている」

 正論くんがノートに書いた詳細を見せてくれた。十年前、絵馬カナエは銀次郎が設立した『名もない会社』へ誘われる。同時期、鳥居二子も誘われたと思われる。だが同年、鳥居二子は家を出て行ったきり帰って来ない。

 数年後、銀次郎がスナックを訪れる。そして、草刈華子(ハナ)へ絵馬カナエが亡くなったことを話した。

 このとき、ハナちゃんは絵馬カナエが銀次郎の愛人だということを知る。銀次郎本人から聞いたからだ。但し、絵馬カナエが亡くなった理由は教えてもらっていない。だけど実際は、絵馬カナエは『名もない会社』で社員として働いていた。

 その後、僕たちが契約社員として『名もない会社』で働くことになる。工場で謎のピースを組み立てる仕事。ピースは人間の身体の部分で、会社の決まり事で秘密主義だった。

 つまり謎の商品だった。

 始まりは『名もない会社』で働く男、賽銭の話から始まった。工場の地下室。地下室の存在は誰もが知っていた。だけど、地下室へ行ける人間は店長の阿弥陀のみである。

 だが、深夜の作業中に怪しい人物と店長が地下室へ入って行くのを賽銭の奴が目撃している。それを聞いた正論くんは、地下室の秘密を調べようと僕を誘った。

 調べていくうちに、店長の阿弥陀が商品を横流している可能性が出てきた。当社の顧客は全て富裕層で店長は欠陥品に目をつけて、地下室で受け渡してることが予想できた。

 それから僕は秘密を調べようと、鬼の班長と呼ばれる絵馬さんへ近づいた。当時、絵馬さんは店長の愛人だと嘘されていた。

 実際は、店長の愛人でもなく絵馬さん自身も、ピースと呼ばれる謎の商品が何なのかは知らなかった。

 そこから物語は大きく変わる。

 調べていくうちに、昔、絵馬さんがスナックで働いていることを知る。そこで工場の近辺、商店街のパン屋で長年働いていた破魔弓子から有力な情報を得る。

 そして一つの事件が起こる。大学時代の知り合い縁日かざりが現れて、弓子さんと僕の関係を疑い弓子さんを殺害してしまう。

「まぁ、大まかにまとめたんだけど、細かく見たらもっと色んなことはある。でも、とりあえずここまでは良しとしよう。そこで一つの仮説を説明する」と正論くんが耳たぶを触りながら言う。

 これはどう考えても楽しんでいる。そこは無視して彼の仮説を聞くことにした。

「今回、縁日かざりの件で狛さんは命を狙われた。だけど、彼女は助かっている。そこで僕は、狛さんが警察へ事情聴取される前に話したことを覚えてるかい?」

「ああ、覚えているよ。君は狛さんへ警察に事情聴取されても、縁日かざりに襲われたけど包丁で刺されなかったと説明してほしい。そう言ったんだよね。あのとき、僕も意味がよくわからなかった。確かに、縁日かざりは狛さんを襲っている。でも、彼女が手に持っていた包丁に血糊みたいなものは見られなかった」

「それは僕も確認してるから間違いない。でもあの状況を見たら、狛さんが襲われなかったとは思えない。恐らく、狛さんは縁日かざりに襲われて包丁で刺されたはずだ!」と正論くんが自信満々な顔で言う。

 異論はなかった。現に狛さんは唖然した顔で立っていた。それに縁日かざりの様子もおかしかった。妙だったのは彼女が警察に連行される際、僕に言った言葉だ。

『私は刺した。この人を刺した。でも死ななかった。死ななかったの』とハッキリ聞いた。あれはどういう意味だったのか?

「鳥居くん、僕の仮説だと狛さんは絵馬さんと同じく一度死んでいる」

「!?!?」

 衝撃の発言だったが、僕はその言葉を聞いたとき、すでに正論くんが謎を解いていると思ったのだった。

第90話につづく

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