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第73話「世の中はコインが決めている」

 今から数年前、大学二年の夏まで物語は遡る。当時、僕はくだらないサークルに無理矢理入らされた。廃墟巡りというサークルで肝試し目的で、夜中に訪れるという馬鹿げた活動だ。

 但し、本来の目的である廃墟巡りというのはあくまでも口実だった。この日、昼過ぎに同級生の一人、神宮寺から連絡を受けた。連絡内容はサークルの集まりだった。勿論、僕は速攻で断る。この頃、人間嫌いが加速していた時期で、サークル活動なんて以ての外でもあった。

「お前な、一度でも参加したことあるのかよ。大体、前から思ってたんだけど、付き合い悪いっつーの!」と神宮寺が電話口で文句を言う。

「付き合いが悪いのを承知で、お前は誘ってきたよな。だったら僕が断っても想定内だろ」と僕は冷たくあしらった。

「ちょいちょい、理論的に言うなっつーの!」と神宮寺が焦って言う。

 全く理論的に言っていない。何を聞いて理論的とか言うのか理解し難い。神宮寺なんて立派な名前だが、僕からしたらコイツの頭の悪さは一級品だった。

「なぁ、頼むよ。一つ上の先輩が煩いんだ。今回だけ頼む!一生のお願いだっつーの!」
電話口の向こうで、必死になって頭を下げてるのが目に見えた。だが、僕も安易にサークルへ参加した責任もあったので、ここは僕の方が大人な対応をすることにした。

 神宮寺も神宮寺で、可哀想に思えてきたからだ。

「わかったよ、今回だけな。それと今回をもって最後にする。その条件をのんでくれよ」と僕は念を押して言う。

「サンキュー、助かったよ。明日の七時に大学前のファミレスへ集合な」

「メンバーは?」

「五人、先輩の倉木さんと麻呂。もう一人来るけど、そいつは新メンバーで知らない奴。まぁ、お前も初めての廃墟だし楽しもうぜ!」と神宮寺はそれだけ言うと電話を切った。

 今回を最後にサークルは抜けよう。それだけを思いながら、僕は憂鬱な朝を迎えるのだった。

 翌日、午前中の講義を受け終わると、午後の講義も真面目に出た。頭の中で今夜の廃墟が中止になれば良いのにと考えていた。

 だが、この日は朝から天気は快晴で、廃墟に行くには絶好の日だった。

 そして、約束の夕方になった。

 待ち合わせの大学前のファミレスへ足を運ぶと少し早く来てしまった為、まだ誰も来ていない。適当に席を選んで、コーヒーを注文する。全員時間にルーズなのか、約束の時間になっても一向に現れない。

 帰っちゃおうかな……

 なんて思ったとき、僕の席に一人の女性が近づいて来た。誰だろうと見ると、パッと目は歳下っぽい女の子だ。女の子は真っ直ぐに僕の席へ向かって歩いて来た。

「あの〜、もしかして廃墟巡りのサークル活動してる人ですか?」と大きな目をした女性。いや、女の子と言った方が正解だろう。とにかく、その子は僕に向かって満面の笑みを浮かべるのだった。

 これが、縁日かざりと初めて会った日のことだった。

第74話につづく

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