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第77話「世の中はコインが決めている」

 火の玉は科学的に立証されていると聞いたことがある。オバケという類ではなく、科学的に火の玉っぽい青白い光が浮遊するらしい。

 詳しくは知らないけど、テレビで観たことがあった。

「なんやなんや、面白いことになってきたで!ほな、もっと奥に進もうか!」と倉木先輩が面白半分に言う。

「鳥居、お前怖いんじゃねぇの。怖かったら車で待ってろよ」と神宮寺が笑いながら言う。

 そう言ってくる奴ほどビビってる。なんて言わないが、神宮寺の言葉は無視するのだった。

 妙なテンションのまま、僕たち五人は距離を保ちつつ奥へと進むことにした。しばらく経ったとき、隣の縁日さんがサンダルが脱げたと言ってきた。

「先に行ってるで」と倉木先輩が言うので僕は立ち止まって、どうぞ行って下さいと言葉を返した。

 縁日さんの足元を懐中電灯で照らすと確かに裸足だった。どの辺だろうと、縁日さんの肩を支えながら来た道を戻る。

 前の三人と数メートル離れたとき、縁日さんが「あったあった」と片足でケンケンしながら前へ進む。

「ほら。あって良かった」そう言って、僕の方へ拾い上げたサンダルを見せるのだった。

 僕は履きやすいように、縁日さんの足元を照らしながら近寄った。キャミソール姿の縁日さんの上半身が照らされる。

 そのとき、彼女が上目遣いで見つめてくるのだった。どこか小悪魔っぽく笑っている。

 なにか言いたいのか、そんな風に思ったとき、キャミソールの肩紐が片方だけ肩からスルリと落ちた。

 懐中電灯の光に照らされる白い乳房。なんと彼女、初めからなのか知らないがブラジャーを着けていなかった。そのため、片方だけ乳房が丸見えになった。

 一瞬、目を逸らすことも忘れて、懐中電灯の光に照らされた乳房を見たまま固まった。

「いやぁん、エッチね」と縁日さんはそう言って、キャミソールの肩紐を肩にあげて隠したのだった。

 ずっと思っていたけど、明らかに彼女は誘っているように思えた。僕のどこが気に入ったのか、とにかく男心をくすぐるような行動をしていた。

 なんだこの女!?

 何か言い返そうとしたとき、背後から倉木先輩の声で、「こっちへ来てくれへんか」と声が聞こえた。すると、縁日さんは立ち上がって行こうと言って歩き出した。

「おー、こっちや。ほら、二階に行ける階段発見や」

「おお、先輩。いよいよ本格的な雰囲気になりましたね!」と神宮寺が盛り上げようとヨイショする。

「ほんなら、こっからは例のモノで撮影しよか。神、アレ出して」と倉木先輩が神宮寺に向かって言う。倉木先輩は神宮寺のことを、神(じん)と呼んでこき使っていた。

「ジャーン!ビデオカメラ持ってきました。これで撮影します。奮発して性能の良いカメラ買ったんですよ。暗い所でもバッチリ撮れますから」

「神、でかした。ほんならは撮影は露子、頼むわ。俺の背後から撮るように撮影してくれるか」

「先輩、私より、かがりの方が良いですよ。私、機会オンチなので失敗するもん。かがり、あんたは大丈夫でしょう。頼むね」麻呂さんはそう言って縁日さんの方を見た。

 一瞬だけ縁日さんは表情を変えたが、倉木先輩の機嫌が悪くなると空気を読んだのか、神宮寺からカメラを受け取ると素直に撮影係を引き受けた。

「よっしゃ!新人のかがりちゃん、頼むで!ほな、行きましょか」と倉木先輩と神宮寺が先頭に立って二階へ続く階段を上がり出した。

 まるで撮影部隊について行くスタッフみたいだ。なんて思いながら、僕もあとに続いて階段を上がった。亀裂の入った階段は危なっかしいけど、無事に二階へ着くとわりかし広いホールみたいな場所に出た。

 病院の待合室みたいな場所。受付みたいなところで廊下が二手に分かれており、部屋もいくつかあるみたいだ。

 ここまで来ると、さすがに雰囲気はホラー病棟である。

「倉木先輩、これ見て下さい。病棟内の案内図みたいですよ」と麻呂さんが柱に貼られた案内図を見て言う。

「ホンマやな。これを見る限り、なかなか広いやん。こっちとこっちからも三階へ行ける階段があるんやな」

「へぇ、そうなんだ。だったら二手に分かれません。三階の待合室で集合するの。全員で行動するより、スリルがあって面白いと思うんです。私とはじめくんで西棟から行って、先輩たちは南棟の階段で来て下さいよ」と麻呂さんが提案するのだった。

「面白そうやん。ええで、ほんなら神とかがりちゃんついて来い!鳥居、ビビって遅れんなよ!よっしゃ、ほんなら行こか!」と倉木先輩はそう言って南棟の方へ歩いて行った。

 もちろん神宮寺は言われた通り、先輩のあとをついて行った。縁日さんは撮影係だったので、チラッと僕の方を見てから渋々あとを追うのだった。

 三人の姿が暗闇の中へ消えたとき、麻呂さんが長椅子に座って深い溜息をついた!?

「どうしたの、行かないの?」

「えっ、行くけど。ちょっと疲れたのよ。やっと先輩と離れることができたから。だって私、あの先輩苦手なんだよね。ウザくない?なんで関西弁で喋るのよ。意味わかんない」と麻呂さんが毒舌のある言葉で言う。

 そんな麻呂さんに僕は笑ってしまい同感した。確かにウザいはウザい。しかもエセ関西弁で喋るところがウザすぎる。

 だから麻呂さんは、二手に分かれようと言ったんだ。

「やっぱり、はじめくんも同じ意見だよね。まぁ、悪い人じゃないんだけどね。それじゃあ行こっか」

 こうして僕は、麻呂さんと二人っきりで西棟の方から行くことになるのだった。

第78話につづく

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