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勝ってオオアゴの緒を締めよ

何度も書いているが、私はオオクワガタをブリードしている。
あくまで趣味でしているだけだが、
毎年20~100頭ぐらいの幼虫を飼育して
それらを成虫にすることを楽しんでいる。

こうして文字だけで読むと一体何が楽しいのかと
思うかもしれないが、
飼育環境を変えたり、エサを変えることで
最終的出てくる成虫の大きさや美しさが
異なってくるのがたまらなく面白いのだ。

幼虫がどのような栄養素を取れば大きくなるか、
どのような温度域で飼育すれば綺麗に羽化するか、
毎年色んな仮説を立てながら飼育をして
その結果を楽しむのである。

今年羽化してきた個体はすこし温度管理をした影響で
例年よりも1か月半ほど遅く羽化した。

なので、先日ようやく新しい成虫を
掘り出してサイズを測る機会があった。

今年試しているのは久留米と能勢YGの2血統。
オオクワガタの産地として両方ともに大型個体が
出ることで有名な血統である。

去年は大型個体を得ようと工夫した結果
サナギから成虫になる過程で失敗して
体が変形していしまう個体が数匹でてしまったので
今年はその対策をしていた。

一つ一つの飼育瓶から成虫を掘り出して、
その様子とサイズを確認して記録していく。

すると、今年はとても不思議な現象が見られた。

残念ながら今年のオスは大型個体と言われる
ラインである80㎜を超えるものは出なかったのだが、
どういうわけか、メスが大型個体を連発したのである。

オオクワガタのメスは50㎜を超えれば大型と呼ばれ、
ギネス記録は60㎜を超えるそうであるが、
どういうわけか今年は50~55㎜の個体がゴロゴロと
出てきたのだ。

クワガタと言えばオスの猛々しいオオアゴをみて
楽しむ人が多いので、
どちらかというとメスは地味な見た目なのだが、
ブリーダーからすれば大型のメスは産卵数も多く、
子供も大型化しやすいと言われているので
とても嬉しいものである。

そんな喜びを味わいながら今年の結果を
簡単にまとめていたのだが、
ふと私は大事なことを忘れていることに気が付いた。

それは今年の結果がなぜ得られたのかを
明確に特定することである。

この要因を特定し、記録しておかなければ
次に大型のメスを再現しようとしても
再現することができなくなってしまう。

実験に偶然はつきものであるし、
世の中に出ている多くのヒット商品はその偶然から
生まれたというのはよく言われることであるが、
それはその偶然の要因をしっかりと特定して
再現することができたからこその結果である。

私達はついつい何かいい結果が出たときには
喜びに満たされるあまり、
いい結果が出た要因の特定をおろそかにしがちである。

昔から”勝って兜の緒を締めよ”と言われるように
上手くいった時こそ、しっかり気持ちを引き締めて
事象に向き合うべきなのだ。

そこから今年の羽化個体の飼育条件と向き合い、
私なりの成功の仮説ができたし、
同時に今年オスのサイズが伸びなかった要因も
仮説を立てた。

今年も色んな仮説が生まれたので
これを次の飼育個体に反映させて結果を見てみようと思う。

今年生まれた幼虫が羽化するまで約1年。

結果が出るまで1年間待たなければならない
壮大な実験であるが、
やはり私は実験が好きな根っからの理系なのであろう。

昆虫を販売するショップのオーナーを見ていると
結構年配のおじさんが多いのだが、
彼らもこの壮大な実験を長年楽しんでいるのかもしれない。

総じて彼らは昆虫の話をするときは
子供の様に嬉しそうに話をするが、
10年後、私もそんなオヤジになっている姿が
うっすらと浮かんできた。

ちなみに”勝って兜の緒を締めよ”と書いた時に
「これがカブトムシの話ならオチに使えるのに」
と思ってしまったのはここだけの話である。

とは言え、この記事のサムネイルに使った画像の兜は
どちらかというとクワガタっぽい気もする。
いずれにしてもオチに使ったので良しとしよう。



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