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山下達郎ワークスの重要シンガー、近藤真彦。

  今月のレコード・コレクターズ(2023年6月号)は、山下達郎特集である。1976年から1982年にかけて在籍したRCA/Airレーベルに残したアルバム8点がアナログ盤で再リリースされるという企画が進行中ということで、その時代のキャリアに限定した特集となっている。
彼の特集は、過去に企画倒れとなったことがある。20年ほど前だったと記憶しているので、おそらく、2002年にRCA/AirイヤーズのCDが再発されたタイミングであったかもしれない。次号予告欄で告知されたものの、中止となった。レコード・コレクターズという雑誌は、特定のミュージシャンの作品をアーカイブ的に総括して論評するという性格をもっている。そのころの山下達郎は、アルバム『COZY』や『ON THE STREET CORNER 3』をリリースした直後であり、今以上に現役感が強かった。年齢的に考えても、自分の作品がそのような立場で特集されるのが許せなかったのかもしれない。山下側からストップがかかったためにその特集が流れてしまったのではないかと、私は考えている。今回はキャリアの一部分にのみスポットを当てた特集ということでGOサインが出たのではないだろうか。
そういえば、過去にはトリビュートアルバムも企画倒れになったことがある。ある資料によると、2004年6月16日にBMG JAPAN から発売される予定であったようだ。収録される予定であった作品として、オリジナル・ラブの「あまく危険な香り」やキンモクセイの「踊ろよ、フィッシュ」が挙がっていた。前者は、2004年7月22日のシングル「沈黙の薔薇」のカップリングとして発売された。また後者は、2004年12月22日に発売されたアルバム『NICE BEAT』の初回限定ボーナスCDに収録された。(1997年に加山雄三のトリビュートアルバムへの参加を拒んだ山下達郎が、今度は自分自身のトリビュートアルバムの企画を拒んだ。そう考えると自然な流れではある。)

 さて、今回の特集には、真保みゆきによるインタビュー、栗本斉がヒストリーをまとめた文章、鳥居真道による論評、1976年から1982年に絞ったディスコグラフィーといった各記事に加えて、「提供曲/編曲/コーラス・演奏参加曲/プロデュース作」というリストが掲載されている。このリストは、オフィシャルファンクラブや特集雑誌等の資料を参考に作成されているようであり、たいへん詳しくまとめられていた。作成した馬飼野元宏氏の労に敬意を表したいところである。
 
かくいう私自身も、こうした山下達郎ワークスを積極的に収集しており、ディスコグラフィーサイトをささやかながら運営している。都度新しい情報を加えながら、25年以上続けている。
 
【...oouchi's... | 山下達郎ディスコグラフィーサイト】
http://www.yutopia.or.jp/~oouchi/
 
山下達郎は1970年代にティンパンアレイ系のコーラスシンガーとして数々のレコーディングに参加しており、その全体像はなかなかつかみにくい。中にはオフィシャルファンクラブのリストには掲載されていなかったものもある。私が長年コレクションを続ける中で発掘した作品もいくつかある。
 
一方、コーラス参加の事実確認が難しい作品もいくつかある。
まず、荒木一郎である。1974年頃に荒木が発表した作品に参加しているという公式の情報があるが、作品の特定がされていない。該当する3枚のアルバムに収録された曲を何度か聴いてみたが、山下達郎の声であるという確証が得られていない。
また、ミッキー・カーチス&ポーカー・フェイスが1977年に発表したアルバムに参加しているという情報もある。これに関してはすでにアルバムを入手し、楽曲の特定もほぼ済ませているが、発表する機会を失している。いずれ、ウェブサイトなどで公開したいと考えている。
 
そして、最もやっかいなのは、近藤真彦である。
1980年のデビュー以来、山下達郎のビジネスパートナーでもある小杉理宇造氏がプロデュースを手がけている。加えて、レーベルがRCA(サウンドトラックなど一部の作品はairレーベル)であるため、山下達郎は彼のデビュー当初からレコーディングに参加したり楽曲提供をしたりしている。しかし、当時のアイドル作品の多くがそうであったように、参加ミュージシャン等のクレジットがほとんどないため、実際の参加状況がはっきりとは分からない。
今回のレコード・コレクターズのリストにおいても、参加が確定しているものに限定して記載されているようだ。しかし、それ以外にも複数の作品で山下達郎とおぼしき声を確認できる。ここで改めて整理しておきたい。
 
その前に、1980年から1982年にかけてのディスコグラフィーを確認しておこう。シングル、アルバム両方含めて、発売順に以下に挙げる。このうち、★印が付いているものは、山下達郎がコーラス参加または楽曲提供で関わっている事実が確定しているものである。
 
 
 
1980年
12月12日 スニーカーぶる~す★(松本隆-筒美京平/馬飼野康二)/ホンモク・ラット(伊達歩-筒美/戸塚修)
 
1981年
3月5日 アルバム【Thank 愛 You】
3月12日 ヨコハマ・チーク★(松本-筒美/馬飼野)/嘆きのリンダ(松本-筒美/戸塚)
6月12日 ブルージーンズ メモリー★(松本-筒美/馬飼野)/青春ビーチ(松本-馬飼野/馬飼野)
7月19日 ミニアルバム【Birthday】(シングル2枚組)
9月5日 アルバム【ブルージーンズ メモリー】(サウンドトラック)
9月30日 ギンギラギンにさりげなく(伊達-筒美/馬飼野)/恋のNON STOPツーリング・ロード★(すずきひさし-山下達郎/山下)
12月16日 アルバム【ギンギラギンにさりげなく】
 
1982年
1月7日 情熱☆熱風☽せれなーで(伊達-筒美/大谷和夫)/あばよ ポニーテール(康珍化-筒美/大谷)
3月31日 ふられてBANZAI(松本-筒美/後藤次利)/スニーカーぶる~す(松本-筒美/戸塚)
6月30日 ハイティーン・ブギ★(松本-山下/山下)/MOMOKO★(松本-山下/山下)
7月18日 アルバム【BANZAI】
9月30日 ホレたぜ!乾杯(松本-筒美/後藤)/カモン・ロッキンロード(伊達-筒美/筒美)
 
 
 
まずは、1980年12月のデビューシングル「スニーカーぶる~す」について確認しておきたい。この曲には、山下達郎、竹内まりや、EPOの3名がコーラスで参加している。このことは、オフィシャルファンクラブのリストに記載がないためか、今回の馬飼野氏のリストでも掲載されていなかった。しかし、筒美京平の作品を集めたCDボックス『HITSTORY』のライナーノーツ(楽曲解説)で言及されているため、おそらく間違いのない事実である。
 
続いて、1981年3月発売の『Thank 愛 You』だ。A面1曲目に「スニーカーぶる~す」を配したファーストアルバムである。2曲目以降も佳曲が並ぶ。コーラスをフィーチャーした曲も多く、そのうちのいくつかでは山下達郎らしき声が聴ける。
A面2曲目の「ついてこいブギ」(伊達-浜田金吾/戸塚)は、浜田金吾の作曲によるご機嫌なロックンロールナンバーだ。全編通して山下達郎とおぼしき明るめのコーラスが聴ける。
3曲目の「哀しきハイスクール」は、ハチロク(8分の6拍子)のバラード。ここで聴かれるコーラスも山下達郎のように感じられるが、いかがだろうか。
A面6曲目の小品「ジャスト ア ダンス」、B面1曲目のロックンロールナンバー「ためいき倶楽部」、B面2曲目のシティポップ風「サマーウェーブ」、B面5曲目のポップロック「グロリア」にもコーラスがフィーチャーされているが、これが山下達郎の声であるかどうかは自信がない。可能性はある。

 

7月発売のミニアルバム『Birthday』は、17歳の誕生日を記念して発売されたミニアルバムだ。自身が作詞した「17バースデー」をフィーチャーして、7インチシングル2枚に5曲が収録されている。このうち、2枚目のB面に収録された「抱擁LOVE」(松本-筒美/馬飼野)で、明らかに山下達郎の声と思しきコーラスを聴くことができる。
歌謡ロック全開で、このままシングル発売してもヒットしたのではないかと思われるほどの佳曲である。前出のアルバムに収録されたどの曲よりも山下達郎らしいコーラスを聴くことができるので、このままコーラス参加リストに入れてしまおうと思ったことがあるくらいだ。ただ、公式発表がないため、とどまっている。
 
 12月発売のアルバム『ギンギラギンにさりげなく』では、A面3曲目の「ワイルド・キャンサー」(康-筒美/筒美)で、それらしきコーラスを聴くことができる。ただ、サンクスクレジットに宮田茂樹とepoの名前があることを考えると、彼らによるものである可能性もある。
 
 1982年以降は、楽曲を提供した「ハーティーン・ブギ」を除いてはコーラス参加の形跡は見当たらない。
 
近藤真彦の初期の楽曲は、デジタル配信はもとよりCD化も遅れている状態である。前代表のジャニー喜多川がインターネットでの情報提供に後ろ向きだったことに加え、現在のジャニーズ内部が社会問題を抱えている状況では、サブスク解禁さえ全く期待できない。しかし、ジャニーズの楽曲群をこのまま埋もれさせてしまうわけにはいかない。近藤真彦のみならず、田原俊彦、野村義男、少年隊など、80年代に彼らが残した楽曲はクオリティの高いものが多い。彼らの楽曲が気軽に聴けるようになることで、山下達郎ワーク研究が進展することを願っている。
 

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