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女性ベンチャーキャピタリストが語る日本のヘルスケアの未来

米国初のヘルステックコミュニティのHealthtech Women Japanでは、毎月のスピーカーイベントを通して、「グローバル」「女性の活躍」「イノベーション」をキーワードに、様々なバックグラウンドの女性が集まり、交流し、知識を深める場所を提供しています。

SUMMARY

去年の発足から第9回目のイベントとなる今回(7/21/2018)は、最前線で活躍されている3名の女性ベンチャーキャピタリストをお迎えし、未来のヘルスケアとビジネスチャンスについてお話いただきました。

また、ヘルスケア領域で実際にビジネス展開をされている注目のスタートアップ4社によるスタートアップピッチも開催しました。

Speakers

SBIインベストメント株式会社 CVC事業部 部長
加藤由紀子様

SBIインベストメント(株)において15年余りにわたるベンチャーキャピタル業務の経験を有する。現在、事業会社と共同で運用するコーポレートベンチャーキャピタルファンドの運営、オープンイノベーション支援に携わる。

アイエヌジー証券会社投資銀行本部にてコーポレートファイナンス業務に従事後、2002年SBIグループ傘下のヘルスケアVC、バイオビジョンキャピタル立ち上げに参画。国内外のヘルスケア分野を中心としたベンチャー企業の事業化支援、投資育成業務に携わる。2005年より、SBIインベストメント投資部門にて、国内外のヘルスケア、ICT領域のベンチャー企業への投資、成長支援、アライアンス構築、株式公開支援等に従事。2016年4月より現職。

iSGSインベストメントワークス取締役マネージング・ディレクター
佐藤真希子氏

2000年、株式会社サイバーエージェント入社(新卒一期生)。同社インターネット広告事業本部に配属。2002年に同社ベストプレイヤー賞(MVP)受賞。同社営業部門では初の女性マネージャーとなり、営業に加え採用・組織構築において同社の事業拡大に貢献。2005年、株式会社ウェディングバーグ出向。奏者のビジネスモデル構築、営業部門の立ち上げ、および新規事業の立案・実行を行う。

2006年、株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ出向。国内のシード・アーリーステージのベンチャー起業を対象とした投資事業に従事。同社での主な投資実績は、株式会社メディアフラッグ、フォトクリエイト株式会社、株式会社LiB、株式会社ビザスク等。

2016年2月、株式会社iSGSインベストメントワークス取締役代表パートナーに就任(独立系ベンチャーキャピタルに置ける国内初の女性パートナー)

DEEPCORE CFO
雨宮かすみ様

通信会社にて営業・経営企画等を経験後、ノースカロライナ州⽴⼤学経営⼤学院にてMBA取得。帰国後財務・経営戦略部門を経て、2006年にソフトバンク(現・ソフトバンクグループ)のM&Aチームに参画、10年ほど国内外のM&A・ベンチャー投資・JV⽴ち上げ等に関わる。2016年からシリコンバレーにて新規事業開発に従事、その後2017年7⽉にDEEPCOREに参画。投資・ファンド運営および経営企画・管理全般を担当。

500 Startups Japan Senior Associate / Healthtech Women Japan Researcher
吉澤美弥子

慶應義塾大学看護医療学部在学中に国内外の医療システムに関心を持つ。医療を取り巻く様々な課題をどのようにテクノロジーで解決できるか模索する中で、2013年海外のHealthTech事例を取り上げるメディアHealthTech Newsを立ち上げ、2016年、M Stageに事業譲渡。また、学生の際に1年間J.P. Morgan Securitiesのエクイティリサーチ部でインターンをし、リサーチのアシスタントとしてインターネット産業を担当した。現在は500 Startups Japanのシニアアソシエイトとして新規投資先の獲得や投資先の支援を行う。Healthtech Women Japanでは、HealtTechについての最新トレンドをリサーチし、会員やイベント参加者に情報を提供することで、コミュニティへの貢献を目指している。

ベンチャーキャピタルとは?

パネルディスカッションの前に、まずはHealthtech Women Japanでリサーチャーを務める吉澤美弥子から、今回のテーマであるベンチャーキャピタルとヘルスケアスタートアップについての簡単な説明と米国の最新情報をご紹介しました。

そしてこのブログを読んでいただいている方の中でも、そもそも「ベンチャーキャピタル」とは何か馴染みがない方も多いのではないでしょうか。

ベンチャーキャピタルとは、今現在はビジネスがなりたっていなくても将来会社が大きくなることを期待して「リスクをとる」投資会社です。

具体的には、未上場企業に対して株式や転換社債などで投資し、企業の成長を支援し株価を上げて上場(IPO)やM&Aの際に株式を売ることでゲインを得るというモデルです。

既存のデッドファイナンス(銀行からの借り入れ)では評価されないような先進的な事業、過去に例が少ない事業にチャレンジする会社が多い中、日本でも「ヘルスケアベンチャー」投資が注目を集めています。

ヘルステックとは

「ヘルステック」という言葉は広義で、「先進技術(テクノロジー)と医療の融合」と言えます。ここにはインターネット技術だけでなく、バイオ技術やデータサイエンスなども含まれます。

ヘルステックと合わせて語られる単語として、「デジタルヘルス」「モバイルヘルス」というものもあります。

デジタルヘルス」とはインターネット黎明期の1990年代にセス・フランク氏が「インターネット×医療」を示す言葉として提唱しました。その後、より広義の「テクノロジー×医療」を示す言葉として「ヘルステック」や、インターネットの中でも特にスマートフォンやそのほか「スマートデバイス×医療」を示す言葉として「モバイルヘルス」という言葉が使われるようになりました。

ヘルステック事業へチャレンジしているのは、テクノロジーを活用した新興のスタートアップだけでなく、既存のアセットを活かして医療機器メーカー、製薬企業、民間医療保険企業も、非医療関連のIT企業もいます。

ヘルステックに取り組もうとする大企業が、先出するヘルスケアスタートアップを買収したり出資をすることで参入したり、既存事業を強化することも増えて来ています。

吉澤が注目しているのはAmazon。AWSが様々なヘルスケアサービスのインフラとして使用されているし、EC事業を通じて築き上げた消費者への流通網を活かして調剤薬局事業の展開をアメリカで試みています。これまた非医療事業者が業界構造を大きく変えるディスラプターになりうる着目すべき動きになりそうです。

ヘルステックの歴史

前述に少しありますが、ヘルステックという概念は90年代後半からすでに登場していました。今まで患者がアクセスできていなかった情報をウェブ上で提供し出したことがきっかけです。

Patientslikemeと言うサービスは、同じ症状や病気に悩む人たちをつなぐオンラインプラットフォームで、対策を相談したり、症状についてリアルタイムで質問することを可能にしました。

国民皆保険のある日本と違い、約4500万人も医療保険に加入していない人がいると言われるアメリカでは、より多くのアメリカ国民に医療保険に加入してもらうため、2010年に保険に加入していない人でも職場を通じて自分の保険を買うことができるようAffordable Care Act (ACA)が議会で採択されました。(通称:オバマケア)

オバマケアは、"Essential Health Benefit"(基本的医療給付) も規定しており、あらゆる医療保険プランに保険適用が義務付けられました。それにより民間企業の保険をいかに安く、なるべくカバレッジを増やすかという動きが出てきました。

その結果、なるべく医療費を抑えるため、インターネットを使った予防が普及し始めました。1990年代には一方的な情報提供サービスが主流だったが、2000年代後半になるとよりパーソナライズされた、双方向コミュニケーションで個人のヘルスケアを促進するサービスが増えてきたのです。

その中でも包括的診療プラットフォーム、疾患群別管理プラットフォームが成長。遠隔診療プラットフォーム企業はそれぞれ主要な健康保険会社と提携することでサービスを提供するようになりました。

2010年代からは、オンライン診療と合わせて、医療機関そのものを運営するスタートアップや、医療保険そのものを提供するスタートアップが急増したことで、医療のSoftware-as-a-Serivce (SaaS) 化が進みました。

投資額も10億ドルを超える大型投資を受ける企業も登場したことで、医療制度そのものに食い込む企業が加速度的に増加しました。

2018年のトレンド

ヘルスケアベンチャーへの投資は伸びていて、上半期だけで3.4億の投資が行われています。2017年の時点で過去最高額の投資が集まっていましたが、それを超える見込みと言われています。

消費者向け情報サービス(16億ドル)、次いで臨床向け診療支援サービスやプレシジョン医療(8.1億ドル)、フィットネス(7.5億ドル)の投資が集まっています。その中でも特に、患者の個人レベルで最適な治療を分析、選択、施すPresicion Prescription (精密医療) が流行っています。

一方で、M&AもIPOも増えておらず、まだ60件にとどまっていますが、大きな金額での買収は増えているので投資の質は上がっているのではと考えられます。

Virta Health:インスリン投与量の減少などの実績あり、4500万ドル調達
Propeller Health:2000万ドルを調達し、臨床研究の規模拡大を発表
Omada Health:6月にCDCより認定を受け、総額1億ドル以上調達
Pear Therapeutics:FDAが薬物乱用治療で認定したのち、5000万ドル調達
Akili Interactive Labs:ADHD治療でFDA提出を控え、500万ドル調達

米国ベンチャーキャピタルのVenrockの分析によると、メンタルヘルスへのアーリー投資が増えていおり、問題も大きく、糖尿病と違いソリューションが多岐に渡るので注目されています。

現時点で行われている治療の代替になるためには臨床でのアウトカムが重要なので、オンラインソリューションでも臨床のアウトカムを出している企業に非常に高い評価がつくようになっています。

例えば、Quartetは、精神疾患の患者さんに対してデータを活用し、治療方法と結果を分析するサービスです。かなり良い投資家もついているので伸びてくるのではと着目しています。

Panel Discussion

出資基準
吉澤:
「業界をリードされる女性ベンチャーキャピタリストのお3方の出資の基準を教えていただけますか?」

加藤氏:
「チーム、プロダクトの競争優位性があるか、そもそも成長市場なのか、適切なリターンが取れる投資条件か。リスクマネーを入れるなら私たちの生活が良くなるようなことにチャレンジしている人たちを後押ししたいという思いを持ってみています。」

佐藤氏:
「 (自社の)3人のパートナーに共通している評価軸は、起業家の熱狂具合。「狂ってるね」が最高の褒め言葉なんです。この事業をやればこんなに世界は変わるという熱意を持っているという社長にかけたい。ロジックはもちろんあるけれど、起業はタイミングなどいろんな複雑なものが絡んでくるので、最後にかけられるのはそこ。私たちは経営者の黒子になりたいと思っています。」

雨宮氏:
「本当に人。経営陣と経営陣の巻き込み力、自分の思いを人に伝えられて協力者を募れる人、憎めない図々しさ、何も考えずに突き進んでいく、この人のためだったら一緒に働こうと思ってくれる人を集められる人にかけたいと思っています。」

ヘルスケアの注目分野

吉澤:
「ヘルスケアといっても定義が広く様々なスタートアップが登場していますが、注目している分野は?」

加藤氏:
「デジタル化、パーソナライゼーションはヘルスケアの領域の中でも注目。なぜそれが可能になってくるかというとデータが取れる、データが集積するようになって来たためです。通常の医療だと規制産業だったのが、それをAIなどの技術を使って垣根を超えるようになって来ました。高齢化や労働人口の減少を受けて、診断 x AIや効率化、日々の健康維持のためのモニタリング、睡眠もそう、そこに注目しています。」

佐藤氏:
「女性 x ヘルスケア x デバイスの案件も増えてきて、テーマでいうと月経、ホルモンのPMS (月経前症候群)などもあります。最近は様々なデバイスが普及し、小型化していく中で、AIも多く活用され始めています。しかし、医療機器になってくると相当開発に時間とお金がかかるので、その支援体制はCVCも巻き込んでいかないと難しいんですよね。最近アメリカでは、セックステックが注目されているので、日本でも起きてもおかしくないかなと思っています。」

雨宮氏:
「AIはヘルスケアと相性がいいんですよ。医療の現場はまだ個に依存した熟練の技が多く、案外デジタル化は進んでいないように感じるのですが、蓄積されたデータはあるし、画像認識の領域は何社もスタートアップが出て来ています。画像診断、つまり目をAIで置き換えるところは活性化しています。その次のステップとして、ロボティクスを巻き込んでAIを活用していく、数字データだけでなくテキスト、画像、ウェアラブルの身体データ、いろんなデータを横断してより診断の精度を上げていくと、予測も可能になり、どんどん面白くなってくると思います。」

ヘルスケア業界ならではの難しさ

吉澤:
「ヘルスケア業界は規制も多く独特の課題を抱えていると思うのですが、医療業界だからこそ抱えている課題とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか」

加藤氏:
「ヘルステックやメディカルは規制産業ですね。国民皆保険の中で事業を成立させなければならないということで参入は難しいと思います。最近では、行動療法アプリは医療機器になるのか?など、今までなかったからこそレギュレーションをどうしていくのかが難しいです。
だからこそ、その部分への配慮が必要で、きちんと事業化できる経営チームが、多才な人を抱えてやっていくことが非常に重要。経営判断ができる経営者、知財・ソリューションの管理ができる人が最低限必要ですよね。
しかし経営合理性だけでなく、倫理の部分も重要な領域です。経済合理性を取るのか、倫理的な行動をとるのかの選択を迫られるのが他の業界よりも多いのでは。」

佐藤氏:
「投資先にデバイス系が多いので、研究から医療認証を取るまでの時間が長い、IoTは試作ができるけど量産に至らない、一つ一つの金型を変えるためにはお金と時間がかかってしまう、物流のキャッシュフローも大変、製造ラインのマネジメント、モノだけじゃないところの知識・経験値がある人がいないなどチャレンジは多くあります。
医療系のベンチャーをよく見ているのですが、東大医学部卒の医師が起業していることが多いですよね。やはりトップオブトップはすごいなあと感じる反面、医者がベンチャーをやるときの難しさは、民間の人がクライアントになるのでそこのマーケティングが必要になることとですよね。
また医師の起業パターンとして、日本医師会との付き合い方によってうまく年配の方々を巻き込んでいくところと、既存のものをディスラプトするぞという意気込みから始まるところと二分する気がしています。どちらが成功するかはわからないが継続してみていきたいと思っています。」

雨宮氏:
「インサイダーとして全体を俯瞰して理解している人がいないといけないのではないでしょうか。医師会など様々な構造がある中で、必ずしも良いものを提供すれば成功できるという世界でもないので、誰をどう説得して次のステップに進むか、どんな人を巻き込んでやっていくのかというところが肝だと思います。」

ヘルスケア領域でのベンチャーキャピタリストの役割

吉澤:
「加藤さんにお伺いしたいのですが、今までたくさんの会社さんに投資されてきたご経験を踏まえて、ヘルスケア領域での投資でベンチャーキャピタリストとして加藤さんご自身が意識されていることを教えていただけませんか?」

加藤氏:
「大学発ベンチャー支援をやっている中で、東大医科学研究所の荒井先生にお会いして、会社をどう作っていくかを教えてもらったんです。20社投資して4社うまくいきました。2000年後半で経済状況が良くなかった時にエグジットできなくて、解体したのですが。
そこで、どんなにテクノロジーやサイエンスが良くても、ビジネスモデルやバリューチェーンが構築できていないとダメだということを学びました。ベンチャーキャピタルとして、事業としてやっていく時のビジネス面をどうサポートできるのか、どうエコシステムを構築していくのかを意識するようになりました。」

“女性初” を切り開いていく難しさ

吉澤:
「さとまきさんはよく"女性初"と称されることが多いと思うのですが、何か意識されていることや、"女性初"と冠がつく善し悪しのようなものをお話いただけますでしょうか」

佐藤氏:
「女性初は言ったもんがちなので言っておくという感覚。チャレンジです。たまたま自分がいた領域に女性が少なかったというだけだったので、特に女性だからということを意識していなかったですね。
VC時代に3人子供を産んで、起業家は24/7なのに自分は100%向き合えてないのではとモヤモヤしたこともあります。私以外にも、選択的シングルマザーを選んだ人が報告に来たこともありますが、それも一つの生き方だと思っています。自由に生きたいように生きられる世界をVCを通じて実現したいです。」

起業を目指す方々へ、ベンチャーキャピタルが出来ること

吉澤:
「最後に雨宮さんにお伺いしたいのが、これから起業を目指す方々へのメッセージです。ベンチャーキャピタルはどのようにサポートできるのでしょうか。」

雨宮氏:
「AIって、AIという領域があるわけではなく、何かの領域との掛け合わせなんですよね。エンジニアは解決能力はあるけど、業界の課題は本当に何でどう解決すれば役に立つのかは業界の知識が深い人の方が得意なので、そこを繋ぐということを支援したいと思っています。ガイドして引っ張っていくというよりはやりやすい環境を提供していくことを目指しています。」

Debriefing

今回は投資家という目線で、3名の女性ベンチャーキャピタリストに、ヘルスケア領域で期待している分野、評価軸、ヘルスケア領域だから難しい点などについてお話いただきました。

今までベンチャーキャピタリストは遠い存在だと感じていた方々にも、前線で活躍されるお三方から直接リアルなお話が伺えた貴重な機会にしていただけたのではないでしょうか。

What's Next

第10回目となる次回は8月25日(土)13:00-16:00に「ロールモデルから学ぶ、自分なりのキャリアデザイン」と題したイベントを開催します。

President of UberEats Japanの武藤氏、ニューロスペース香山氏をはじめ、様々な領域で公私共にご活躍されている女性リーダーをお招きします。

女性が自分が一番やりがいを感じられるキャリアとはどのようにすれば実現していけるのか、女性ならではのライフステージに合わせた悩みとキャリアをどのようにバランスしていけば良いのか。

ゲストスピーカーからインスピレーションを得た上で、周りの同志と学びを共有し、自分はどのようにしていきたいのか考える機会を作るため、一部グループワークも予定しております。

医療業界、ヘルスケア業界、スタートアップ/ベンチャー業界、様々なバックグラウンドの方に参加いただく予定です。ぜひPeatixからお申し込みください。たくさんのご参加をお待ちしております!

(※当イベントは女性優先のイベントです。現時点で男性の方はご招待の方のみとさせて頂いておりますのでご了承ください。)

Writer

Healthtech Women Japan Head of Operations
山田偉津子

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