健康経営が、採用の武器になる。

こんにちは
『健康を企業文化に』を理念に健康経営アドバイザーの
健康マネジメントスクール
水野雅浩です。

毎年5%ずつ人材不足になる国、日本(日本商工会議所)


ある通販企業のコールセンターは、現在の少子高齢化に伴う採用難、そして、新型コロナウイルスで人材不足に悩んでいました。

通販企業の事業は、テレビでCMを流し、それを見たお客様からのお電話をコールセンターで受注し、商品を発送するという流れです。コールセンターが人材不足になると、一人あたりの負荷が高まる、お客様1人にかける時間が少なくなる、中には、お客さまのお電話を取り切れなくなる。

すると、一人あたりの負荷が高くなり、離職が増える。すると、さらに一人あたりの負荷がかかる、という悪循環になります。同じように、医療・介護の現場でも、建設の現場でもニーズはあるが、人材不足により対応ができない、という同様のスパイラルが見られました。

 厚生労働省のまとめでは、国内の有効求人倍率は2017年度、1.54倍に達し、44年ぶりの高水準を記録しました。2018年度に入っても4月1.59倍、5月1.60倍、6月1.62倍、7月1.63倍と上昇を続け、企業の人手不足感が高まり、「人手不足倒産」という言葉が新聞の紙面に踊るようになりました。日本商工会議所の「人手不足への対応に関する調査結果」について(https://www.jcci.or.jp/shortage%20of%20workers3.pdf)を見ると、101人~300人以上の中堅企業では、「人材不足を実感している」が58.5%。従業員数が301人以上の企業では、67.8%となっています。

では企業が中途社員に求める人材像についは、「キャリアを積んだミドル人材」が最多の67.9%。この人材は、30~40代です。では、彼らが次の職場に求めるのは給料やキャリアだけなのでしょうか。また別の言い方をすれば、給料、やりがい、キャリア以外に、どのようにしたら、彼らを惹きつけることができるでしょうか。

転職者が企業に求めるものは、「長く働ける職場」。


「長時間労働の職場で、メンタルを壊すことがあったとしたら、その後の人生、誰が責任持ってくれるんですか?俺らの人生、めちゃ長いんですよ」
 20代30代のビジネスパーソンと転職をテーマに座談会をした時に出た会話です。

人生100年時代の概念を提唱した『LIFESHIFT』の著者リンダグラットン氏が、2007年生まれの日本人の50%は107歳まで生きると推測しているように、特に、ミレニアム世代は、リアル100年時代であることを、実感しています。本能的に、人生の途中で、体や心を壊してしまっては、その先の人生に大きなダメージが残ることが分かっているのです。


大手・転職サイトENジャパンを見ていくと、「有給が採れないならやめるが61%」。有給が自由にとれないと分かれば、それがかなう企業に転職を検討するがN%とあります。では、転職サイトにあるように、「有休がとれなければ辞める」は、有給休暇を取得できるか否かが問題なのでしょうか。そうではなくて、「心身ともに、長く働ける環境かどうか」の一つのメッセージである、というのが裏に隠れたメッセージと考えるべきでしょう。

ミレニアム世代の若者たちは健康マネジメントがプライベートでも職場でも当たり前にベースの価値観として持っているのです。

日本の少子高齢化という構造上、健康リスクを持った中高年の社員の比率が高まるのは避けようがありません。しかし、老兵だけでは企業に活力をもたらすことはできません。ではエネルギーあふれる若手は、人生の3分の一を過ごす職場に何を求めているのかを敏感に察知する必要がありそうです。

新卒の応募基準は、健康に配慮しているか職場か否か

特に、1981~1996年に生まれたミレニアム世代は、現在、全労働人口の35%を占めていますが、2036年には76%にまで増加することが予測され、企業に対しても大きな影響力をもっています

経済産業省の調査によると、ミレニアム世代は、従業員の健康に関する企業の役割について高い意識を持ち、福利厚生の中で、家族も含めたヘルスケアを一番重視しています。実に7割が、健康に配慮しているかを就職先の指標として見ています。彼らが魅力を感じるのは、ヘルスケアに関して幅広い支援を行っている企業なのです(出所:経済産業省「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営・健康投資普及推進等事業)」)。

この意識の変化は、日本だけにとどまりません。今から約30年前、私がアメリカにいた頃、ホームステイ先の夕食でも普通にピザやコーラがでたものでした。そして、ホストマザーが時々、サラダなどを出そうものなら、子供たちは「ノー、イッツヘルシー!!」と嫌な顔をするのです。つまり、当時、子供たちにとって「健康は、カッコ悪い」の象徴でした。ところが、先日NYに行くと、ビジネスパーソン達はランチタイムにボウルいっぱいのケールのサラダと鳥の胸肉をむしゃむしゃと食べているのです。健康であることが、カッコいい、できるビジネスパーソンの大前提になっているのです。

話を日本に戻すと、ここ数年で、乳酸菌入りチョコ、中性脂肪を低下させるコーラ、血糖値を押さえるアイス、たんぱく質リッチなカップラーメンなどがコンビニにならぶようになりました。トクホのように生活習慣病対策として選ぶものではなく、普段の生活の中に、健康が溶け込んでいる時代です。ミレニアム世代は、こういったものを選択することが当たり前になっているのです。

したがって、今後は従業員が企業を選択する際の要素の一つとして、業務内容や賃金だけでなく、企業が充実したヘルスケアやウェルネスプログラムを提供しているかどうかが重視されるようになってきたのは時代の流れが大きく影響しているといえるのです。

「夢中で仕事をしている社員」6%。世界132位の日本

ミレニアム世代の新卒に入社してもらうためには、「ワーク・エンゲイジメント」という概念を理解する必要があります。ワーク・エンゲイジメントとは「従業員のメンタル面での健康度を示す概念」です。仕事に対する、「熱意」「没頭」「活力」の3つが満たされている心理状態です。

20代の社員にワーク・エンゲイジメントについて話をすると、「ゾーンに入って、ノリノリで仕事を楽しんでいる状態ですね」と返ってきました。御社の社員では、ゾーンに入って、夢中になって仕事をしている社員は何割ぐらいいるでしょうか。

世論調査や人材コンサルティングを手掛ける米ギャラップが世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合がなんと、6%しかないことが分かりました。米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラス(出典:「熱意ある社員」6%のみ日本132位、米ギャラップ調査2017/5/26)。

では、日本では、なぜこれほど「熱意あふれる社員」の割合が低いのでしょうか。ギャラップ社のジム・クリフトン会長兼最高経営責任者(CEO)曰く「日本は1960~80年代に非常によい経営をしていた。コマンド&コントロール(指令と管理)という手法で他の国もこれを模倣していた。問題は(1980~2000年ごろに生まれた)ミレニアル世代が求めていることが、全く違うことだ。

ミレニアル世代は「自分の成長に非常に重きを置いている」「それ以上に問題なのは『不満をまき散らしている無気力な社員』の割合が24%と高いこと。彼らは社員として価値が低いだけでなく周りに悪影響を及ぼす。事故や製品の欠陥、顧客の喪失など会社にとって何か問題が起きる場合、多くはそういう人が関与している」

 ギャラップ社の調査によると、企業内に諸問題を生む「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」は70%に達しました。かつて「会社人間」と言われた日本の会社員は勤務先への帰属意識を徐々に無くし、仕事への熱意が低下していったといいます。

産業の構造上の問題など多々ありますが、健康という視点から見れば、加齢に伴い体力も集中力も低下する。仕事の生産性も下がる。ぐちを言う機会が増える。これが、徐々に、ギャラップ社のいう「やる気のない社員」を生み出していったのでしょう。若手世代を引き付ける上でも、既存の社員を再活性化する上でも、健康経営は大きなきっかけになるはずです。


優秀な欧米の人材は日本に来たがらないのは、なぜか。

日本の構造的な人口減少の中で、取り組むことに、1)高齢化する既存社員の心身のコンディションを上げること、2)ミレニアム世代が魅力的に感じる健康プログラムを準備し行くこと、その他に、海外の人材獲得も視野に入れる必要があります。

では、海外のビジネスパーソンからみて、日本企業は魅力的に映っているのでしょうか。スイスのビジネススクールの国際経営開発研究所の2018年の調査によると、日本は優秀な外国人労働者にとって、他国よりも魅力度が劣るという結果が出ています。人材開発と投資、優秀な外国人労働者への魅力、教育に関する公的支出など、30のカテゴリーから行われる評価で、日本は63カ国地域の29位。スイスがトップで、デンマークとノルウェーがそれに続きます(アメリカは12位、韓国は33位、中国は39位)。

コロナ前ですが、日本企業への転職をテーマに、海外のビジネスパーソンとZOOMで意見交換をしたことがありました。内容は、次の3点に集約されました。(1)日本文化・芸術・食事は、大好き(2)長時間労働は無理。家族と一緒に過ごせない(3)労働生産性が低い環境では、キャリアを積みたくない

海外の転職検討者から出てきた意見


● 芸術文化は素晴らしいし、きちんとしているけど、この国に移住したいとは思わない。国自体はとても素晴らしく、綺麗で、住むには安全で、食べ物も美味しい。でも労働条件は最悪。健康にも悪いし、仕事で帰りが遅くなって家族との時間が取れない環境なんて信じられない。

●  伝統的な日本企業の中には、何十時間にも及ぶ残業や取りにくい有給休暇など最低な企業文化がある。日本人を洗脳して休みなしで働かせることは可能だけど、外国人には絶対に無理。

●  日本企業で働いて、初めは全てが新しくて新鮮に映るけど、1年経った後に、欧米の方がいかにいいかって分かって結局カナダの企業に転職した。きっと将来、日本を何度も訪れるでしょう。でも日本企業で働くことは絶対にない。

●  日本企業で働いた経験から言えるのは、問題は長い労働時間だけじゃなくて、生産性が低いこと。1日12時間仕事をしているように見せて、実際の仕事は1時間分だった同僚もいる。生産性や仕事が効率的になることに対するインセンティブはない。自分の国だったら、遥かに少ない労働時間で同じだけの給料を得られるし、帰宅時間も早いから、家族と一緒に食事ができる。日本では、家族と食事をするのが、まず無理。

 コロナ前で、働き方改革が本格化する前なので、今は、ずいぶんと変わってきていると思います。しかし、海外のビジネスパーソンから見る日本企業への見方は、根深いものがありそうです。

 事実、OECD諸国の平均労働時間を比較したデータを見ると、15~64歳男性の平均労働時間を、休日も含めた1日あたりの時間で算出すると、2014年のデータで、日本はOECD諸国の中でトップの375分となり、全体平均の259分に比べ2時間近く長い結果となっています。(https://workstyle.ricoh.co.jp/article/workingtime.html)。

  また、労働生産性を見てみると、OECD 加盟 36 カ国中 20 位。日本は47.5 ドル、フランスは67.8ドルとなっています(公益財団法人日本生産性本部のレポート「労働生産性の国際比較 2018」)。

  今後、人材不足が加速していく中、海外のビジネスパーソンを惹きつけるには、健康経営を実践することで、「わが社は、社員に健康で長く働いてもらいたいと考えている。そのために、ヘルスケアプログラムを実施している。心身ともに高いパフォーマンスであなたの専門性を発揮してもらいたい」とメッセージを打ち出すことは、起死回生の一手になるのではないでしょうか。

 雇用主の信用度ワースト2位の国、日本


政府・企業・NGOなどの信頼度を調査する機関にエデルマン・トラストバロメーターがあります。2021年の調査結果を見ると、「雇用主を信用しているか?という質問に対して、日本はなんとロシアに次いで、ワースト2位。(21Annnmual Edelman Trust Barometer Global Report2021エデルマントラストバロメーター2020年10月19日~11月18日)

エデルマン・ジャパンの代表取締役社長、ロス・ローブリー氏は次のように述べています。「企業のレピュテーション(評判)を守る最大の責任者はCEOとされており、日本の回答者の72%がCEOの最も重要な仕事は、自分の会社が信頼されるように努めること」だと答えています。

また、「日本株式会社は、もはや伝統的なものづくりの強みだけではレピュテーションを維持できないということです。組織に対する信頼が、もはや経済と結びつかなくなった現在、企業に対する信頼は技術仕様よりも、『組織の普遍的な価値観や信念』が大きく左右します。日本のビジネスリーダーは、海外からの信頼を再び獲得するためにまずはこの大切な機会を活用して自らの声を発信すべきです」

健康経営に取り組み、『組織の普遍的な価値観や信念』として、社員の体と心の健康を大切にしていることは、効果的なメッセージになるのではないでしょうか

次の記事では、投資家の視点で投資したくなる企業、投資を避ける企業を見ていきましょう。

■プロフィール
健康マネジメントスクール 代表 水野雅浩 専門:健康マネジメント/健康経営 新卒から介護・医療サービスの事業のベンチャー企業の立ち上げに参画。最年少で支社長になり、2回の上場を経験。しかし、その過程で、胃潰瘍になり、メンタルや体調不良で退職する部下を見て、健康を犠牲にして来たことに疑問と後悔を持つ。その後、香港での勤務時代に、従業員の健康に投資をすることでパフォーマンスを上げる健康経営に出会い衝撃を受ける。帰国後、健康を後回しにする日本の風潮を変えるため『健康を企業文化に』をミッションに、社員の健康マネジメント/経営陣の健康経営をテーマに企業・行政・大学を中心に講師を務める。著書6冊。デビュー作『グローバルで勝つ!太らない疲れない7つの習慣』はアマゾンランキング1位。

■著書
『グローバルで勝つ!太らない疲れない7つの習慣』 『グローバルで勝つ!太らない疲れない21の習慣』(アスカビジネス) 『稼げる男 稼げない男の健康マネジメント』(飛鳥新社) 『最強のサプリメント戦略』(アイディア企画) 『睡眠力』(アイディア企画) 『親子で作る健康習慣 本番力で受験に勝つ』(学事出版)

■講演実績
富士通株式会社、東レ株式会社、株式会社麻生グループ、株式会社中外製薬、三菱商事株式会社、JR西日本グループ、株式会社大日本印刷、北日本銀行、Huawei Technologies Co., Ltd.大塚製薬株式会社、ネスレ日本株式会社、鳥取銀行、日本海新聞社、岩手日日新聞社、京都ホテルオークラ、とりねつ株式会社、ソルネット経営コンサルティング、税理士法人中央総合会計事務所、北斗工業エンジニアリング、一般社団法人日本パーソナルブランド協会、株式会社ホーマス・キリンヤなど 【労働組合】全トヨタ労働組合連合会(119社)、豊田自動織機労働組合 【行政】鳥取県、宮崎県、福岡県、岩手県など 【大学】台湾大学 【塾】公文など多数保有資格

■保有資格
健康経営アドバイザー(認定番号3000092)東京商工会議所 健康マスター検定エキスパート・認定講師 一般社団法人 日本健康生活推進協会 日本成人予防協会一級健康管理指導員(認定番号H35366) 米国NLPコーチング研究所 NLPプロフェッショナルコーチ

■ホームページ
https://healthylifepj.com/
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