舞台「嘘つき2023」感想と考察

※ネタバレを含みます。配信アーカイブで視聴予定の方はご注意ください。


今年初の観劇です。
脚本・演出は田中彪氏。2019年に田中氏が初めて手掛けた舞台の再演とのことです。

この世は嘘でできている…。
ある日、未解決事件の犯人、立花ショウが警察に自首をする。
事件は無事解決に向かうと思われたが…。
彼は多重人格であり、
精神鑑定を行うことに...
精神科医の倉橋マユ、そして刑事たちは立花ショウの心の闇、事件に迫る。
何が嘘で何が真実か...
本当の自分とは...?貴方は嘘つきですか?

舞台「嘘つき」公式サイトより


出演者の永石匠さんのファンなんですが、もうずーっとお芝居を見に行けてなかったので、今回久しぶりに永石さんの演技を拝見することができてとても嬉しかったです。

ちなみに永石さんはnoteもやってらっしゃいます。

(このオタク丸出しのアカウントでフォローするのはあまりにも気が引けるので閲覧からフォローさせていただいてます……)


で、「嘘つき2023」は冒頭の引用の通り、多重人格者が犯した殺人事件を紐解いていくサスペンスです。
ラストは多くを語らず観客に委ねる終わり方で、あれはなんだったんだ?どういうことだ??と色々疑問が残ったので、自分なりの考察を残しておきたいと思います。永石さんや出演者の方々が演じる登場人物についての感想は後半にさせていただきます。

※ネタバレを多分に含みます。(二回目)
※びっくりするほど長いです。10000字近くあります……。
※台詞や展開など記憶違い勘違い等多々あるかもしれません。ライブ感重視でお願いします。(言い訳)
※作中における多重人格者についての所見であり、実際の当該疾患の方々に対してのものではありません。ご了承ください。


はじめます



まずこれ、考察というより「こういう解釈もあるよね」くらいの話なんですが……

第五人格のミツルは名無しの第二人格と同一人物ではないか?


という話からしたいと思います。
こういう考察系の文章をあまり書いたことがなくて手探りなんですが、とりあえずなぜそう思ったかを①〜③に分けて書いていきます。

①他の人格を認識できているのは名無しの第二人格とミツルだけ

この話をする前に、まず主人公とその人格たちについて軽くおさらいしましょう。

主人格:立花ショウ

第二人格:名無し

第三人格:マサ(孤児院の青年)

第四人格:アユミ(バーの店員)

第五人格:ミツル(男娼)

この中で主人格のショウ第三人格のマサは、他の人格が出現しているときは明確に記憶を失っています。自分が何をしていたかわからず恐怖に怯えるシーンが随所にありました。第四人格のアユミは特に言及はありませんでしたが、まあすんなり女性としてバーで働いているので、他の二人と同じく自分の過去や他の人格の存在は知らないと思っていいでしょう。

対して、名無しの第二人格(以下名無し)は精神科医・マユに他の人格の話をしています。第五人格のミツルも自身のことを他の人格が受けた傷から生まれた人格だと言っていました。このあたりの他の人格の話は嘘でごまかせるとも思いませんので、二人は間違いなく他の人格を認識しています。

でも……それならこの二人はお互いのことも認識しているはずですよね?にも関わらず、二人がやり取りをした形跡はありません。
いやいや名無しはミツルのことも話してるんじゃない?と思われるかもしれませんが、それは名無しがついた「嘘」の可能性があります。同様に、ミツルが最後に他の人格の傷から生まれたというのも「嘘」かもしれません。名無しとミツルがいつ生まれたのか、他の人格は知りようがないのですから。

②空白の五年間、本当に名無しの第二人格が生活を回せていたのか疑問が残る

果たしてあの粗暴で手のつけられない名無しが五年間も食いつなぐことができるんでしょうか?人殴って金奪ってすぐ警察に捕まりそうですが……。名無しの粗暴さはミツルの演技(もしくは二面性)であり、ミツルがなんとか生き延びていたと考えたほうがしっくり来るのではないでしょうか。ただ、ショウが気がつくと公園で寝ていた、と言っていたように、定職についていたわけではなさそうですが。
そもそも①の話に戻るんですが、マユ先生にマサとアユミの人格が生まれた経緯を話しているのは名無しのはずです。それがあの話の通じなさそうな名無しのキャラクターといまいち結びつかないんですよね……。会話、成り立つの?でもこれも名無しが実はミツル程度の話術を持っているとしたら納得がいきます。じゃあ何で人格がそんな演技をするんだよという話ですが、刑事のタクヤが言っていたように人が多重人格を詐称することがあるならば、人格が同じように詐称することもあるのでは?と思った次第です。
そもそもこのエピソード、話の大筋にほとんど関係ないんですよね。後からこの五年間に何があったか明かされるわけでもありませんし。(私が見落としてるだけかもしれませんが……)もしメタ的な都合で後々のエピソードにおける年齢のつじつま合わせのために必要だったとしても、そもそも最初の殺人(ショウが父を刺して放火した話)の年齢をいじればいいだけの話ですし。だからこの空白の五年間のエピソードは、観客に何かしらの引っかかりを感じてもらうために挿入されたのかなと私は感じました。

③名無しが他の人格と入れ替わるシーンはあるのに、ミツルと入れ替わるシーンだけがない

これが一番気になったところです。最初は、ショウが追い詰められると名無しが出てきて暴れるので、主演の氏家蓮さんの一人二役という位置付けなのだと思っていました。
ところがマサ編では、マサが名無しと切り替わる瞬間を澤邊寧央さんが演じています。マサがユウジの言葉に母とのトラウマを刺激されて激昂し、ユウジに怪我を追わせるシーンです。その後にユウジを殺害したのも恐らく名無しでしょう。マサはその後に逃げることなくミキの遺書を読んでいますので。(ただこのあたりはマサの行動自体に疑わしい点があるため、今回の「ミツル=名無し説」の説明が終わった後で話をしたいと思います)
アユミ編でも、彼女はモエを裏切ったタツヤに激しい怒りを見せ、包丁で刺しています。これはショウが父・テツヤを刺したシーンと同じ構図です。このシーンもアユミ役の小林れいさんが演じています。もしかしたらタツヤを刺したのは名無しではなくアユミなのかもしれませんが、その後「ミツルが殺人を犯したことにより他の人格が……」という説明から、アユミは殺人を犯していないと私は考えました。
ミツルはその後に自分がモエを殺したということを自白していますが、そのシーン自体は作中で描かれていないんですよね……。アユミ(名無し)がタツヤを刺したシーンはしっかり表現されているのに、です。
ミツルの話が本当なら、タツヤとモエを殺害する一連の流れでアユミ→名無し→ミツルと人格交代が起きたことになりますが、名無しからミツルに交代するシーンが意図的に伏せられていることになります。
そもそも、名無しはなぜここでミツルと交代する必要があったのでしょうか?そもそも同一人物なのだから最初から交代などしていないと考えたほうが自然ではないでしょうか。名無しにだけ名前がないのも、既に他の人格(ミツル)として名前があるからだと思いました。


以上、「第五人格のミツルは名無しの第二人格と同一人物ではないか?」という考察でした。

はー終わった終わった。もう一つだけ考察いいですか。先程「マサの行動に疑わしい点があるため後ほど話をする」と言ったのを覚えてますか?覚えてなくてもいいです。私も「詳細は後で」系はだいたい覚えてませんので……

というわけで二つ目の考察、

立花ショウが殺したのはミツルの客の女性だけ説


です。
これも「そういう説もあるかもね〜〜」くらいのスタンスでお読みいただけるとありがたいです。
尚、一つ目の考察「ミツル=名無し説」と特に整合性はとっていません。

①そもそも作中でミツル以外の別人格が殺害した証拠が無い

全部の人格ひっくるめた「立花ショウという戸籍上の人物」が殺害したと自供しているのは以下の人物です。

ショウの両親
ユウジ(マサの孤児院の仲間)
モエ(アユミの友人)
タツヤ(モエの恋人) 
ミツルの客の女達

一つ一つ見ていきます。
まず、ショウの両親の死について。警察の見解では「事故死」となっています。
それに対し主人格のショウの回想では、父親に空き瓶で殴られそうになったショウが咄嗟に包丁で刺し殺しています。しかしその後家は全焼するので、本当にショウが殺したかどうかは誰にもわかりません。
最初、ここの父親殺害シーンはすべての始まりですし、疑う余地は無いと思っていました。ですが、現代軸の拘置所にいるショウが亡き父親の幻影に「助けてくれ……」と迫られるシーンがどうも引っかかったんですよね。
回想内でショウに殺される直前の父親は完全にラリっていて、ショウに愛情のかけらもありませんでした。この父親が幻影といえど助けてくれ、なんてショウに言うでしょうか?
ここからは私の推測ですが、もしかしたら父親はショウが殺害したのではなく、急性アルコール中毒か何かで突然死したのではないか、と思ったのです。父親の幻影の「助けてくれ」という言葉は、文字通りショウに助けを求めていたのではないかと。でも、ショウは父親を救えなかった。もしくは、見殺しにしたのかもしれません。
そこへ母親が帰ってきて、ショウが父親を殺したと勘違いした。そこからの流れは回想通りです。
そして家は全焼。ここで観客はショウが火を放ったのだろうなと推測すると思うのですが、これも証拠はありません。もっと言うと、ショウや他の登場人物も誰も作中で「ショウが火を放った」とは言っていないんですよね……。
なので、夫を失って絶望した母親が火を放ったという線もあるのかな、と私は思いました。

二つ目の事件、孤児院でのユウジの死。
マサの回想では、ミキに無理やり迫ろうとしたユウジを鈍器(灰皿?)で殴り殺しています。その後、ミキは遺書を残して自殺。絶望したマサは眠りについてしまう……という話でした。
ここが一番おかしな点が多い。まず、ミキが自殺するのはマサがユウジを殺害した翌日です。マサはその間孤児院に留まってミキが遺した遺書を読んでいるんですよね。いやユウジは殺されてるしミキも自殺してるし孤児院大パニックになってるでしょ!?しかも当時未成年だったであろうマサが犯行を隠蔽できるとはとても思えません。間違いなく警察に突き出されているはずです。そもそもマサには、ユウジを殺した後ミキと一緒に逃亡するという選択肢もあったはずですし……。
ですので、私はユウジを殺害したのはマサではなくミキであると考えました。ミキにはユウジを殺す動機が充分すぎるほどありますし、その後自ら命を断つというのも納得がいきます。孤児院が廃墟になったのもその事件がきっかけで倒産ないし撤退したのではないでしょうか。

三つ目の事件、バーの店員モエとその恋人タツヤの死。
これは痴情のもつれというのが警察の見解でした。(このへんちょっと記憶が曖昧です、勘違いでしたらすみません)これはそのまま、タツヤを実際に殺したのはアユミではなくモエなのでしょう。
ただもしかしたら、モエを殺したのだけは本当にミツルなのかもしれません。(考察のタイトル「立花ショウが殺したのはミツルの客の女性だけ説」と早くも矛盾しますが……)ミツルは恐らくすべての人格の中で一番頭が回ると思われるので、同士討ちに見せかけるくらいはできたのかも。殺した動機も、「男に振り回され捨てられた哀れな女を救うため」です。借金を背負い、殺人まで犯してしまったモエを不憫に思ったか、もしくは自分より父を選んだ母を重ねて憎しみを募らせた故の犯行かもしれません。

四つ目の事件、これが冒頭のニュースの「連続殺人事件」のことだと思われます。ミツルの男娼の客のうち、明確に殺されたと思われるのは一人でしたが、同様の「救い」をミツルに求めた客が他にもいたのでしょう。話は逸れますが、男の道具にされる女たちを目の当たりにしてきたショウ(や名無し、マサ、アユミ)と、男娼として女の道具にされているミツルの対比がなんとも哀しいです。動機についてはもしかしたら嘘かもしれませんが、この連続殺人自体はミツルの犯行で間違いないかと思われます。

②作中で男性を殺害する描写はあるが、女性を殺害する描写はぼかされている

これ、最初は偶然かと思ったんですが、恐らく意図的ではないかと思い直しました。父親はショウに刺され、ユウジはマサに殴られ、タツヤはアユミに刺されて死亡するまでがしっかり描かれています。ところが母親、モエ、客の女性達を殺したことはショウもしくはミツルの口からしか語られていません。
だから私は観客から見えていること=男性を殺害する描写はすべて嘘なのではないか?と思ったのです。
ただそうするとモエに続いて母親を殺したことも本当になってしまい、最初に私が申し上げた「家に火を放ったのは母親」という仮説が崩れてしまうんですけどね……。「立花ショウが殺したのは(ミツルの客に限定せず)女性だけ」説でもよかったんですけど、そうすると父親は殺しておらず母親だけ殺しておいて「両親を殺した」と証言するのはあまりにも嘘のつき方がおかしい。なのでボツにしました。

話を戻します。
じゃあなぜ立花ショウは殺してもいない人たちに対して自分が殺したと嘘をついたのでしょうか?

それは、身も蓋もないですが、

多重人格による犯行に見せかけ、心神喪失による無罪判決を狙うため

です。

そもそも今回の連続殺人事件は、客観的に見ると「自らをミツルと名乗る立花ショウという人物が客の女性達を殺した」だけにすぎません。立花ショウの中に何人人格がいようが、です。ミツルという名前は男娼としての源氏名も兼ねていたかもしれませんし。
ここで実際に「名無し」「マサ」「アユミ」「ミツル」という人格が本当にいたかどうかは重要ではありません。すべてが立花ショウの演技でも、人格自体は本当に存在していたとしても、ゴールは多重人格者による犯行に見せかけ、心神喪失による無罪判決です。
なので、各人格が生まれる経緯から殺人に至るまでの、多重人格者の犯罪として誰もが納得のいくストーリーが必要でした。無罪を勝ち取るためにやってもいない殺人をでっちあげるというのはなかなかアクロバティックですが……。
ではなぜ、そこまでして無罪を勝ち取りたかったのかというと、まあ、保身のためでもいいんですが、それではあまりにも矮小すぎる。それなら最初から自首しなきゃいいわけですし。
なので私はこれからも女性たちを「救う」ためかな、と思いました。物語の最後に立花ショウ(とあえて書きます)が起こす事件も、その一つだったのかもしれません。


考察は以上です。もう本当にめちゃくちゃ好き勝手に書いてしまって無理やりなところも多々ありますがご寛恕ください。とまあこんな私の妄想や多種多様な解釈を許容してくれるのも「嘘つき2023」の魅力なんですよね。


というわけで次は永石さんについての感想です!

中村トオル役 永石匠さん
永石さんを拝見するのは前回「モナルコマキ-石川五右衛門異譚-」を観劇して以来で、30代になられた永石さんはどんな演技をされるのかなあととても楽しみにしていました。今回「嘘つき2023」ではなんとバーのママさんです。マツコ・デラックスさんのような女装家ではなく、「心は女性」という方です。
そんな永石さん演じるママはショウの心身ともに拠り所であり、アユミを生み出した「母」でもあります。正直いつ裏切ってアユミに殺されるかとヒヤヒヤしていましたが(すみません)ママは最後までアユミのお手本でした。かつて男として自分に嘘をつき続けたママは、嘘をつくことの罪深さを誰よりもわかっていたんですよね……。ママのその後は語られることはありませんが、きっと後悔はしていないだろうと思います。30代の永石さんだからこそ演じられる懐の深さなのかもしれない、と勝手ながら思いました。でもゲスに豹変するママもちょっと見たかった
あとオープニングで全員で曲に合わせてダンスをするのですが(この曲がまたかっこいい!)永石さんはヒールでガシガシ踊ってて凄〜〜!と感動しました。永石さん、ダンスも踊れるんですよね……本当に多彩な方です。とまあ無事永石さんを拝見できたので今年は良い年になりそうです。

他の登場人物(および出演者様)についても僭越ではありますが感想を述べさせていただきます。ちょっと役の話と演者さんの話が混ざってしまってるんですが、「その役を生み出した演者さん」への気持ちだと思っていただければ幸いです。パンフレット順です!


立花ショウ役 氏家蓮さん
ショウの生きる苦しみを一新に背負い、まさに今にも消えて無くなりそうな、だけど最後の最後に残る蝋燭の芯のような存在感があったと思います。喜怒哀楽の「喜」「楽」を極限まで抑えた、ほんの少しの「哀」が垣間見えました。だからこそ「怒」に全振りした名無しとの対比が際立つのだと思います。また、他の人格の器でもあるので良い意味で空虚さがあり、それが却って立花ショウという人間の底知れぬ深みを感じました。

マサ役 澤邊寧央さん
少年らしい明るさと純粋さ、甘酢っぱい初恋から一転しての悲劇……最初から最後までその真っ直ぐさに胸を打たれます。マサが一番生きる喜びを感じられたはずなのに。せめて他の人格の誰かと話ができたらまた違った結末だったのではないかとやりきれないです。観客側は絶対にハッピーエンドになれないのが分かっているからこそ、幸せになって〜〜と願わずにはいられないキャラクターでした。

アユミ役 小林れいさん
私はすべての人格の中でアユミが一番「強い」と感じました。ショウは「アユミ」として生きていくのが一番幸せの道に近かったのではないかとさえ思えます。いつも背筋を伸ばし、戦う覚悟を持ったアユミは男だからとか女だからとか関係なく美しい存在でした。個人的にはマユ先生との会話がとても好きです。アユミはアユミなりに生きる不安が絶対あったはずなので、ほんの少しでも荷が軽くなったなら良いなと思いました。

倉橋マユ役 藍澤慶子さん
マユ先生は裏の主人公と言っていいでしょう。考察に文字数を割いてしまってマユ先生(とカズさん)の話ができなかったのがとても心残りです。私はマユ先生にとても温かくそして息のできない底なし沼のような苦しさを感じました。心が壊れた人達に向ける優しい眼差しと、優しさだけではない「何か」がそこにある、と思ったのです。マユ先生、本当は何が欲しかったんですか?マユ先生は本望でしたか?叶うなら私もマユ先生とお話ししたかったです……。
(追記:このエントリをアップしたあと、なんとマユ役の藍澤さんご本人からリプライをいただきました。「マユ先生とお話ししたかった」と書いたら本当にお話しできてしまった……嬉しすぎる……)

須藤ミキ役 小菅怜衣さん
ずっと厳しい冬のような人生を送っていたマサ(ショウ)に訪れた暖かい春のような存在でしたね……しかし冬はまだ終わってなかった。(というか作中ずっと限界真冬)いつもニコニコしていて、哀しみや怒りを限界まで出さないようにしていたミキ。狂い咲きの桜のように華やかで儚く、その一瞬の煌めきがとても印象的でした。

アキラ役 阿瀬川健太さん
いやめちゃくちゃ不思議な役どころでしたね!?マユ先生との関係も最初は恋人同士だと思っていたんですが、どうも違うようで……。マユ先生が「沼」なので、いい意味で真逆の軽快さを感じて良かったです。アキラ先生が出てくるといつも笑ってしまいました。一人だけ名字もないし、もしかしたらある意味マユ先生のもう一つの人格(のような存在)だったのかも。

立花テツヤ役 浮谷泰史さん
おとうちゃん……初手からイカれてる姿しか見てなかった分、まともだった頃の姿との対比が悲しい。良い社長さんだったんだろうなあ。お父さんは決していい人間ではなかったですが、嘘つきでもなかったんですよね。氏家さんとそこまで年齢差がないですが、良い面も悪い面もちゃんと「お父さんらしさ」が出てて凄いな〜と思いました。

工藤モエ役 若松春奈さん
モエ〜〜後ろ後ろ〜〜!!と全観客が叫ばずにはいられないキャラクター。ああこういう子いそうだなというリアルさがあります。しかしこういう感想はあまりよろしくないかもしれませんが、破滅に向かって迷いなく突き進んでいく姿はある意味カタルシスを感じました。

佐藤ミナコ役 渡邉ひかるさん
マユ先生の信じる光に真っ向からNOを突きつけてくる存在です。ミナコはモエやショウの母親とは違って男(夫)がいなくても生きていけますが、子供はね……。幸せなときとの落差が一番激しいです。しかしこの物語、女が男を選ぶと死にますが、子供を選ぶと生き延びるというのがまた……。(トオルママもある意味そう)マユ先生の光を遮る闇ではあるかもしれませんが、カズさんにとっては間違いなく最後に残された希望でもありました。

立花ミホ役 かよう愛子さん
ミナコのあとにおかあちゃん持ってくるんか〜〜い!確信犯だな?父親にボコボコにされてる間、私の中のヤクザが「なにやってんだ!!フライパンでも何でもいいから殴り返せ!!正当防衛じゃ!!!」と怒っていたのですが、愛していたんならしょうがない…………あと私はショウに言った「私が守ってあげる」という言葉自体に嘘はなかったんじゃないかな、と信じたいです。ただ母性というものは皆が思うよりはるかに脆く儚かったというだけで。

小倉ユウジ役 オオダイラ隆生さん
登場した瞬間から「あっ一見いい人そうだけど絶対なんか裏がある人だ!!!」という危ない雰囲気を醸し出していました。凄い!普通にいい人とどう演じ分ければそうなるんだろう!?と思いました。あとアー写とお姿がまったく違うのでとてもびっくりしたのですが、それがもまた独特な多面性の一つなのかなと感じた次第です。

小川タツヤ役 寺木慧佑さん
ク、クズだ〜〜!(歓喜)あまりにもクズすぎていろんなところで「実際はいい人です!」とフォローが入ってたのが面白かったです。大丈夫ですよ、分かってますよ!でもこういうクズ役、誰しも一度はやってみたいんじゃないかなあ。お芝居でしかできませんし。(ですよね??)

刑事役 石津雄貴さん
あら、役名ないんですね。ちょっと危ういカズさんと血気盛んなタクヤ刑事との間をうまく取り持つバランサーで、警察サイドの良心でした。精神科医サイドの人間とも摩擦なく接していましたし、こういう潤滑油のような人がなんだかんだで職務を全うできるんだろうな〜〜と思います。

佐藤カズ役 図師光博さん
ショウ及びマユ先生に対する明確な「悪役」ですが、恐らく観客が一番感情移入できるであろう存在でしょう。私はカズさんが一番普通の人間だと思うんですよね。カズさんもマユ先生もどっちも間違ってはいないと思うんですが、正しさって両立できるものではないんだなあと何とも言えない気持ちになりました。カズさんは色々失ってしまったけど、一番大切なミナコだけは「戻ってきて」くれたのがこの物語の唯一のハッピーエンド(と呼ぶにはあまりにも苦い)でした。カズさんが罪を犯さなくて本当に良かったです。

手塚役 田中彪さん
ゲスい借金の取り立て屋、しかも割とあっさり殺されてしまうという「いや脚本・演出を手掛けた人がやっていいのか!?」という役です。ひょったん死んじゃったよ〜〜と私の中のキモ・オタの人格が涙を流していた。あまりにも「本物」すぎて思わず笑ってしまったんですが、人間、本当に恐怖を感じたときは笑うしかない。
脚本・演出家としての田中さんへの感想もここに記します。ショウと人格たち、その人格を取り巻く人間たち、警察とショウ、精神科医とショウ、警察と精神科医……と幾重にも折り重なる関係性の応酬に、ただただ圧倒されました。これが初めての作品だなんて凄すぎる……。田中さんは誰に一番感情移入していたのでしょうか?田中さんの手掛けた舞台を観劇するのは初めてだったのですが、それがこの作品で本当に良かったと思います。

三上タクヤ役 湯本健一さん
ちょっとタクヤの話をする前にショウの話から入ってしまうんですが、ショウは物語の構成上、どうしても「成長」することができない主人公です。ショウが人間的に成長し、富や栄誉を得る英雄譚ではないので。そのショウの代わりに成長・変化する機会を与えられたのがタクヤなのかなと思いました。実際、この一連の事件を経てタクヤの考えは180度変化します。ここまで明確な人間的成長があるのはタクヤだけなんですよ。そして終盤、カズさんが罪を犯すのを既の所で止めます。あれだけ頑なだったタクヤがここまで成長を遂げたことに私は救いを感じました。

ミツル役 竹石悟朗さん
あ〜〜〜〜ミツルが最後か〜〜〜〜〜〜………………(天を仰ぎ顔を両手で覆う絵文字)ミツル、最後の最後まで分からない人でした。そして分からないながらもめちゃくちゃ感情移入してしまって、ミツルは誰とどこに行ければ幸せだったのかな、などミツルにとってはまったく意味のないことを考えてしまいます。恐らくミツル自身も分かっていなかったでしょうし。正直前半の考察も半分以上はミツルのために書きました。劇中でミツルが客席を見ながら話をするシーンでは、めっちゃ目が合う!!!とうち震え……ミツルだけが「こちら側」を認識しているような錯覚さえ覚えました。


以上です。まさかここまで長くなるとは思いませんでした。永石さん及び出演者の方々のお芝居、またご縁があったら見に行きたいです。

ありがとうございました。
それではまた。

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