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骨格標本との対話、博物館の未来

拝啓、現代人のみなさま

みなさんは、骨について、どのくらい知ってますか?

今回は、漫画をきっかけに、骨を見に行った話をしたいと思います。


骨の博物館

今回、骨を見に行った場所は、2箇所です。
一つは、インターメディアテクという、東京駅隣にある、丸の内JPタワーないにある博物館と、
もう一つは、骨の博物館という、神奈川にある、日本大学生物資源科学部博物館になります。


骨へのいざない

そもそも、なぜ骨を見に行きたかったかというと、ある漫画の影響がありました。
その漫画は、ブルーピリオドです。
みなさんはご存知でしょうか?

かんたんにご紹介すると、芸術とは無縁だった主人公が、日本の芸術の最高学府である、東京芸大を目指す、スポ根受験物語でして、
今回、見に行く、骨の博物館は、その漫画の5巻に出てきました。

東京芸大の入試一次試験終了後、二次試験の合間の息抜きとして、主人公たちが、美術予備校の先生に、骨の博物館へ連れて行ってもらうというものなんですが、

一周目の観覧は、楽しむ側として
二周目の観覧は、絵を描く人として
取材して書きなさい、という課題が出ます。

対象物を、絵を描く、という観点で見つめたときに、主人公は、10人が10人面白いと感じる場所が違うことに気づくのですが、いざ、仕上がった作品の発表会では、まさか…というお話です。


僕の"骨への先入観"

ブルーピリオドの登場人物たちは、絵を描く人の観点で見ていたけれど、僕だったら、どんな観点で骨を見るだろう?
いつか、自分も同じことをしてみたいと考えていました。

自分は、「鑑賞者」という視点に加えて、「自分の専門分野の視点」、ポッドキャスターという「人に伝える視点」、ポッドキャスト番組のコンセプトの「過去現在未来という時系列の視点」に拡張して、見つめてはどうだろうか、と考えていました。

今回、その考えをもとにして、骨の博物館に行く機会がやってきました

改めて、骨、について、僕の持つ先入観を振り返ってみます。

身近なものだと、普段食べている魚の骨。
そして、われわれ人類の肉体に秘められている骨。
改めて骨について考えてみると、人間にとって欠かせないものであることは明らかです。

このほかにも、骨の成分や骨粗鬆症など、一般的な骨のことは、思い出せるのですが、皆さんは骨について、どのくらいのことを知っているでしょうか?

知っているようで、知らないことの方が多いかなと思います

そんな骨への無知・先入観は、今回の骨の博物館の訪問で、どのようにアップデートされるのでしょうか?


骨の博物館(神奈川)

大学内の施設ということで、予約をして訪問しました。

まず、一言言わせてもらうと、行ってきてよかったです

「骨」の文字が、太い骨の形になっていて可愛らしい感じでした

予定通り、1週目は楽しむ側として鑑賞をし、2週目はいろんな視点で骨を見つめてみることにしました。

建物に入って、まず出迎えてくれたのは、巨大なサイ・ラクダ・アフリカゾウ・キリンの骨格標本でした。

見た瞬間、思わず、デカい、と小声で言ってしまうほど、興奮してしまいました。

館内には、さまざまな骨格標本の展示がされていたのですが、ぜひ皆さんにも行ってみてほしいので、note では、3つほどに絞り、写真で見てもらいたいものをご紹介します(Podcastでは別のさまざまな動物について紹介していますので、よければお聴きください)。


キリンの首の骨の美しさ

最初、前方から見た時の巨大さに、圧巻されていたのですが、自分にとってキリンの骨格標本の最も美しいと感じたのが、この首の骨になります。
直線に連なる骨の強固さに加え、折り重なるように波打つ骨の美しさは、とても魅了されました。

キリン同士のケンカの際の、スイングについてイメージしてみると、胴体に近い部分は太く、頭に近い部分は細い骨格と、骨の一つ一つの波打つような形状が、スイングのしなやかさ、と打撃の強固さ生み出していることがわかります。

オランウータンへの愛着

続いては、オランウータンです。
隣には、オランウータンの剥製も展示されているのですが、頭蓋骨を見ただけで、オランウータンだとわかります。
君は骨までオランウータンなんだなぁ、と考えると、次に、動物園で出会った時には、より一層愛おしく思えるんだろうなと思いました。

クロミンククジラの機械的美

続いて、海のエリアに展示されているクロミンククジラです。
Podcast内では、このクロミンククジラの別の骨についての魅力を語ったのですが、もう一つ語っておきたい骨のパーツがあります。
それは、背骨です。

垂直方向の背骨の一本一本が、小型ジェット機のような垂直尾翼をしていて、カッコ良さがたまりません。これらが連結して、流線を描くような骨格の機械的美は言うまでもありません。


透明標本との出会い

今回、新しく知った標本があります。
それは、透明標本です。

これは、小さな動物を生きていた時と同様に、立体的な配置で観察する目的で、軟骨の染色後に、他の骨を別の色で染めた標本、とのことでした。

最初に見た時に、まるでMRI画像や深海生物を見ているかのような、精巧さ、色合いの美しさに驚きました。
この、標本作成のための染色には、相当な技術が必要ということで、標本を超えた芸術を目の当たりにしたように感じました。


1週目の鑑賞振り返り

骨への先入観と、実物のギャップを改めて認識できました。
骨の色合いや表面のざらつき。
そして、人間との骨の類似点。
ほとんどの動物は、人と構成する骨のパーツは同じですが、個々のパーツが環境に適した形に変形している、ということを改めて思い知らされました。その点は、親近感、というか、なんだか安心感がありました

あとは、骨格標本の組み立ることの凄さ、ですね。
展示された骨格の姿勢は、その動物がすごく映えるというか、生き生きしている姿勢になっているように感じました。
組み立てられた、作業者の方はすごいですね。
そんなことを考えながら、二週目に突入しました。


2週目の鑑賞振り返り

二週目は、ポッドキャストや過去現在未来、そんな、少し引いた視点や、他の角度から骨格標本を見つめてみました。
その中で、いくつか気付いたり、思ったことを書き残します。

展示された骨格標本は「完成形」ではない

展示された骨格標本の姿は、その種の完成形や最終形態ではないことに気づきました。
どういうことかというと、ここに展示されている動物たちは、せいぜいここ数百年の進化の過程での姿でしかない、ということです。

恐竜は、彼らが生きていたジュラ期などの、過去の時代で生存に適した姿であったように、現代の動物たちも今に姿を適用させたにすぎません。
この先も姿を変えていくでしょう。

そう言った意味では、骨格標本を記録し、伝えていくという行為は、未来を生きる人々が、過去の時代の世界や環境を知るための手がかりとして、
連綿と受け継いでいくべき人類の役割
なのではないでしょうか?


標本に命を宿すことの重要性

2つ目は、当たり前のように鑑賞をしていて気づきませんでしたが、剥製や標本に命を宿すことの大事さに気づけた、ということです。

鳥や、オオアリクイの剥製もあったりしたんですが、ただ展示すればいいってわけじゃないんですね
死んでもなお、目に正気が宿っていて、確かにその場に存在するんですよ。

骨格標本であっても動き出しそうな姿や、目の輝きは、彼ら動物たちを死骸から、剥製・そして標本として蘇らせている、ということを改めて気づかせてくれました。
そして、そのことへの気づきは、今生きている動物たちへの愛おしさへの繋がっていきます
先にご紹介した、オランウータンのように、骨格標本に宿るいのちは、今、この世界で生きているオランウータンたちへの尊さや愛着を意識させてくれました。


インターメディアテク(東京)

東京駅に移動を、2件目のインターメディアテク、本命の博物館に向かいました。こちらが、ブルーピリオドに登場している博物館になります。
東京駅の丸の内口から歩いてすぐの建物の2階で、入り口からは、3階までの吹き抜けエリアが広がっています。

3階への階段の壁には、巨大なワニの骨格標本があります。

入ってみると、暖色照明に、高級な洋風の館を思わせるような館内で、めちゃくちゃおしゃれでした。

映画やドラマのセットに使われてもおかしくないようなモダンな雰囲気です。

展示はというと、てっきり、骨格標本の展示だけかと思ってたんですが、
骨だけではなく、剥製や昆虫標本、鉱物に、民俗文化財や昔の医療機器や蓄音機まで、古今東西のさまざまな展示がされていました。

奥のエリアにもさまざまな展示が並べられていました。

1週目の鑑賞振り返り

なんでもありすぎるが故に、一週目は情報量の多さで圧倒されました。
骨の博物館との違いとしては、こちらのほうが標本の種類は多く、
馬やコウモリ、悪魔のモチーフにもなっているであろう、ヤギやガゼルなどの頭蓋も展示されていました。

あとは企画展で、100年前の魚の骨格図なども展示されていたのですけど、それもすごかったですね。
模写の精度がすごくて、現代人と遜色ないレベルでした。

昔の人たちが食べていた魚を中心に、骨格などが描かれている。

あとは、人間の骨格標本のレプリカもありまして、
改めてみると、他の猿と大差のない骨格をしていることを改めて理解することができました。
ぼくらも所詮は動物、たまたま賢かっただけ、なんですね。

人間の骨格標本レプリカに加えて、さまざまな哺乳類の骨格標本が展示されていた。


2週目の鑑賞振り返り

二週目は、骨格標本と剥製に絞って展示を見直しました。
そのなかで感じたことを、簡単に紹介します。

現代で標本・剥製を作る必要はあるのか?

多種多様な標本・剥製の展示がされていましたが、今後も剥製を作る必要はあるのでしょうか?

最近は、動画保存や3Dスキャンができますし、DNA解析も進んでいるので、
剥製以外の方法で種のデータを保存できるようになっているはずです。

おそらく近代では、剥製のためのハンティング等はかなり減ったかと思いますが、ここに展示されている以上に、今後、展示のための動物捕獲がなされなければいいなと思いました。

博物館の巨大化が意味するもの

世界各国にさまざまな巨大博物館が存在し、さまざまな動物たちが展示されています。
今後、さらに博物館で展示される動物たちが増加し、博物館が巨大化する場合、それは何を意味するのでしょうか?

それはきっと、動物たちが博物館の外の世界から消えてゆくことなのかもしれません。

博物館の営みは、とても素晴らしく、今後も続けていくべきと考えています。
しかしながら、我々は、博物館だけでなく、この世界に生きている動物たちにも同時に目を向けていく必要があると思います。

今生きている動物たちが、博物館の中でしか出会えない未来にならないよう、環境や動物の保護など、やれることはやっていかないといけないでしょうね。

そういった気づきも含め、2件目のインターメディアテクも出かけて良かったなと感じました。


2つの博物館を通じた、骨との対話

今回、漫画を発端とした骨との対話を行ったわけですが、想像以上に、いろんなことを学び、知ることができました。

骨格標本として蘇る、動物たちに宿った命と美しさ

骨格標本を残すことで気付く、動物たちの世界の捉え方

博物館の中から気付く、博物館の外に広がる現代の動物たち


それが西暦3000年まで脈々と続けば、多様な動物・骨の世界が、未来でも広がっているんじゃないかなと思っています。

僕ら現代人は骨になっているかもしれないですけど、その想いや、思いをのせたこの音声や記憶も、未来に残っていると嬉しいなと、改めて思いました。
ということで、西暦2023年9月の現代人がお送りしました。


まとめ

  • 今回は、骨の博物館巡りを通じて、骨との対話をしてきました

  • お読みいただいたみなさんも、骨への印象、変わりましたか?

  • ポッドキャストでは、詳しくお話ししていますので、気になった方はぜひお聴きください!

  • 今回ご紹介した博物館は、どちらも無料なのに恐ろしく素晴らしい展示ばかりです。ぜひ見に行ってみてください!


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