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【脚本】「宓」番外編ーユビキリー

「宓」プロジェクト派生作品の一つ「ユビキリ」
こちらもダンス作品として脚本を書きました。
この作品は歩き巫女である凛と茅の過去にまつわる物語です。
ある事件をきっかけに茅を人柱として凛が祓の儀式で巫女舞をするというダンス作品。
人の心は鬼にも仏にも怪物にも修羅にもなれるもの。
この作品はそんな人間の、誰しもが種を密かに潜めている恐ろしい一面を描きました。
自分は絶対に人としての道を誤らない、悪の道には踏み入れない、人を傷つけたりしないと、確固たる強い正義があればあるほど、時としてそれは鬼を作り出すものです。
誰かの正義は誰かの悪。

昔、お芝居で悪役を演じた時に、どうすればより悪人に見えるのかということを追い求めていたんですけどね、その時に演出の方に「悪人は自分のことを悪人と思って行動はしていないよ」って言われたんですよね。「その悪人にとってそれは正義なんだよ。正しいと思っている。だから悪人にとっちゃ自分たちが思っている正義がむしろ悪なんだよ。悪そうな奴演じたって悪人にはなれないよ。」と。
なるほどー!とめちゃくちゃ納得したんですよね。

誰かの正義は誰かの悪。

もちろん道徳的なことからくる絶対悪なものもあると思いますが、この作品では人間の集団心理と不安定な倫理観からくる悪の怖さを孕ませています。
凛にとってその後の人生に大きな影響を与えるお話。

あらすじに登場人物紹介なども載せていますので、初めて見られる方はぜひこちらもご覧になってから番外編を楽しんでください↓

番外編「ユビキリ」あらすじ

ある郷の村に来た凛・茅・市・源内。
その郷に来て数日後から村の中では疫病が広がりはじめ多くの村人たちが病に倒れた。
看病や災いの祓いの儀式などあらゆる事を行い村人達の手助けを行ってきた凛達だったが、ついに死者まで出始め被害は郷の各地に拡大していく一方。
すると郷の者達はこれを祟りだと称し、凛達がこの災いを持ってきたのだと言って責め立てはじめた。
ついに恐怖に煽られた郷の者達は団結して凛達を生贄に、災いを治めようと彼らを寺の中に閉じ込め殺そうとする。
そこで茅が、自分が災いを鎮める為に人柱となるので他の者は皆救って欲しいと、仲間の反対を押し切って郷の長に懇願する。
長は遂にそれを認め、凛達に祓いと人柱の儀式を執り行うよう要求してきた。
幼い頃から茅と共に姉妹のように過ごしてきた凛には特に受け入れ難くとても遂行出来ない。
しかし郷から逃げられる術はもうなく、要求を受け入れるしかない。
そして遂に祓いの儀式の日となった。
茅は最後に凛達にどうか生きて欲しいと言った。
そして日も暮れ夜更けになった頃、凛達は儀式のための巫女舞を舞うのだった。



ユビキリ

夢を見る 鮮明に
静まり返った夜更け
張り詰める空気
飛び散る赤い火の粉
凛と鳴く鈴の音とともに
白い千早の袖が揺れる
左手には榊
天を仰いでは弧を描き
緋色の切袴は広がり踊る
幾重にも連なる青白い手
取り囲む無数の松明
無情に響く太鼓の侘しさ
切り裂くような目の冷たさ
白い息はくうを漂い
女たちはひたすら舞う

声が消える 音のない声が
暗闇の底に落ちてゆく
何かを引き連れてゆきながら
重い扉が閉まってゆく
誰もが皆沈黙を破らず
ただひたすら見続ける
炎に照らされた顔は鬼のよう
人は皆鬼と化すのだ
己の醜さを隠すため
人は呪いをかけるのだ
己の恐怖に耐えきれぬため
人は罪を背負うのだ
己の正義を疑わぬため
そして鬼は笑うのだ
静かに奇妙に冷酷に

女たちは舞い続ける
くるくるくるくるくるくると
笛の音がまとわり響く
ゆらゆらゆらゆらゆらゆらと
脳裏に焼きつく景色たち
再生される記憶たち
笑い声が聞こえる
遠くの方から
走り回る童たち
手には無数の風車
いつの記憶だろうか
あの日は日差しがきつかった
誰かが数を数えている
手で顔を覆いながら
みんな何処かへ散ってゆく
揺れる無数の兵児帯たち
誰かが転んだ
あっと言う間に置いて行かれる

”もういいかい”

後ろから声が聞こえる

”もういいかい”

もうそこには誰もいない

”もういいよ”

誰かがそう叫ぶ
終わりだ
そう思ったら手が伸びてきた
転んだ地面の先に
手を掴むと勢いよく引っ張られた
そのまま遠くに走り続けた
やっと辿り着いた木陰で
わたしは
そう わたしは言った
”置いて行かないで”
そしたら目の前の誰かは言った
”置いて行かないよ”
わたしは言う
”絶対だよ”
誰かが頷く
”うん 絶対”
わたしは小指を差し出す
”約束だよ”
誰かが小指を絡ませる
”うん 約束ね”
わたしたちはユビキリをした
誰だっけ
あれは誰だっけ
ひらひらと千早の袖が舞う
くるくると視界は回り続ける
緋色の切袴がふわりと広がる
炎は未だ勢い止むことを知らず
鬼たちの顔は赤く染まっている

あと少ししたら
あと少ししたら
あと少ししたら
終わりを迎える

あと少ししたら
あと少ししたら
あと少ししたら
逝ってしまう

ユビキリの代償がやって来る
針千本がやってくる
飲むべき者は誰なのか
ああ わたしも鬼と化す
あの約束をした子は誰だっけ
あの約束をした子は誰だっけ
置いて行かないでと言ったくせに
ついて行くのが怖くて出来ない
針千本は誰が飲む
ユビキリの罰は誰が受ける
わたしは誰といたのかな
わたしは誰といたのかな
日差しが強くて顔が見えない
覗き込んできたその顔が
もうすぐ終わる
笛が止む
鈴の音だけが木霊して
白い息が静かに漂う
鬼たちはずっと見ている
その光景を見ている
美しい姿のまま
土の中に消えてゆくのを
白い千早が埋もれるのを
わたしは覗き込んでいる
手を伸ばさずにただずっと
誰だっけ
誰だっけ
あの約束をしたのは誰だっけ
わたしは知っている
眩しくても覚えている
でももう忘れたの
もう忘れてしまったの

炎が連なり去ってゆく
鬼たちは山を下りてゆく
赤い色は方々に散らばる
後に残ったのは静寂だけ
残酷なほどの静寂だけ
もう何も聞こえない
それなのに耳が研ぎ澄まされる
もう何も聞きたくない
静寂の音など聞きたくない
わたしは鮮明に覚えている
あなたが消えて無くなる音

夢を見る 鮮明に
目を閉じれば今でもずっと



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