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【脚本】ダンスプロジェクト「宓」後編


十一、 あなたとわたし

苦しい 痛い 辛い 泣きたい
どろどろがへばり付く
窒息しそうな圧迫と
心臓を刺すような激痛
こちら側のわたしは悲鳴をあげて
あちら側のわたしは攻撃をやめない
幸福なんて望んでなかった
絶望なんて望んでなかった
ただ立っていたかった
あなたと立っていたかった
目まぐるしく移り変わる景色の中で
ただあなたと共に生きたかった
こちら側のわたしは打ちひしがれて
あちら側のわたしはそれでも走る
あなたを殺したいわけじゃない
あなたを殺したいわけじゃない
だけど殺せと言ってくる
あちら側から言ってくる
ああ 残酷
とても残酷
何を守ろう
何を守ろう
それでもわたしは
何を守ろう
何を壊そう


十二、 渦

走る 走る 走る
ぶつかり合う金属音
こぼれていく刃先
真っ赤にこびりつく深紅
いくつもの足音と白い息
男 女 男 女
沢山の糸が絡まっている
沢山の糸が散っていく
なにを守ろう
なにを守ろう
一寸先に誰の命を残したいのか
一寸先に誰の命を残さなければならないのか
交差する蜘蛛の糸
絡みつく記憶
痛みだけが繫ぎとめる現実
交わった刃に映るわたし
あなたの瞳に映るわたし
なにを守ろう
なにを守ろう
迷ってはいけない
立ち止まってはいけない
泥沼の中に落ちるな
己の存在意義を忘れるな
答えなんか一生わからない
走れ 走れ 走れ
螺旋の行方なんか知ったこっちゃない
走れ 走れ 走れ
望む答えなんか来やしない
走れ 走れ 走れ
報いも情けもありゃしない
走れ 走れ 走れ
己の存在意義を忘れるな



十三、 ふたり(凛 弥左衛門)

痛い 痛い 痛い
いろんなものが
刺される 裂かれる えぐられる
哀しい 憎い 恐い 辛い
感情に体が追いつかない
幾度も 幾度も 振動がくる
痺れるくらいこの手の中に
痛い 痛い 痛い
いろんなものが
涙を流す暇もない

どうして貴女だったのだろう
どうして貴女に刃を向けているのだろう
どうして貴女を殺そうとしているのだろう
私は貴女を赦さない

どうして貴方だったのだろう
どうして貴方に刃を向けているのだろう
どうして貴方を殺そうとしているのだろう
私は貴方を手放せない

永遠に続いて欲しかった
月明かりの中の ほんのひと時が
永遠に続いて欲しいと願っていた
消えてしまいそうなあの笑顔が
失いたくなかった
そこに確かにあった温もりが
いつか失くなりそうだと思ったから
だからこんなに足掻いているのか
初めからなかったのかもしれない
けれど掴んでいたかった
その手を掴んでいたかった
離したくなかった
どうして
どうしてこんなにも
あなたを愛しているのだろう

痛い痛い痛い痛い
走れ走れ走れ走れ

己の存在意義を忘れるな


深紅が体から溢れ出す
鈍い痛みは激痛へと変わる
貫通した刀から
小さな振動が伝わってくる
貴方の手が震えている
そうして更にもう一度私を
深く深く突き刺した
血の味がする
喉の奥から溢れ出す
赤く染まった口元に
貴方は噛み付くように口付けをして
私の血を飲み込んだ
痛みは幾重にも重なる
肌の内側に入り込み
やがて心臓まで到達する
断末魔で視界が歪む
血と涙で滲んでいく
私は貴方を殺せない
だからせめて
散り際くらいは選ばせて
目まぐるしく景色が動く
すべてが元に戻っていく
いつかのあの日に戻っていく
ああ あの時もこうして
貴方の腕の中にいた
優しく私を抱き寄せて
何処にも行くなと呟いた
何処にも行かないよ
何処にも行かないよ
此処にいるよ
此処で私は朽ち果てるのよ
地面に崩れ落ちていく
貴方の腕から抜け落ちていく
冷たい
真っ白になるその瞬間
最後に見えたのは冬の空

声が聞こえた気がした
瞬きをするよりも短い ほんの一瞬



十四、 愛

はらはらと散って行く
肌を刺す痛みとともに
ぽたぽたと落ちていく
生温かい記憶の淵へ
それはまるで散り椿のように
一目散に落下する
一目散の中のひと時
わたしはあなたの夢を見た

愛しているから憎い
愛しているから赦せない
愛しているから

いや 違う

これは 愛なんかじゃない
心にうごめいて止まない
どうしようもない程の欲望だ
手に入れられないものへの
どうしようもない程の執着だ

知っていたよ
わかっていたよ
貴女は私を裏切ること
知っていたよ
わかっていたよ
いつかいなくなること
知っていたよ
わかっていたよ
いつかいなくなるその時は
この手が深紅に染まる時
だから永遠に続いて欲しかった
あのまま時が止まればよかった
答えなんて必要ない
あちら側に貴女が立っていた
ただそれだけ
血の味がする
ただそれだけ
私は貴女に恋していた
ただそれだけ

ただそれだけ



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