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【脚本】ダンスプロジェクト「宓」前編


一、 走馬灯 

はらはらと散っていく 
肌を刺す痛みと共に
ぽたぽたと落ちていく 
生温かい記憶の淵へ
それはまるで散り椿のように 
一目散に落下する
一目散の中のそのひと時
わたしはあなたの夢を見た
真っ白になるその瞬間  
最後に見えたのは冬の空

目まぐるしく視界が動く
すべての時間が戻っていく
降りしきる雨は空にかえり
足音は一目散に遠のいていく
矢継ぎ早に変化する景色
次々に現れては消える記憶の欠片
男 女 男 女
約束 契り 争い 裏切り
鈍い痛みは幾重にも重なる
肌の内側に入り込み
やがて心臓まで到達する
断末魔で視界が歪む
血と涙で滲んでいく
最後に声が聞こえた気がした
瞬きをするよりも短い 
ほんの一瞬


二、 追憶(弥左衛門と凛)

永遠に此処にいたかった
永遠に触れていたかった
月明かりの下で花が舞う
私の手はいつも冷たいと
貴方は私の手を握りしめていつも言う
そうしていつも優しく微笑む
それだけでよかった 
ただそれだけで

永遠に此処にいたかった
永遠に触れていたかった
君の手はいつも冷たい
君の目はいつも泣いている
ある日突然現れたように
ある日突然消えてしまうのだろうか
このまま時が止まればいい
それだけでよかった
ただそれだけで

ただ二人で居られればそれでよかった

けれど振り返れば君はいなかった


三、闘い

走る 走る 走る
ぶつかり合う金属音
こぼれていく刃先
真っ赤にこびりつく真紅
幾つもの足音と白い息
男 女 男 女
沢山の糸が絡まっている

ある者は忠義の為に
ある者は自身の為に
ある者は正義を掲げ
ある者は使命を掲げる
男は勇ましく
女は妖艶に
時に生々しくも美しく
荒々しくも潔く

なにを守ろう
なにを守ろう

一寸先に誰の命があるのか

忠義の中に生きる弥左衛門
策略の中で生きる凛
世の隙間を眺め続ける市
愛を渡り歩く夕霧
快楽に溺れる木三
契約に価値を見出す源内
不公平から抜け出せない印代
居場所に執着する八重
理を受け入れられない長兵衛
運命に翻弄される茅

なにを守ろう
なにを守ろう

一寸先に誰の命が消えていくのか


四、 市

さあ何から話そうか
何が聞きたい
何が見たい
何が知りたい
何が欲しい
私は答えなんか持っていないよ
男と女に陰と陽
表と裏に正義と悪
何が間違い
何が要らない
何が嘘で
何を捨てる
私は答えなんか持っていないよ
お前の望むような答えは持っていないよ
私はただ見てるだけ
あちら側とこちら側の隙間を上から
私はただ覗いているだけ



五、偽物と本物 (夕霧と木三)

艶やかに 生温かい汗が落ちる
白い肌の上にぽたりぽたりと
荒々しく息が絡まる
上昇した体温とともに喉に絡みついたそれは
唾液に絡まり流れていく
熱い 熱い 熱い
体が溶けてしまいそう
貴方は私を自由にした
鎖をつけて自由にした
貴方は私を愛してると言う
いつも耳元で荒々しく
何度も何度も言い続ける
耳たぶにねっとりと絡みつく
好きなように愛せばいい
好きなように舐ればいい
所詮この身体は借り物だから
好きなようにすればいい
愛とやらは随分簡単に築ける
ねえ愛してあげてもいいけど
見返りのない愛なんてあげないからね
本物の愛なんか望んでないの
見返りのない愛なんてあげないからね
この身体は借り物だから
好きなようにすればいい
私も好きなようにさせてもらうよ
貴方が正義なら私は悪になるのかしら
どっちだっていいけど
私も好きなようにさせてもらうよ
首輪をつけて自由にしてあげる
餌はそう簡単にはあげないよ
せいぜい愛する私の為に
よだれを垂らして駆けずり回ればいい
そうすれば快楽に溺れさせてあげる
貴方を愛で満たしてあげる




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