希望を捨ててはいけない米国株の行方、今年後半の米国株の見通し

マネックス証券 岡元兵八郎(ハッチ)

現在の市場に対する投資家のセンチメントは最悪な状態
今年は欧州では第二次世界大戦後初の戦争が起き、米国では40年来のインフレ、利上げが起きました。ついに日本でも物価が上昇し始めるなど、いろいろな意味で大変な年になっています。そんな中今年のアメリカ株は大きく下がり、6月10日にはS&P500もナスダックに続いてベアマーケット入りとなりました。

こうした環境の中で現在のマーケットに対するセンチメントは最悪であると言って良いでしょう。米国株の先行きを報道するメディアの記事を見ても悲観的なものが多く散見されます。マーケットの下げ、そしてそれに対するメディアの論調をみると投資家は弱気に感じざるをえないところがあります。
米国個人投資家協会のブルベアレシオについても、投資家のセンチメントは1987年に同指数が発表されてからこれまでのところのデータを見ても極めて弱気な局面です。そんな中S&P500はベアマーケット入りした訳です。
ここで私はコントラリアン(逆張り的)な見方を紹介してみたいと思います。

インフレ懸念で下がったマーケットだが
今のマーケットが解決を望む最大の問題はインフレです。インフレが悪化したことを受け、利上げが起き、米国債10年利回りが上昇、株価を押し下げるという流れになっています。
その結果何が起きたかというと、株価のバリュエーションが大きく下がったのです。
今年の年初の段階でS&P500の予想EPSを使った今年のPERは21.4倍だったのですが、現時点では17.1倍まで下がってきています。

年初の2023年の予想EPSを使った来年のPERは19.4倍だったのですが、現在では15.7倍まで下がってきています。歴史的なS&P500のPERの平均は18.3 倍ですので、マーケットの全体的な割安感が出始めました。これはトップダウンの見方ですが、ボトムアップで見てみましょう。ボトムアップの分析とは、企業の分析を行なっているアナリストの個別銘柄に対する一年後の目標株価と現在の株価を比較してみるものです。現在のS&P500採用銘柄全体の平均目標株価と現在の株価との差は27%です。つまり、ボトムアップで見ると潜在的にS&P500採用銘柄は27%株価が上がってもおかしくないということです。 S&P500の時価総額上位10銘柄で見ると31%割安となっており、上位5銘柄で見ると34%も割安となっているのです。つまり大型株ほど割安感があるということです。金利が上がったのでバリュエーションが下がるべきだという説明はその通りなのですが、ボトムアップで見てみるとどうしても今の株価レベルは安すぎるような気がしてなりません。

インフレが止まった後のマーケットは
では、これまでインフレ、そしてリセッション懸念で下がってきた米国株ですが、最初の問題である40年来のインフレが止まったとすればその後のマーケットはどうなるのでしょうか?
次のチャートは1927年からこれまででCPIがピークを付けた事例を確認し、その前後に株価がどうなったかを調べたものです。

それぞれインフレがピークをつける1年前、半年前、3ヶ月前からの変化率、そしてピークをつけたその3ヶ月後、半年後、1年後の変化率が出ています。これでわかることはインフレがピークを付けた後のS&P500は、平均で3ヶ月後には2.4%、半年後には2.9%、1年後で見ると6.7%それぞれ上昇しているのです。これだけかと思う方もいるかもしれません。今年はインフレがピークをつけるまでにマーケットが大きく売られてきました。

この14回のうち、インフレがピークをつけるまでに10%以上マーケットが下落した例を探してみると4回あったのですが、この場合3ヶ月後は13.1%、半年後は24.6%、1年後は30.8%となっています。つまり、谷が深ければ山も高いということの様なのです。

インフレはピークをつけるのか
そうすると次の質問は、果たしてインフレはピークをつけるのかということです。
6月10日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は40年5ヶ月ぶりの水準である8.6%をつけ株価を大きく下げたのですが、このところのインフレのデータポイントをみるとインフレは近いうちにピークをつけそうなものも散見できています。
例えばですが、コモディティ指数は6月にピークを付けています。
肥料の指数は3月末から3割下落、コモディティ指数も6月のピークから1割下落、小麦粉の先物も5月のピークからほぼ3割下落してます。大騒ぎしたWTIもピークから1割以上下落、移動平均線を下回り始めています。
米国ではガソリン価格が2週間前の週末には1バレル辺り5ドルに達し、大騒ぎになりましたが、そのガソリン価格も6月のピークから下落しています。
CPIは遅行指数であり、この様なデータポイントが、CPIに反映されてくるのは時間だけの問題ではないでしょうか。

これからの企業業績見通しは
株の見通しを考えるにあたって企業業績の確認が必要です。
こちらは今年の四半期ごとのS&P500の前年比の業績予想です。

今年の第1四半期の決算発表は事前予想を上回り前年比で9%の増益となりました。7月の半ばから始まる第2四半期の決算発表については、現時点で4.3%の予想となっています。たった4.3%とかと思われる方もいるかもしれませんが、これは1年前2021年の第2四半期半期については2020年コロナ禍落ち込んだ分が大きくリバウンドし96%の増益だったため、ベースが高くなっているからです。
その後については、第3、第4、そして来年は第1、第2四半期まで毎回10%程度の業績の伸びが予想されています。この様な業績のトレンドも株価の上昇をサポートするはずです。

勿論今後の景気動向次第では業績の下方修正の可能性は否定できません。
しかし米国企業はコロナ禍においても経費削減のためにレイオフ(人員削減)を行うという柔軟な対応策をとることを躊躇しませんでした。米国企業の中では今回もレイオフを行う動きが出ています。テスラが良い例です。
今後ある程度の業績の落ち込みの可能性というのは、株は先を織り込むという習性もあり、これまでの急激な株価の下げにはある程度の業績リスクは織り込まれているのではないかと考えています。

マーケットにとってポジティブな要因は企業による自社株買いが増えていることです。これまでのところ、今回の株価下げにより米国企業は積極的な自社株買いを行っています。

歴史的に年後半は株価の上昇が期待できる
最後に米国株の季節性についてみてみましょう。統計によると歴史的に米国株は年の後半に上昇するという傾向があります。


これは1930年からこれまでの大統領就任2年目のS&P500の6ヶ月間の変化率(緑色のバー)とその間S&P500がプラスになる確率(青線)です。これをみると7月以降米国株を半年間保有すると株価のリターンが徐々に高まっていくことがわかります。

過去の統計が今後のマーケットの上げを示唆しているのはこれだけではありません。今年はこれまで米国株が大きく下がったことで色々な記録的な出来事が起きています。
例えばですが、S&P500が5日間で10%下落ですとか、200日移動平均線を上回った銘柄数が15%を下回ったなどです。いかにも心配しなければならないような出来事のように思えますが、そのような事例があるとその後のマーケットは時間が経つと上昇している場合が多いのです。

冒頭で米国株を代表するS&P500はベアマーケット入りしたと書きました。歴史的にベアマーケットに入った直後についてはマーケットはもっと下がることもあるのですが、実はベアマーケット入りしてからの1年後は平均で22%上昇しているのです。

ここからの米国株の下げは限定的、年末は年初の高値を狙う展開へ
マーケットのボトムを探すのは至難の技です。あのウォーレンバフェットも翌週月曜日にマーケットが上がるか否かはわからないし当てようともしないと語っています。正直今回の下げでどこが底なのかは私にもわかりません。しかし、これまでの米国株の下げはインフレ、そして軽いリセッションの可能性を含んだ下げと考えられます。
上に述べたような理由でここからの下げは限定的で、下がったとしてもS&P500の下値抵抗線である3500ポイントと6月17日に付けた安値からあと3.8%の下げと見ています。
ニュースイベントに振り回される環境は続くと思われ、ボラティリティの高い相場が続きそうですが、今年の後半の米国株は高く推移、今年の年末、遅くとも来年の前半にはS&P500の2022年の予想EPS$249の21倍の4800ポイントと、今年年初の高値に近づいていくのではないかと考えています。

先週の月曜日には今年に入ってマーケットに対しネガティブであった米国株投資のバイブルとも言われる「株式投資―長期投資で成功するための完全ガイド」の著者、ペンシルベニア大学ウォートン校のジェレミー・シーゲル教授は、「踏ん張りなさい。マーケットが下がった今、(米国)株を買い始めれば一年後には後悔していないでしょう」とテレビのインタビューで語りました。

ウォーレン・バフェットの 「みんながどん欲な時に恐怖心を抱き、みんなが恐怖心を抱いている時にどん欲であれ。」 多くの投資家が将来に不安を抱いている今、まさに今がそんな時ではないかと思います。

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