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ショートショート 三人のお城

「名古屋城?」
地下鉄の階段を上り切ったユキちゃんが道の向こうを指差した。
「市役所」
慣れないパンプスに手こずりながらようやく追いついた私が答える。
「あんな洋風建築のはずがないでしょ」
「ちょっともうくたびれた! 足痛い!」
下の方でマキちゃんの声がする。
「早くしないと、混んじゃうよー」
ひらりと地下鉄入口に向き直ったユキちゃんが下に向かって呼びかける。就活用に初めて買ったと言っていたのに、すっかりリクルートスーツが板についている。

「お城は、あっち」
私は市役所とは反対側を指差した。
「これから行くドルフィンズアリーナとおんなじ方」
「後で見に行こう!」
ユキちゃんが遠くを見るように、ぴょんと飛んだ。
「なんだかんだ、私まだお城見たことないんだよね!」
「気楽か」
声が漏れる。ポジティブだよな、ユキちゃん。私はもううんざりだ。就職活動ほんと気が重い。ここまで来るだけでスーツで汗だくだし、足に血豆ができそうだし。
「たかだか就職フェアでしょ? 私たち、見る側じゃん?」
ユキちゃんが私の顔を覗き込む。目を合わせるのが嫌で、逸らした。
「うーん。実はさ」
ユキちゃんが突然声をひそめる。
「私、あっちに就職するって、もう決めてるんだよね」
くるりと私に背を向けて、さっきの市役所の屋根を指して叫んだ。
「あれが、私のお城です!」

「決めたああ!」
今度は地下鉄の奥で声がした。
「わたし二度とパンプス履かない! 起業して自分の城を作る!」
私とユキちゃんとで地下鉄の入口を覗き込む。まだ階段の下にいるマキちゃんが半泣きで叫んでいる。
「天下獲ったるんじゃあ!」
「がんばれー」
ユキちゃんが階段の下に呼びかけた。
「まずこの階段の頂点をとれー」
「うおおう!」
靴を両手に持ったマキちゃんが登ってくる。ユキちゃんが笑って私の顔を見る。私も吹き出した。お城か。ずっと持ってた就職フェアのチラシを握りしめた。見つけるか、私も。

ショートショート No.683

 昨年開催されたコトノハなごやの応募用に書いた話です(落ちました)。お題の写真に対して800文字。お題の場所が明記されない形でした。
 とはいえ、場所をちゃんとしないとね、と思い写真の場所と思しき場所に自分でも写真を撮りに行きました。サムネイルの写真は、お題の写真に近い私の写真。場所は地下鉄の名古屋城駅です。

 名古屋城駅の近くには名古屋城の他に名古屋市役所と愛知県庁があります。歩いたらこっちの方が近いのではないでしょうか。初めてこの二つを見た時、「お城のってる」と思いました。結構なインパクトではなないでしょうか。あくまでもうちの県は城で行くぞ、と言う意気込みを感じます。
 ちょっと地下鉄に降りてみましょうか。

 8番ならぬ7番出口。下から見上げると名古屋城が見える仕様です(怪異ではありません)。

 名古屋城の絵図といった「らしい」展示もあります。



ここに写っている堀は今はこんな感じ。


 昔、ここに鹿がいる、いうような話を聞いたような、実際に見たような…。
 名古屋城があるので、この辺りは「観光地」という位置付けなんだと思います。私が行った時も結構賑わっていました。市役所があるようにこの辺りは官公庁が集中していて、名古屋城周辺以外は飲食店も少なく、平日はとても静かです。

「名古屋に通っている割には名古屋城に行っておらず、結局大学の4年の就職活動で初めって寄った」のは私の思い出。自分のお城は、まあそれなりに見つかったかな。

 名古屋の話は明日も続きます!