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ショートショート 高速豚のピギー・ブー

中折れ帽にサングラス、
チョコレヱト色のトレンチコート。
鳥レースに、
ついにあいつが名乗りを上げた。
『高速豚のピギー・ブー』。
チーターさえも打ち負かす
哺乳類最速の伊達男。

「ダメだね。」受付のサー・ピジョンが首を振る。
「君、豚じゃん。」
「豚は鳥じゃない?」
「そうとも。飛べないだろ。」
「あの。」列の奥で声がした。
レディ・キウイ、南の国の小さな令嬢。
「飛べない鳥も鳥は鳥。私は空を飛べません。」

レースは実質一騎討ち。
空の王者ハヤブサと
高速豚のピギー・ブー。
ゴール手前でハヤブサが
錐揉みしての急降下。
もちろんピギーは気づいてる。
中折れ帽を摘み上げ、
ゴールに向かって思い切り投げた。

くるくる回る帽子がゴールテープを切る。
ハヤブサの一秒早く。
落ちた帽子から
毛むくじゃらが転がり出た。
麗しのレディ・キウイだ。
一瞬の沈黙。地鳴りのような歓声。
ピギー・ブーがにやりと笑う。
アナウンサーが叫ぶ。
「優勝はレディ・キウイ!」

ショートショート No.111

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