見出し画像

ショートショート (ナナ)フシギドライバー

 錦町駅まで遠出した。置いてけ堀を探しに来たのだ。江戸時代の七不思議。見つからないまま日が暮れた。
 腹ごなしにでもと蕎麦屋に寄ったが、電気が消えている。「ご用の方はこちら」黒いボタンが近くにある。押す。明かりがついた。

「ご用命どうも」
目の前にタクシーが停まっていた。
「置いてけ掘を探してまして」
「ああ。本所七不思議。」
ドアが開く。吸い込まれるように乗り込んだ。

「この辺も変わりまして。足洗の屋敷も太鼓も椎もアシも堀も、埋め立てやらなんやらで。燈無蕎麦と馬鹿囃子もあるにはあるが、元気がないんですよ」
不思議なことを言う運転手だ。発車する。行き先は告げていない。
「健在なのは送り提灯くらい」
「旅人を送るっていう?」
「ええ。タクシーでね」
祭囃子が聞こえる。
「タクシー?」
「そう。今じゃアタシが最後の現役。いや、もうあんたか」
はっとする。いつの間にか運転席に座っているのは私だ。

車体の屋根の提灯マークに、ぽう、と明かりが灯った。

ショートショート No.419

たらはかにさんの毎週ショートnoteに参加しています。
今週のお題は「フシギ」「ドライバー」です。

ん?
「ナナフシギドライバー」?

というわけで、本所七不思議より。直球ストレートのナナフシギドライバーをどうぞ。

こちらは東京都墨田区による「本所七不思議」の解説です。

※話の都合上、「消えずのあんどん」(灯の消えない蕎麦屋)は「燈無蕎麦(あかりなしそば)」(灯がついていない蕎麦屋)を採用しています。