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映画『女王陛下のお気に入り』利自のためだけに生きるとどうなるか

ハロー、マオです。

今年1月に映画『哀れなるものたち』を観てきました。

人間の自由と自立を賛美した内容、
ビジュアルの美しい映画でした。



同じヨルゴス・ランティモス監督作品であり、
エマ・ストーン主演作品である
『女王陛下のお気に入り』にも興味が湧いたので鑑賞してみました。

「今までのヨルゴス・ランティモス監督作品って後味悪いけど、『哀れなるものたち』は元気でる」という映画評論を何件も見かけたんですが、

え? 『女王陛下のお気に入り』は後味スッキリしない?

えー、私だけかな。
なぜそう思ったのか、感想をまとめていきます。

※以下、(大して気にならない程度に)ネタバレを含みます。



あらすじ


舞台はフランスと戦争中の18世紀イングランド。

病弱で政治力皆無の女王に代わって、
女王の幼馴染の女官長サラが女王を操り政治の実権を握る。

そんな王宮へ
没落貴族の娘アビゲイルが召使いとして雇って欲しいとやってくる。

野心メラメラのアビゲイルはどうのように立ち振る舞うのかー!?


アビゲイル、女王アンとサラの違いは?


女王アンの幼なじみレディ・サラは、病身で気まぐれな女王を動かし絶大な権力を握っていた。

映画.com

様々な作品解説で、サラは「絶大な権力を握っていた」と紹介されます。

確かに政治的采配はアン王女でなくサラが下していたんですが、
私には宮廷での立場は磐石ではなく、むしろ危うかったように思います。

政敵にも、
情けをかけて召し抱えた下働き・アビゲイルにすらも目の敵にされて、
いつ機嫌を損ねるかわからないアン王女をねだめてすかして……

サラ以外の貴族たちは
裸のおっさんに果物投げたり(何の遊びなの??)
アヒルでレースしたりでらんちき騒ぎだし、
敵の党首も盛りすぎのカツラと濃い化粧で着飾りまくって、
とても有事の王宮とは思えません。

宮廷内で本当の本気で政治や戦争のことを考えている、
もっと言えば、
戦地へ行った自分の旦那さんのことを想っているのは
サラだけだったように思います。

本作、サラだけが他者への愛で行動していたように思います。


自己中なのはなんでだめなの?


アビゲイル

一方、アビゲイルは完全に私利私欲のためだけに行動します。
嘘、罠、おべっか、性サービス、結婚、
薬を盛ってサラを殺しかけるなど
あらゆる手段を駆使して権力を手に入れました。

でも、彼女は自分で決めて自分で行動し、
完全に自分の力で理想を掴んだんです。

やり口はともかく
自分のためだけに生きる、他はどうでもいいというスタンスは
個人の権利や自由が侵害されるのはあってはならない
個人の在り方は尊重されるべき
だという現代にマッチしていませんか。

このやり方では幸せになりきれていないところも現代的だと感じました。

アン王女

王も、結局自分を「アナグマ」というサラより
甘言しか吐かないアビゲイルを選びました。

アン王女は
「あの人(アビゲイル)みたいに言って欲しかった」とサラに言います。
それはつまり、
自分が望んだ通りのことだけしてほしいということです。
そこにサラという他者は存在しません


ラストの解釈


アン王女は
死んだ自子代わりのウサギを踏みつける
アビゲイルへ不信感を抱き、

アビゲイルは、否応なく命令してくる
アン王女がいないと成立しない自分の地位に慄く
そんなラストでした。

お互いに自分のことしか見ていない上で、
自分を保つツールとしての相手への
共依存関係が際立つ息苦しいラストだったように思います。


国外追放されたサラだけが、
笑っていたのが印象的です。

私は、サラはアン王女を
出世や政治の道具としてしか見ていなかった
というようには受け取れませんでした。

サラは頭がいいので、
アビゲイルのようにお世辞だけ口にすることもできたと思うんです。
あえて「アナグマ」と王女に言うことに、
本当に王女とイングランドのためを想う真心を感じました。

サラが幸せかどうかはサラにしかわかりません。
でも、
自分の芯を他者に預けないで済んでいるのはサラだけだと思いました。

他者にかけた心の分、自分の財産になっているものがある。
地位や権力を失ってもそれは健在である。
情けは他人のためならず。
そういう映画でした。


現代でも

翻って、
自分の権利や要求を最大限主張し尽くすことより
譲り合ったり思いやりをもって
全体幸福を目指して
社会と関わることこそ
自己の確立、幸せに生きることに繋がっていくのかも。

そう思えたので
私にとってこの映画は、後味悪いも何も
最高にハッピーエンドです。

またね!

アン王女不細工に描き過ぎた。ごめん。本当はもっとアナグマみたいで可愛い。

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