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転がる岩、孤独な君に朝が降る

2023.3.5 HIGH FIVE 2023@Zepp Nagoya ライブレポート

新進気鋭のアーティストをヘッドライナーに、ヘッドライナーが共演したいゲストを迎える対バンライブイベント『HIGH FIVE 2023』名古屋公演が3月5日 Zepp Nagoyaで開催された。

名古屋のヘッドライナーCody・Lee(李)、ゲストミュージシャンはASIAN KUNG-FU GENERATION。

個人的な話になるが、昨年3月にパシフィコ横浜で開催された『ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 Special Concert “More Than a Quarter-Century”』と、LIQUIDROOMで開催された『Cody・Lee(李) IN LIQUIDROOM ~2018.08.20-2022.03.14~』は私にとってどちらも印象深いライブだった。25周年の祝祭感と現地点のモードを交錯させたアジカンと、それまでのキャリアを総決算しつつメジャーデビューを発表したCody・Lee(李)。2夜連続で2者のライブに参加し、ライブ市場復活の兆しを肌で感じた2日間は、2022年に体験した出来事の中でも忘れられないものの一つだ。

あれから1年が経った2023年3月。なんとその組み合わせで対バンイベントが開催される報が飛び込んできた。なんとも不思議な縁を感じ、チケットを申し込む。

3月5日。雨の予報は外れ、穏やかな夕陽の光が差し込む午後5時に開場したZepp Nagoya。場内には多くのファンが集い、2バンドの共演へ期待に胸を膨らませながら開演を待つ和やかな空気が滲んでいた。海の向こうでは未だに戦争が続いているし、ミサイルは我々の頭上を飛んでいく。日常生活も切り詰めなければならない経済状況と未だに進まない多様性の理解にこの国の未来を憂いてしまう日々だが、このスペースだけはピースフルで誰もが心を開放できる場所になっていることを開演前から肌で感じる。

開演時間を過ぎた頃、暗転と共にまずはゲストであるアジカンがオンステージ。セッションのようなovertureを経て掻き鳴らされた1曲目は『Re:Re:』!そして続けざまに『リライト』!アジカンの源流であり、初期衝動と焦燥の中で生み出された『ソルファ』期のヒットソングが連続してドロップされる。今やバンド自身だけでなく、ジャパニーズ・ロックを代表するクラシックとも言えるような曲たち。この2曲の流れは昨年夏に大阪で開催されたBase Ball Bearとの対バンを想起したが、あの時と明確に違うのは客席から声が少しずつ上がっていた点だ。規制緩和の流れを受け、ライブ会場は徐々にオーディエンスの歓声を取り戻しつつある。まだ完全にコロナ前のような景色は戻っていないが、客席が一体となって『リライト』のサビをシンガロング出来る日ももうすぐそこまで来ている。そんな未来への予感も感じさせる演奏からこの夜が幕を開けた。

『Easter / 復活祭』の骨太なロックンロールを経たMCでは、ここ数週間の報道に対する後藤正文の切実なメッセージが表出された。思わぬ訃報が続いた2月、明るい気持ちばかりでいられなかったのは音楽ファンだけではない。ロックミュージシャンたちも同じ苦みや辛さややりきれなさを抱えながらステージに立っている。そんな中でもこんな夜があれば『ぶっ生き返せる』と、マキシマムザホルモンの名曲をもじりながら話すGotchの姿に、ライブに対する誠実な向き合い方、姿勢を感じる。

そんなMCから披露されたのは新曲の『宿縁』。初披露とは思えない仕上がりぶりは、この楽曲に詰め込まれたアジカンらしさに起因するものか。思わず「コレだよ、コレ!」なんて気持ちが湧き上がってくる、堂々とした演奏が観客を魅了する。

切なさがこみ上げるメロディに、些細だけど愛おしくなるような日常描写がCody・Lee(李)の音楽性ともクロスする『ソラニン』でZepp Nagoyaをあたたかく穏やかなムードに包み込んだアジカン。MCではCody・Lee(李)のメンバーからこの日に向けた手紙を受け取ったと話すGotch。そこに記されていた楽曲をリクエストと受け取って...と演奏されたのは『ブラックアウト』!ギターリフと共に心象風景と未来を予感させる詞が交互に行き交うAメロから、己の無力さに打ちひしがれるサビがリリースから18年経った今でも新鮮な響きを与える。

Gotchがビートに合わせて楽しそうにステップを踏む姿が印象的なセッションから披露されたのは『ブルートレイン』。『ブラックアウト』に続いて『ファンクラブ』期の楽曲が連続して披露されて、会場のアジカンファンが沸き立つ空気を感じる。アルバム『ファンクラブ』はアジカンの歴史の中でも割と陰の部分、己の無力さを描いた作品だが、前述した最近の報道にやりきれない想いを吐露したMCを踏まえて聞くと一層真に迫るものがある。メロディアスなギターと細やかに刻まれるビートに乗っかるのは、前が見えなくてももがきながら走り続けよう、生きようと切実に響くメッセージ。現実に今、起きている事象を踏まえて聞くと、よりこのメッセージがますます真実味を帯びて我々の心を揺さぶってくる。この時代を楽曲が超える色褪せなさが堪らなくASIAN KUNG-FU GENERATIONなのだとも思う。

「言い忘れてたけど、隣の人の真似なんてしないで自由に楽しんでね」と後藤による恒例のフレーズを挟んで披露されたのは『転がる岩、君に朝が降る』。アニメ『ぼっち・ざ・ろっく』でカバーされたことでも話題になった楽曲に観客からは感嘆の声が上がる。そして最後は後藤がギターを下ろし、ハンドマイクで披露された『Be Alright』。祝祭感と呼ぶにはあまりに素朴だが、幸福がじんわりと、でも確かに会場中に溢れかえる様が目に見えるような、そんな生命力の溢れる2曲の演奏を以ってアジカンのステージは幕を下ろした。バンドメンバーで横一列に並んでオーディエンスに頭を下げる最後の瞬間まで、アジカンの真摯なロックバンドとしての有り様に心を掴まれっぱなしだった。

2023.3.5 HIGH FIVE 2023 Zepp Nagoya

転換を挟んでいよいよCody・Lee(李)のステージ。『愛してますっ!』のくすぐったくなる可愛らしいラブソングから、息つく間もなく駆け抜けるようにアップテンポな『W.A.N.』へ。そして不穏なベースからダークなサウンドが響く『悶々』と、最初から出し惜しみゼロのセットリストが展開。いつも以上に気合いが入っているのか、演奏からも普段以上のキレや迫力を感じる。

なんと彼らが生まれる前からバンドをしている(!)アジカンに対する感謝と想いの溢れるMCから披露された『DANCE風呂a!』は、先程のアジカン『Be Alright』さながら、ハンドマイクでヒップホップ然とした歌唱を魅せるVo.高橋響の立ち姿が印象深い。ロックバンドを標榜しながらも、様々な音楽ジャンルやカルチャーから影響を受けているアジカンとCody・Lee(李)が共演した必然性のようなものを感じるパフォーマンスに、Cody・Lee(李)ファンだけでなくアジカンファンも魅了されているのを感じる。

そして大名曲『異星人と熱帯夜』!胸に押し寄せるような切なさがCody・Leeの真骨頂。真夏の夜、海辺ではなくどこかの街の路地裏に男女が2人で帰路に着く情景が思い浮かぶ。缶ビールを片手に歩くような成熟さと、両思いなのにお互いの想いを上手く伝えきれていなさそうなもどかしさに胸が疼く。この瞬間だけはZepp Nagoyaがうだるような湿気の中で爽やかな風が吹いた夏の夜のよう。アウトロのサックスソロはGt. 力毅によるエフェクトを使用したギターソロ。その再現性の高さにも驚かされる。

そしてアジカンへの感謝の意趣返しとして『ブラックアウト』のカバーを披露!紛れもなくこの日、この夜にしか見れない貴重な演奏に胸が昂る。アジカンのシリアスでキリキリとした緊張感とキレの良いアンサンブルが印象的なアレンジに対して、Cody・Lee(李)のカバーは人間味のあるどこかあたたかくてポップにギアを踏み込むようなアレンジ。アジカンへのリスペクトと共に、Cody・Lee(李)らしさもしっかり感じさせる演奏を観客に届ける。

『ブラックアウト』から続けざまに演奏されたのは、彼らの代表曲『我爱你』!海外でも話題となったこの曲は、異国情緒溢れるメロディとCody・Lee(李)らしい生活感溢れる歌詞が印象的。自身の押しも押されぬ代表曲をここに持ってくるのは、アジカンに負けねぇという強い意志だろうか。満ち満ちた気力が溢れて止まらない演奏にオーディエンスの身体も揺れる。

ここでベースのニシマ ケイがアジカンに纏わる思い出を語る。学生時代に友人のいなかった彼を救ったのがアジカンでありsyrup16gでありART-SCHOOLだった、というMCに会場から大きな拍手が送られる。アジカンを初めとした00年代ロックバンドに助けられて音楽を始めバンドを組んだ青年が、時を経てアジカンを招いてライブイベントを開催している、という事実に改めて涙が零れそうになる。

そんなMCを経て披露されたのは、素朴で穏やかな下北沢的日常風景を歌う『世田谷代田』。『ソラニン』とも空気感を共有する愛しさの溢れる楽曲をじっくりと聴かせると、一転してタフなサウンドが印象的な『LOVE SONG』へ。メジャーデビューしてまだ1年と経たないにも関わらず、こんなにも様々なサウンドを鳴らすCody・Lee(李)の音楽性の広さに改めて驚かされる。

本編最後には彼らの溌剌さとパンキッシュが爆発する『初恋・愛情・好き・ラヴ・ゾッコン・ダイバー・ロマンス・君に夢中!!』をドロップ。そして1mmの悔いも残すまいと感情を全て演奏に叩きつけるような激情が音に憑依して響き渡ったアンコールの『When I was Cityboy』では、Vo.高橋が思い入れ深いアジカンのアルバム名を叫ぶ場面もあり、瑞々しい青春性や、或いは未成熟さ故のヴァイタリティが弾けるような演奏でこの夜を大団円で締めくくった。

思い返せばGotchのMCや、『転がる岩、君に朝が降る』の演奏や、ニシマのMCにしても、常に"孤独"がテーマにあるような夜だった。

"君の孤独も全て暴き出す 朝だ"
『転がる岩、君に朝が降る』ASIAN KUNG-FU GENERATION

ロックは孤独に寄り添う音楽だ。私自身、友人が少ない時期が多少なりともあったし、本当に心から信頼出来て生き続けるキッカケを与えてくれた友人が出来た後も、結局自己肯定感の低さや満たされなさは地続きだったし、そこから発生した疎外感を通奏低音のように抱えながら常に生きていた。そんなどうしようもなくてどうにかなりそうだった学生時代に寄り添ってくれたのが音楽でありロックだった。

音楽を聞くだけで孤独が解消されることはない。『ぼっち・ざ・ろっく』の第1話で後藤ひとりがそうであったように、音楽を聞いたって、音楽を鳴らしたって友人はできない。

そのかわり、音楽は孤独に寄り添い、孤独な自分を肯定してくれる。我々は音楽に孤独を、そして自分自身を肯定されることで、孤独を断ち切る事が出来る。その肯定の果てに、それまでとは違う新しい1歩を音楽を傍らに踏み出すことができるのだ。結束バンドがそうであったように、ニシマ ケイやCody・Lee(李)の面々がそうであったように。

音楽体験の原点に改めて立ち返ることが出来た夜だった。辛いニュースも、受け入れられない訃報も、クソな戦争も、どうしようもない孤独な夜も、音楽を傍らに乗り越え続けたい。

2023.3.5 HIGH FIVE 2023 Zepp Nagoya

2023.3.5 HIGH FIVE 2023 Zepp Nagoya セットリスト

ASIAN KUNG-FU GENERATION
1.Re:Re:
2.リライト
3.Easter / 復活祭
4.宿縁
5.ソラニン
6.ブラックアウト
7.ブルートレイン
8.転がる岩、君に朝が降る
9.Be Alright

Cody・Lee(李)
1.愛してますっ!
2.W.A.N.
3.悶々
4.DANCE風呂a!
5.異星人と熱帯夜
6.ブラックアウト(ASIAN KUNG-FU GENERATION cover)
7.我爱你
8.世田谷代田
9.LOVE SONG
10.初恋・愛情・好き・ラヴ・ゾッコン・ダイバー・ロマンス・君に夢中!!
En.When I was Cityboy


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