応援歌の著作権について知財をかじった僕が思ったこと

このシーズンオフ、東北楽天ゴールデンイーグルスが、応援歌を大幅にリニューアルにした問題が話題になった。その理由について、球団は「著作権の問題」と説明したが、本当にそうなのか。

いつもは千葉ロッテマリーンズについて #選手への偏愛を語るシリーズ  を書いているけれども、自分はちょっとだけ知財の世界に足を突っ込んでいたことがあるので、著作権上は何が問題だったのか…今後どうなっていきそうか…素人ながら少しだけ書いてみたいと思う。

応援歌は著作権侵害なのか

応援歌は著作権侵害なのか、というトピックに関しては、自分自身の結論を書くと、「著作権」としては、応援団の形式によってイエスでありノー。

ただ、一般的にはあまり耳慣れないかもしれない「著作者人格権」としては、厳密にいえばイエス。

だと考える。

問題は、応援歌には替え歌が多い、ということ。替え歌はかなりの条件で元ネタの著作権を侵害している。

色々と条件があるので、整理してみたいと思う。

財産権としての著作権

著作権には、著作物に関する財産的な権利についての「著作権」と、著作の信頼性や、著者の意にそわない使われ方や公表のされかたや勝手な改変がされないようにする「著作者人格権」が存在する。

一般的に、普通の人がイメージする著作権は、おそらく前者だと思う。例えば音楽ならば、ほとんどを管理しているJASRACにお金を払って利用許諾をしてもらう。まずはそちらについて書いていく。

著作権侵害が発生するのは、基本的には「営利目的」で音楽を使う場合に限られる。例えば、自宅で音楽をかけたり、仲間内での飲み会の時に音楽をかけたりするのに著作権を使う必要はないし、文化祭などのライブで高校生たちがコピーバンドをやったりしても、誰かに許諾を得る必要がないし、そこにお金をはらう必要はない。

これが、入場料を取るとなると話は違う。それは、「営利目的」になってくるからだ。そして、たとえばテレビ番組を作るときにBGMとして使う。これも、NGだ。番組は営利目的で作られているので、ちゃんとJASRACの許諾を得る必要がある。ネット番組などで…たとえば、「内村さまーず」という番組が今アマゾンプライムで配信されているが、あの番組では、芸人さんがうっかり歌を歌ってしまったりすると、その部分の音声がカットされている。あれは、放送局なりなんなりが、曲の使用権料をはらっていないため。本人のCDをながさなくても、別の人が歌っていてもアウト。

ちなみに、大体ほとんどのテレビ局などは、JASRAQと包括契約を結んでいる。いちいち、一曲ずつおうかがいを立てていると話にならないので、あとからまとめて使用分を払う形。

で。応援歌である。完全オリジナルの応援歌は全く問題がない。既存曲の替え歌、流用をしている場合が問題だ。

基本的に、ファンの中のグループである私設応援団が、応援のために演奏をしていること。これは、おそらく問題にはならない。私設応援団はお金をもらっているわけでもないし、営利目的でやっているわけでもない。

ただ、いまや、どの球団のどの試合も、CSなりパリーグTVなどでコンテンツとして販売されている。その番組内に、どうしても応援歌は流れ込むことになる。これに関しても、結構グレーだ。限りなく黒に近いグレーだと思う。厳密にいうと、アウトだと思う。しかたなく入り込んでしまったもの、という扱いにするのは少し無茶がある気がする。

とはいえ。そもそも、プロ野球の球団は、イニング間にBGMを流したり、選手が登場曲を使用したり…と、既存曲がそのまま流れる空間だ。そして、プロ野球の球団の試合は当然営利目的である。なので、基本的には、プロ野球球団も、その試合を流す放送局も、JASRACとは形式はわからないがある程度の包括契約を結んでいるはずである。基本的にはどの曲についても使用許諾をえているもの…とも思う(もちろんお金は払う)。

ただ、楽天の場合は、応援団が施設から公設に変わった。球団がオフィシャルにやっている応援団であるから、そこで演奏する元ネタがJASRACに著作権が所属している曲は、きちんと管理する必要がある。

ということで、グレーであるものを白黒はっきりさせるために、すべてをオリジナル曲に変えようとしたのではないか…というのが、まず一つ、思う事だ。

全球団に関係しそうな「著作者人格権」

しかし、本当に問題なのは、おそらく著作権ではなく「著作者人格権」なのではないか。今、どこまで指摘が入っているかわからないが、厳密に管理していくならばこちらの方が大きな余波を生みそうに思う。

著作者人格権とは、人に移転できる財産権としての著作権とは違い、著作者から他者に移転することがない権利だ。意に沿わないタイミングで公表されたり、名義を書き換えられたりしないように…など、文字通り著作者の人格を守るための権利が定めらている。

その著作者人格権の中に、「同一性保持権」という権利がある。作品に望まない改変がされないようにする権利のことだ。例えば、僕がもしかりに、このノートにどこかの出版社が目を付けて、将来本にして発売することが仮にあったとする。その際、僕が、この文章の財産権としての著作権をその出版社に売ったとする。そうしたら、その出版社は好き放題このノートを出版して良いわけだけれど、一部を勝手に書き換えることは許されない。

「著者へなちょこ魚」として、権利が出版社にあったとしても、結論の部分だけ勝手に書き換えて売られたり、もしくはなんだかとてもはずかしいことを途中に盛り込んで売られたりしたら、そんなの嫌だ。そういう事を避ける権利が、著作者にはある。

この、同一性保持権というものがあるために、「メロディーは全く変えない、歌詞は全くのオリジナル」の応援歌であれば平気なのだけど、「メロディーは全く変えない、歌詞は一部改変」「メロディーも一部変更、歌詞も一部変更」などをして、公衆の前で演奏した場合、同一性保持権の侵害にあたる。

更に問題は、この同一性保持権は財産権ではないので、営利目的でなかったとしても、公衆の前で演奏すれば原則はアウトだという点。実際にはそこまで厳密に適用されることは少ないが、もし、元曲を作った人が、このような替え歌はやめてくださいと申し出た場合、その応援歌が入っている試合が放送できなくなる可能性もある。

尚、一部改変に関しては、財産権としての著作権に関しても、「翻案権」などが発生する可能性があるが、それはややこしくなるので割愛するが、このことに関しては、楽天だけではなく、全球団関係することと思う。もちろん、公設にした楽天はもっとナイーヴになるだろう。

今後はどうなるかわからない「元曲がある応援歌」

というわけで、実際にはそこまで厳密に運用されることは少ないけれども、原曲がある曲をアレンジする応援歌に関しては、今後どんどんとりしまりが厳しくなってくる可能性は、十分にある。

そもそも、「替え歌」というものに対して、比較的厳しい仕組みに日本の著作権法はできている。

非営利目的の私設応援団だから無関係…というわけにはいかない、かもしれない、というのが、自分の見解です。

勿論大好きだけどね!あの応援歌もこの応援歌も。ただ、個人の感情と法律とは別な話なので、そんなリスクもあるよ、というお話でした。

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