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真のご当地グルメ

有り体に言えば長崎県出身なのだが、
県庁所在地は車で2時間以上かかる場所だ。

鉄道(ディーゼル車なので電車ではない)ならもっとかかる。
それ以前に10年以上前に見事に廃線と相成った。

「長崎県民にオススメを訊いても
 『リン○ーハット』って答えてくる」
とテレビ番組でも嘆かれるが致し方無かろう。
大きく分けても四つの半島が県庁所在地で繋がっている。
半島の先端に住む者には市域自体が観光地だ。

綾部市の人間に洛中のオススメを、
三鷹市の人間に渋谷のオススメを、
知多半島の人間に栄のオススメを、
糟屋郡の人間に博多のオススメを、
訊くようなものだと理解してくれ。
(ちなみに上記全ての土地に親類か知人がいる。)

上記を踏まえた上ででは、
我々が日々何を楽しみに食していたかを記す。


……アジと貝は買うち来るもんじゃなかったとば!

お父さんの釣りさん行って持って帰ってくれらすもんぞ。
子ども達は春先にゃあ、
ばあちゃんにつれられてきゃーほり(貝掘り)じゃ。
我が達のおやつなっと我が達で取って来んば。

という次第でプラスチックのバケツに、
子供サイズの熊手を持って、
最寄りでも歩いて30分はかかる、
岩場の隙間の砂浜に赴く。

狭いが確かに砂浜であり集落の者すら滅多にいない。
浅く掘っただけでも湧くようにアサリが拾えるが、
泥にポコンと深い穴が空いていれば、
ビンに詰めて来た荒塩を突っ込む。

飛び出して来るマテガイを、
上手く掴んで引きずり出せなければ誉められない。
逃がしたグズじゃと笑われるが、
私はまだ5歳だ。

アサリにマテガイに、
父が釣って来る魚は夕飯のメインディッシュだ。
故に魚を捌けなければ主婦は務まらない。
何を隠そう私も三枚下ろしに、
キビナゴの刺身なら作れる。

子ども二人におばあちゃんのおやつは、
ザルいっぱいに茹で上げて、
つまようじでほじくり出しながら食べるネコガイだ。

ネコガイ、と呼んでいたが、
これを書くために初めて調べた。
正式名称はキサゴという。

小粒ながら自然と塩味が染みて旨い。
労働の対価を得ている自負もあっただろう。

楽しそうな思い出あるじゃん、
家族と仲良くやってんじゃん、
ともしかして思われた方は、
これが宝物の如く残してある、
日常である事を察して欲しい。

私の父親はいまだに事あるごとに、
「若い頃に食った豚の脂身ほど旨い物は無かった」
と呟く。

私自身シェイクなる飲み物を、
初めて口に含んだ時の驚愕たるや。
砂糖や緑茶が江戸期には一種の覚醒剤であった事を、
昭和の末生まれではあるが身をもって理解する。

シュガーロードも多少逸れた土地では、
これが現実だが、
果たして我々は貧しかったのだろうか?

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