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何もかも、ちゃんと読むことから始まる。

~少女漫画誌の編集長がフォロワーさんの質問に答えていく。⑧~


今回は、久しぶりに質問にお答えしてみたいと思います。

今日お答えするのはこちらの質問。

「漫画の持ち込みとか投稿者さんの作品を見るときはどこを見ていますか」


持ち込みを受けたり、投稿作品を読んだり、あるいはコミティアなどの出張編集部で作品を見せてもらう時、どういうところを見ているか。

おそらく、多くの編集者はまず絵がうまいかどうか、その絵が自分の所属している媒体にハマる絵柄かどうかを見るのではないかと思います。絵は、他の要素よりも人に与える印象が強いのでそれはやむを得ないところもあります。

読んですぐ惹きつけられるかどうかを基準にして、それだけで判断してしまう人も多いですが、手っ取り早く活躍してくれそうな人を見つけたいと思った場合、そうしちゃう気持ちも分からなくもありません。


ただ、パッと見で何もかも判断してしまうのは、あまりにももったいないし、一生懸命原稿を描いて持ってきてくれた方たちにも失礼かなと僕は思ってます。

漫画の原稿を1作仕上げるのって本当に大変なことです。それをちゃんと仕上げて、しかもわざわざ持ってきたり投稿したりしてくれてるのですから、そのことに感謝しつつ、できるだけ色々なことを汲み取りたいなと思っていつも原稿を読んでいます。

一生懸命に描かれた原稿には色々なことが詰まっているので、ちゃんと読むと結構時間がかかります。

なので、僕が持ち込みに来てくれた人にかける一言めはだいたい「ちょっと時間かかるけどいいですか?」です。(連載中の担当作家さんがネーム送ってくれた時もだいたい「ありがとうございます。読みますので少し時間ください」が一言めになります。)


さて。

実際に作品を読む時にどんなところを見ているのか

僕の場合は大きく分けて2つのポイントを見ています。

①まずはもちろん、普通に読んで面白いかどうかです。

②もう一つは、ちゃんと描いてあるかどうかです。


「普通に読んで面白いかどうか」。

なぜ「普通に」とつけるかというと、意識しないと色んなことに印象を左右されてしまいやすいからです。特に絵の印象は強いので絵に引っ張られやすいのですが、他にも自分の状況や体調やその場の空気など色々なバイアスがかかりがちなので、できるだけ冷静に、作品を追うことに集中して読まないといけません。

そうやって読んでみて、面白いかどうかがまず第一。

第一の印象を確認してから、振り返ってみて良いところがどのくらいあって、それはなぜ良い印象を与えるのか、どうやってその良い部分を描けたのだろうか、などを考えたり想像したりして、心の中か多ければ実際にメモします。

なぜ振り返ってみるかというと、面白さを構成する要素ってとっても沢山あるからです。絵だけでも色々見所はありますが、それ以外にも話の筋、設定、舞台、キャラ、演出、演技(感情表現)、セリフ(言葉)、テンポなどなど。

人によって得意なところが違うし、まだプロじゃない人は得意であっても発揮度合いが弱いことも多いので、なるべく丁寧に見るようにしています。


次に、ちゃんと描いてあるかどうか。

「ちゃんと」って何か。いくつかあります。

まず大事なのは、ちゃんと自分が好きなもの、こと、人物を描いているかどうか。

我々のせいもあるかもしれないのですが、結構な人がデビューしたいあまり、無理してその雑誌風に合わせようとして描いてしまってることがあります。

あるいは、何を描けばよいのか分からないからか、好きすぎるからか、どこかの漫画家さんをお手本にしていて、その漫画家さんが好きだということ以外何も分からないような時もあります。

僕の信じていることの一つに「誰かが本気で大事にしているものを他の誰かが否定することはできない」というものがあります。

自分が本当に好きなもの、こと、人物を表現して否定されることを考えると怖いのは分かりますが、本当に好きで表現したものは多分否定されません。(よほど公序良俗に反している場合は別ですが)

だから、ちゃんと自分が好きなものを表現してほしいです。自分がどんな人かを教えてほしいのです。

ちゃんと好きで描いたものは、必ず読む方の人にも好きになってくれる人が現れますし、僕たちも沢山の人に届くように精一杯応援したいと思うのです。


「ちゃんと」の2つめ。

次に、その人が描こうと思ったものをちゃんと最後まで描ききってあるかどうかです。

僕は実はこれを一番重要視しています。

まだプロじゃない人たちの原稿ですから、その時点でうまいかどうかはあまり気にしません。それよりも描こうと思ったものを描ききってあるかどうかの方が遥かに大事だと思うのです。

持ち込みや投稿で見る作品では、結構多くの人が得意なものだけしかちゃんと描いていなかったり、あるいは途中から心が折れて段々粗くなっていたり、描くのが面倒なものを端折ったりしてしまっています。

でも、読んでくれる人は長年付き合いのある仲のいい友人ではなく、作品を通して初めて知ってくれる人なので、端折ってしまったことを勝手に都合良く補足したり汲み取ってくれたりはしません。描かれてあることが全てになります。自分が頭の中にイメージしている世界観を同じように読んだ人にも受け取ってもらうためには、イメージを原稿にちゃんと表現しないと伝わりません。

自分のイメージをちゃんと伝えようという責任感があるかどうか。

意外なことに感じるかもしれませんが、これがとても大事な能力なのです。この能力の持ち主は、何かをきっかけにどこかが良くなった時、一部だけでなく全部を良くしようとします。一部だけ良くなってもそこだけ変に浮き上がってしまって世界のバランスが崩れるからです。僕の経験上ではありますが、それが分かっている人たちはすぐに上手くなりました。


「ちゃんと」の3つめ。

あと一つだけ。なんの都市伝説のせいなのか分かりませんが、かなりの人が「上手い人は何も見ないですらすら描ける人」だと思い込んでいます。

はっきり言いますが、それは嘘です。

僕は漫画家さんがどうやって描いているのか興味が尽きないので、色んな漫画家さんに色々質問をしてきましたけど、上手い人ほどちゃんと取材したり写真を撮ったり、資料を探したりして、見て描いてます。見るだけではなく、仕組みや機能やそのものがなぜそういう形になったのか、意味も理解して描こうとしています。

そうやって描いた方が自然で、ちゃんとありそうな舞台、世界になるのはもちろんですが、分かってるおかげで描けることや思いつくことも沢山あるからです。うろ覚えで描いた記号的な絵(例えば、とりあえず学校が学校だと分かるだけの絵)よりも、ちゃんと見て描いた方が断然豊かで魅力的な原稿になります。


ちゃんと話す。

長々書いてしまいましたが、以上のようなことを気にしながら読んだあと、大事にしているのはちゃんと話すことです。

良いところはなぜ描けたのか、ちゃんと描けてないところはなぜ描けていないのか。それを聞いて理解できないと、その人が今どういう地点にいるのか正確に分かりません。今どういう地点、段階にいるのか分からないとどういうアドバイスをすれば良いのかイメージが湧きません。

持ち込みや投稿をしてくれる人たちは、プロの編集者の感想や意見が知りたいから、僕たちに貴重な原稿を見せてくれるのだと思います。

最初の読者として、パッと見た感想は感想で伝えますけど、それだけではせっかく原稿を見せてくれたお返しになっていないと僕は思うのです。

今どのような地点にいて、どのようなことをしていけば良いのか。

多分知らないことがいっぱいあるはずの人たちが、色々なことを知ったらどう変わっていくのか。その変わり具合を見られるのがまた僕たちの仕事の醍醐味であるので、出来るだけ沢山のことを話したい。

沢山のことを話すためにも、ちゃんと原稿を読まなくてはいけない。

編集長になってから持ち込みや投稿作を見る機会が減ってしまいましたが、作品を見せてもらう時は、いつもこういう感じで読ませてもらってます。

念のためですが、あくまでこれは僕のやり方考え方です。


僕は、僕だけが見つけた才能を花開かせるのが好きなのです。


ではでは。


※今回はnoteの「みんなのフォトギャラリー」を使わせていただきました。ありがとうございます。今後はヘッダーの画像はこちらから選ぼうと思います。


※質問いつでもお待ちしてますので、コメント記入していただくか、ツイッターでリプ送るかしていただけると嬉しいです! よろしくお願いします(^o^)







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