Anti Int Niche

好きだったものを見つめ直していこうと思う。

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マガジン

  • 創作日記

    だいたい千字。たぶん

  • 【小説】濡翼のヴィジリア

    ダークファンタジー・サスペンス。"カーニバル・ロウ"と"The Raven"の影響をバチクソに受けて書いたので、だいぶ史実ネタが怪しいことになっている。 参考資料で作ったほうれん草のパイが大変おいしゅうございました。

  • 【漫画原作】シトラス・バイロケーション

    今さら学園SFもの。青春です。タイトルにドッペルゲンガーを入れたかったけど、どうやっても昭和のロボアニメにしかならないので苦戦した記憶。

最近の記事

#7 まずは日本で売るんだからさ…

 昔からアンソロジーというものが苦手だ。  目的の作家のたかが1,2篇のために、残り300数ページのペラ紙を本屋から売りつけられる。  たいがい元から興味のあるジャンルを買うので、そこで収録される知らない作家というのはおおよそ業界で目立ってないわけである。つまるところ実力不足の水増し枠…はっきり言えば、読者目線から見るとハズレだ。  よしんば作家を発掘しても、次回作もどうせまたアンソロジーである。基本的に読者が損をするように出来ている。  そんな中で、ここ数年だと法治の獣

    • #6 そも、文字は読まれるものじゃね?

       プロットコンテストの結果発表が延期ということで、出すアテのない推敲をつらつらと重ねるのもつまらなく、こちらの賞にも参加することにした。  べつに人に見せられるほど彩りのある毎日を送っているわけではないが、日記ぐらいなら帳簿のついでに付けているので、出すだけならカロリーゼロ、あわよくば今晩のメシにひと品足せる程度の賞金(というか掲載料)も稼げる。出し得というやつである。  日記は、読んだ資料の目録を作るのが面倒という理由で学生時代に始めた。たしか事故のときフォーサイスの紛

      • 【小説】濡翼のヴィジリア【第九話】

         リゾートホテルのロビーでは声楽のコンサートが開かれていた。  パーティの演目らしい。晩餐を終えた外交官がボルドーの注がれたグラスを片手に細君と談笑している。その横で文官たちが分厚い手帳を繰ってスケジュールを確認していた。  ウィルドが電話を借りて部屋にかけるあいだに歌の旋律が変わってタ、タ、タとテノールパートが繰り返し始める。アカペラにしてはおちゃらけてやがると思いつつ横目でうかがうと、カフェの前の黒板に白チョークで描かれたエッフェル塔が見えた。  なるほど、とひとりごち

        • #5 旨いプリンを旨いラーメンに入れようぜという話

           新規のレーベルがプロットコンテストを開くという。色々とレーベル側に不安要素は多いものの、この9月までの新人賞閑散期にただ文字を並べた習作で自己満足するのもつまらないので、久々のラノベで参加してみた。  たまにはハンドルネーム通りニッチ層でも攻めてみるかと募集欄にあったゾンビを題材に取ったが、困ったのが先人の不足っぷり。  基本的にゾンビ物の小説って流行らないんですかね。小説版のワールドウォーZとか売れたけど、言うてアレはモキュメンタリーだし。  バトル多めで人間関係を描

        #7 まずは日本で売るんだからさ…

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        • 創作日記
          7本
        • 【小説】濡翼のヴィジリア
          9本
        • 【漫画原作】シトラス・バイロケーション
          3本

        記事

          #4 新作構想という体の小休止

           どうも最近の学校では読書感想文に”新書”を指定するところがあるそうで、やはりと言うか、普段から本の山で寝泊まりしているのを買われて適うものを頼まれた。  昔から自分の体感では新書の打率は2割だ。1万程度JPYをつぎ込んで2冊壁に叩きつけずに済んだらオーライの代物で、アタリを探せとはなかなか先生も酷なことを仰るとは思うが、とりあえず直近2ヶ月のものではブルーバックスで良い本があったので、簡単なレクチャー込みで渡しておいた。  ついでに自分でも読んだ。『DEEP LIFE』と

          #4 新作構想という体の小休止

          【小説】濡翼のヴィジリア【第八話】

           レンガ造りの総督府にはまだ聖ゲオルギウスのイコンが飾ってあった。  スラヴァからひと月も経つのに、片付けていないらしい。クリスチャンだらけのここでは、おそらく次の聖ヴァイタスの日になるまで誰も気付かないのだろう。  二階の廊下を通るとき、鉄道局員が執政室から出てきた。目の下に深い隈のある男で、ウィルドを見ると軽く帽子に手を添えてくる。 「また線路でも爆破されたのかね」  声をかけると驚いた様子で、鉄道局員はへへっと笑った。 「いえ。ダイヤの修正で意見を仰ぐことになりまして

          【小説】濡翼のヴィジリア【第八話】

          #3 ジャンルって書く側の役に立ってるか?

           別名義でmonogataryに投稿した短編だったが、転載規約が特に無かったので、こちらでも載せた。要は記事数の水増しね。  中の人含めて架空のヴァーチャルアーティストの立ち上げ企画ということで、つまるところヤマハの初音ミクやギブスンのidoruをもういっちょ再解釈して作ってやるぜということらしい。  で、例によって例のごとく他の応募作を見ると、どうもSFテイストの強いもののウケが良く見受けられたので、自分も倣って二人称の少し無機質な文体で、VRスペースに生きる唯一の主体を

          #3 ジャンルって書く側の役に立ってるか?

          【小説】あるいは落ちる木の葉の不確実性

           文庫小説、三〇〇キロバイト。  読み切りコミック、六〇〇メガバイト。  楽曲ワントラック、四〇メガバイト。  二〇二三年の全世界、一五〇ゼタバイト。  ときおり、きみは開いた手を見つめる。  無数のポリゴンとテクスチャでくるまれたIKボーンの構造物。  押せばたわみ、引っ張ればコンストレイントいっぱいまで伸びる肌は、観測できる限りでは非常に"リアル"だ。うまい具合にディフォルメしている、と思う。  きみは化粧台の前に立ち、ポートフォリオの写真を真似ようとする。  パラメ

          【小説】あるいは落ちる木の葉の不確実性

          【小説】濡翼のヴィジリア【第七話】

           玄関に放られた朝刊には、一面に劇場の事件が載っていた。  拾い上げてぱらぱらとめくる。  急いで作った記事らしく版画は無かった。読み進めて、死んでいた支配人の名前がアレクサンダルというのを初めて知った。ただし犯人は筋骨隆々の男になっており、「法院のベテラン審問官」が事件現場で負傷したらしいと書いてある。 「それ、終わったら貰っていいかい?」  ウィルドがドアを閉めようとすると、毛むくじゃらの手が差し込まれた。戸板の隙間からよれよれになった防衛団の制帽が見え隠れしている。

          【小説】濡翼のヴィジリア【第七話】

          【小説】濡翼のヴィジリア【第六話】

           法院に遣いを送ったところ、半刻ほどで判事がやってきた。  頬の脂をハンカチに吸わせる彼に報告書を押し付けると、ウィルドは帰りのタクシーに乗り込んだ。レナータが来るのを待ちながら、ウイスキーの小瓶を開ける。  どこか煙たい酒の味は、黒色火薬のにおいが混じって、凄まじい風味になった。懐かしい不快感だ。最近のスモークレス火薬だったらこうはならない。  やがてキャビンのドアがゆっくりと開いた。 「撃ち方はどこで習った?」  尋ねつつ、向かいに座ったレナータに火を貸してやる。 「防

          【小説】濡翼のヴィジリア【第六話】

          【漫画原作】シトラス・バイロケーション【第三話】

          第三話P.1 :コデラ「…これでよし、と」 ハツネの肩をポンとたたくコデラの大きな手。 :釣具とアクアリウムが詰め込まれたアパートの一室。姿見の前に置かれた椅子に、キャミソール姿のハツネが座っている。床にはほどいた三角巾。 :ハツネ「今度は外れないといいけど」 付けたばかりの腕を上げるハツネ。「ぎゅむっ」と鳴る関節。 コデラ「正規の部品に替えた。強度はダンチだ」 :ハツネ「ダンチって…オッサンじゃん」 P.2 :横を見るハツネ。釣り竿のバッグに呆れた顔。 ハツネ「週末は

          【漫画原作】シトラス・バイロケーション【第三話】

          #2 手を考える

          「首を切られたミミズがのたうち回っているよう」と言われるほど悪筆の自分にとって、ワードプロセッサーの使える現代はじつに生き易い。  しかし機械は熟考する暇を与えてくれないというので、阿部公房先生が初めてワープロを使われたときもやはり「魂の入っていない文章である」と文壇界隈から大層非難されたと聞く。  プロットを切るとき、私は基本的に手書きだ。  しかし最近、芥川賞候補になった「エレクトリック」を読んだ縁で、作者の方が紹介なさっていたLucidchartを漫画大賞応募作のプロ

          #2 手を考える

          【小説】濡翼のヴィジリア【第五話】

           違法就労、営業法違反、賃貸料の滞納。  資料に並ぶ文字からは想像もできないほど、劇場の建屋は豪華なものだった。  石造りのゲートの向こうにはミニサイズのコロッセオがあり、幌の天蓋がはたはたと音を立てていた。建物自体はスレイマン時代のトルコが建てたものらしく、門のすぐそばにはムスリム向けの沐浴場があった。  馬車から降りた瞬間から、近くでドナウ川のせせらぎが聞こえていた。見ると橋のたもとにはもやい綱で結ばれた屋形船が並んでいる。夜になったらずいぶんと賑やかになりそうだった。

          【小説】濡翼のヴィジリア【第五話】

          #1 カテエラというもの

           古本屋に行った。今回の創作大賞で東欧を舞台にするとき、参考にと勧めていただいた「夢遊病者たち」とヨーゼフ・ロートの礼を言うためと、そろそろ部屋を圧迫してきた(迂遠な物言いをすると、寝床としてはそこそこ役に立った)新書を売るためだ。  いつものように資料を買い足すついでに、自分がファンタジーノベルというものにとんと触れてこなかったことに気付く。  一応、自分はダレン・シャンのブームに乗っていた世代である。ハリー・ポッター、指輪物語とその派生作品、上橋菜穂子作品と有名どころは

          #1 カテエラというもの

          【小説】濡翼のヴィジリア【第四話】

           解剖室の遮光窓にはべったりとタバコのヤニが付いていた。  ウィルドがノックをする前にドアが開いて、首の無い男がふらふらと出てきた。汚れた白衣を小脇に抱え、もう片手で血の入ったバケツをぶら下げている。 「そろそろ来ると思っていたよ」  バケツが床に置かれ、首の断面がもごもごと声を出す。いかにも小心者のデュラハンらしい細い声だった。 「デーレル、被害者だが」 「これから検視報告をまとめる。モーニング、まだだろ?」 「まあ……」 「ちょうど良かった」  デーレルは笑う代わりにぱ

          【小説】濡翼のヴィジリア【第四話】

          【小説】濡翼のヴィジリア【第三話】

           あんなに夜を徹したというのに、朝になると自然に目が覚めるのは、仙鳥としての習性なのかもしれない。あるいは従軍時代の習慣か。  あれだけ耳障りだったラッパの音が、ときおり恋しくなる。  レナータはまだ眠っているようだった。  霧で煙った町並みを横目に、ドアの前に置かれた新聞を手に取る。第一面には頬まで裂けた口で悲鳴を上げる娼婦と、ナイフを振りかぶる暴漢の版画が刷ってあった。 「資本主義だねえ」  新聞版画というものはひどくコストがかさむものだ。それだけの価値が『突き刺し魔』

          【小説】濡翼のヴィジリア【第三話】