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34.司法とソーシャルワーク

以前、社会福祉の領域といえば、高齢、障害、児童、貧困、地域、医療の分野が主な実践の場として考えられてきました。

現在では、刑事司法システムの領域にまで広がっています。
 
まぁ、社会の福祉ですから…どこにいてもおかしくないです。

福祉は“幸福”や“豊さ”を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を表すものです。
 
これは、どの業種の人も何かしらの形でやっていることです。

ソーシャルワーカーなんて“社会の仕事人”ですから、何をやっていてもおかしくないわけです。
 
社会で仕事をしている人(社会を支えている人)はみんながソーシャルワーカーで、資格や仕事云々は関係ないものだと思うので、国民皆ソーシャルワーカーです。
 
ただ、その中で専門的な知識を幾つか勉強したり、一定期間の研修を終えてテストに合格した人が社会福祉士や精神保健福祉士になるということです。
 
刑事司法システムの中でのソーシャルワークは“地域福祉の課題として捉える”、“多職種・多機関連携と協働”、“権利擁護実践”という3つの視点で考えます。
 
日本の刑事司法システムは、警察、検察、裁判所、刑務所、保護観察で構成されています。
 
社会福祉士や精神保健福祉士は、地方検察庁、刑務所、更生保護施設に入って、検事や弁護士などの多職種とチームを組み他機関と連携協働しながら活動しています。
 
刑務所内で働く場合、重要な役割の一つが権利擁護の実践です。

権利擁護は、受刑者が塀の中でも安全を確保して必要な権利を表明できるように指導したり、心理的社会ニーズを組織に代弁したりすることです。

具体的な取組として、更生支援計画書の作成や提示や裁判における証言などがあります。
 
このような多職種・多機関の連携と協働や権利擁護実践に加えて、もう1つの視点として、地域福祉の課題として捉えることについても見てみます。
 
日本は超高齢社会により犯罪者の高齢化が進み、刑法犯検挙人員に占める高齢者の比率は1998年の4.2%から2019年には22.0%に上昇しています。

女性に絞ると33.7%と更に高い数字になっています。
 
そのうち70歳以上は、男性の約5割、女性の約9割が窃盗罪で捕まっています。
 
背景には、認知障害や経済的な困窮、社会的な孤独状態など…、様々な理由が潜んでいるケースが多く、被告人としてではなく家族歴や生活歴を含めた一人の人間として理解しなければ再犯防止や社会復帰に繋げることはできません。
 
その為、地域福祉の視点を持った社会福祉士などの専門家が関わる必要があると考えられています。
 
そもそも、司法側と福祉側では、出所者に対する関心が根本的に違います。
 
司法側は“再犯防止”、福祉側としては“人生のやり直し”という部分に主眼が置かれています。
 
福祉としては、その人に応じた支援を行うことが目的で、例えば、施設に入所して新しい友人関係が築くことができ、打ち込む仕事が見つかるなどした結果、犯罪に巻き込まれなくなる…と考えます。
 
釈放してもちゃんと戻るところがあるのか…と考える治安維持の観点から入る刑事司法があり、その構造の中で活動する弁護士がいます。

本人がなるべく社会の中で暮らせるようにどう支援するか…という福祉側の思いとはズレがあります。

その対話がとても重要で、その対話により連携が強くなりより良い方法が見出せると考えられます。

目指すところは一緒…、犯罪のない安全で安心して暮らせる社会の実現です。
 
そして、非行や犯罪をしてしまった人が更生して、その後再び、地域の人たちの信頼を得て社会で活躍することこそが、少子高齢化による人口減少という問題を抱えた日本にとって、より良い社会に向けて、地域共生社会の実現に向けて欠かせないものだと考えられます。
 
出所後、仕事を持ち、社会を構成する健全な一員としてそれぞれの生活を立て直している人も数多くいます。
 
社会復帰する人と再び犯罪や非行をしてしまう人とでは、どう違うのか…。
 
犯罪や非行の背景には、様々な要因が複雑に絡み合っていて、特定の要因と結びつけることは難しいのですが、仕事があるかないか、住居があるかないかで再犯率が大きく変わることがわかっています。
 
再犯者は出所後に、社会における仕事と住居がなく、経済的に困窮することや社会的に相談する人がいなくて孤立してしまう…つまり、どこにも居場所がなく周囲の人たちから遠ざけられた結果、再び犯罪に及ぶという悪循環に陥ると考えられます。
 
出所者が立ち直り社会で自立する為には、本人の強い意志と努力が必要であることは当然ですが、社会の中で適切な居場所や仕事を持つことが重要です。
 
そこで、保護観察官や保護司、様々な関係機関や団体などが連携し、出所者が住む場所や仕事を見つけて地域社会で自立し、円滑に社会復帰できるように更生保護の活動をしています。
 
他に、協力雇用主は犯罪や非行の前歴の為に定職に就くことが難しい出所者などを、その事情を理解した上で雇用して改善更生に協力する民間の事業主です。
 
更生保護女性会は、女性としての立場から犯罪・非行の未然防止の為の啓発活動を行うとともに、罪を犯した人の更生支援や青少年の健全な育成を助け、非行のある少年の改善更生などに協力するボランティア団体です。
 
BBS(Big Brothers and Sisters Movement)は、非行など様々な問題を抱える少年たちに兄や姉のように身近な存在として接しながら、少年たち自身で問題を解決し健全に成長することを支援することで、犯罪や非行のない地域社会の実現を目指す青年ボランティア団体です。
 児童福祉施設における学習支援や児童館での子どもとのふれあい行事なども実施しています。
 
出所者が立ち直るのを支える方法は様々ですが、とにかく言えることは、更生保護にとって1番重要なポイントは、社会に暮らす人たちの理解と協力によって支えられるということです。
 
 
写真はいつの日か…喜茂別町から羊蹄山を撮影したものです。

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