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38.CaRe

日本で一般的に “ケア”といえば、家族や介護職が行うお世話として理解されることが多いと思いますが、治療や看護などの医療的な“ケア”や、国や社会が児童、高齢者、障がい者などに必要なサービスを提供するという場合など…あらゆる場面で使われます。

本来は、自分に対してや人間関係の中での相手への配慮や、思いやり、気遣いまでが含まれる広い概念です。
 
スポーツ選手が自分の身体をケアする…と使われ方もします。
 
地域共生社会では“ケア”を求める全ての人の為に、医療や福祉だけにとどまらず、職種や業界の垣根を超えて本当に求められるサービスや仕組を生み出せる人材が求められています。
 
“ケア”という言葉の語源を見てみます。
 
日本語で“心配する”、“注意をする”、“世話をする”などを意味する“ケア(Care)”は、ラテン語の“クラーレ(Curare)”が語源になっています。
 
“気にかける”などの意味で使われる言葉で“整える”、“支配する”、“統治する”、“引き受ける”などとも訳されることがあります。
 
この語源を基に“Care”だけではなく、気遣いを表す“Secure(安全な)”や“Insecure(不安な)”、手入れをする意味の“Cure(治療)”、“Manicure(マニキュア)”などの言葉が派生しました。
 
“世話”、“介護”、“保護”などの医療的、心理的な援助を含んだサービスを表す“Care”は、ラテン語の“Cura(配慮・治療)”が由来になっています。
 
“Cura”は“クーラー”と発音し、世話や介護以外に“治療”、“治癒”、“栽培”、“耕作”、“管理”、“経営”や“執筆”など幅広い使い方で訳されます。

英語の“Curius(注意深い)”などにも派生しました。
 
要するに“面倒を見る”…ではありません。
本来は“ケア”は“気にかける”という意味で、その語源はラテン語の“耕す”という言葉です。

相手が持っている畑を耕して生活がうまくいくように気にかける…、本人の能力を生かすことを指します。
 
介護保険法の第2条に“保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化防止に資するように行われる”との記載があります。

“自立支援”です。
 
要するに、福祉の仕事は決められた時間に決められたことをルーティンで行うようなものではないということです。
 
“自立支援”を全面に出した支援が求められています。
 
わかっていても現状は難しく、時間に追われてバタバタと動かざるを得ない状況も多々あると思います。

国が定めた人員配置基準が設けられていて、ほとんどの場合はその最低基準を満たすことだけを考えて事業所は動いているので、理想の支援はなかなか難しいようです。

そうではない、“より良い支援を”…という考えで人員を増やしてやっているところもありますが、別料金がかかったりすることもあります。
 
そもそも、現状の人員配置基準で事故をある程度防げることやある程度の生活のお世話はできても、自立支援という立派な目標を掲げた支援ができるかどうかというのは疑問があります。
 
虐待がなくならないことや、離職率が高い仕事になってしまっている現状の原因はひとりひとりへの負担が大きいということも1つの原因として考えられます。
 
しかし“働く人が圧倒的に足りない”という根本的な問題があるので、制度的に問題があったとしても、それ以前の問題です。

そういう状況ですから、夜間を中心にAI技術の導入により人員配置基準はもっと縮小されるようです。
 
テクノロジーのおかげで記録をしなくて良くなったり、重労働が少なくなったり、見守りの負担が少なくなれば、状況は変わってくるでしょうし、その分“人間力”が問われる仕事になります。
 
現状のままであれば自立支援は諦める…なども含めて考えなければいけなくなるかもしれませんが、全事業所にちゃんと正しく行き渡ることができるかわかりませんが…機械が人を助けてくれることは確かです。

こんな厳しい過渡期なので、国の偉い方々も現場で一生懸命最善を尽くしている方たちも、今一度“ケア”の根本的な認識を改めて見つめ直す必要性があるのではないかと思います。
 
とても基本的な…古典的な話になりますが、例えば、御高齢の方の支援をする時にできる限り車椅子を使わないように…ということがよく言われます。
 
もちろん特殊な事情や本人の強い希望があれば車椅子が必要になると思います。
 
しかし、それ以外の方は車椅子を降りて自力で歩いたり、立ったりすることが大切になります。

実は、車椅子は椅子ではなくて移動の為の道具です。

人は動かなければ筋力や心肺機能が低下し、ますます動けなくなります。
 
1週間ベッドで安静にしていると15~20%の筋力が失われると言われています。

特に高齢の方では、基礎的な筋力が低く安静による影響は更に大きくなります。
 
1日中車椅子に座っていたら、筋力や体力はどんどん低下して寝たきりになるリスクが上がります。
 
“死”から逆算して自立支援を考えてみると、高齢の方にとって特に注意するべき死因のキッカケになるものは肺炎と骨折です。
 
肺炎と骨折の原因として“フレイル(高齢の方に見られる老年症候群で、心や体の働きや社会的な繋がりが弱くなっていく状態)”があり、フレイルの最大の原因は“低栄養”と言われています。
 
低栄養の要因は多岐に渡ります。

中でも、活動量が低下して食事の量が減少してしまうことや、食後のタンパク質合成の反応が成人と比較して低下してしまっている点に注意が必要です。
 
低栄養の方に対して必要だからといって積極的にリハビリテーションを行えば、必要以上に痩せてしまいます。

栄養管理とリハビリは両輪で進めていくものです。
 
適切な口腔ケアを行うことで口腔内の衛生状態を清潔に保ち、肺炎を予防することも重要です。

更に大切なことは、舌をきちんと動かすことです。

固形物や水分を飲み込む時には必ず舌が動きます。

物を噛んで咀嚼するには、舌の動きが必須になります。
 
では、舌はなぜ動かなくなるのか…ということですが、その原因の1つに“話さないこと”が挙げられます。
 
静かな環境で車椅子に座り、誰とも話さない状態が続けば、徐々に舌が動かなくなり食事がうまく食べられなくなってフレイルに陥ります。
 
そのような状態を避ける為には、人と交流し、よく話すことが重要になります。
 
利用者に関する情報収集(アセスメント)は適切なケアを行う上で非常に重要です。
 
どのような情報を記録するのかというと、IADL(手段的日常生活動作)が最も多く、次にADL(日常生活動作)がきます。
 
IADLは交通機関や電話の利用、調理、買い物など、自立した在宅生活を営む上で必要になるADLより一段複雑な動作を指します。
 
一般的に入所時の申し送り事項にはADLの情報が中心で、例を挙げると“左半身麻痺あり”、“右目視力低下”、“物盗られ妄想あり”といったように、その人の“弱点”が書き連ねてあることが多くあります。
 
もちろんそれらも必要な情報ですが、それだけでは適切なケアはできません。
 
支援者は、本人の生活やパーソナルな部分に関わるIADLの情報…性格や趣味、嗜好、生活史、家族構成、信念(宗教観)などを多く取り入れて、自立支援を前提としたケアに繋げています。
 
支援する側は、利用者のアセスメント情報を事前にしっかりと頭に入れておきます。
 
しかし、それで終わりではなく利用者が利用し始めてからも情報を集め続けます。

なぜなら、時間の経過とともに“関係性”は変わるからです。
 
人は基本的に、初めは相手や環境、状況に馴れるまで、緊張度が増して“よそ行き”モードになります。

時間の経過とともに周囲の人に馴染んで、“よそ行き”の自分から“本来の自分”に変わります。

昔からの友人と今日出会った人とでは付き合い方が違うように、関係性が変わることでアセスメントも変わってきます。

そして、提供されるケアは職員本位ではなく、利用者や御家族の想いを汲み取ったものでなくてはいけません。
 
高齢者を支える介護現場では、介護職同士はもちろんですが、他職種との連携が重要になります。

チームケアは、医療と介護福祉など…様々な専門職が連携して病気の治療や介護にあたることを意味します。
 
実際にチームケアにあたるスタッフは、介護士の他、医師や看護師、理学療法士や介護支援専門員(ケアマネジャー)など多様です。
 
24時間のサポート体制で365日、利用者の生活を支援することがチームケアとなります。
 
介護士だけではなく医師や看護師がケアに携われば、要介護者の在宅生活も可能になります。
 
訪問介護の現場では、利用者と地域を繋ぐ為のチームケアが必要です。
 
高齢者が介護サービスを利用しながら住み慣れた地域で自分らしく生活する為にも、多職種によるチームケアは今後更に重要視されると考えられます。
 
様々な専門職がケアに携われば、より多角的な視点で利用者の問題点を解決することができます。
 
それは利用者やその御家族にとっても、より安心感を得ながら自立生活を送れるというメリットが生まれます。
 
より良いケアを提供する為にはチームの情報共有が重要です。
 
介護士にとっては些細な事と感じる場合でも、他の職種にとっては重要な情報になり得る場合もあります。
 
利用者の変化を多職種と共有します。
 
専門性が異なる様々な視点で変化を捉えることで、より利用者に必要なケアを検討していくことができます。
 
地域包括ケアシステムにおいて、多職種によるチームケアは高齢者の自分らしい自立生活に欠かせないものです。
 
日本では、少子高齢化…特に後期高齢者数の急速な増加に伴い、社会保障費の膨張と財政赤字の拡大、深刻な医療や介護サービスの不足が生じる可能性が高まっています。
 
特に地方部では、これに加えて極端な人口減少やインフラに関わる維持更新の負担の深刻化によって地域としての持続が困難になると予想され、大きな課題となっています。
 
このような問題を解決する為に集約的な地域空間の中で、効率的かつ効果的な医療や介護などのサービスを提供しつつ、財政的な制約の中でも質の高い住まいとケアのシステムの実現が求められています。
 
地域包括ケアシステムとコンパクトシティは同時進行で動きます。
 
それが地域共生社会です。
 
住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることの重要性と、その人らしく最期まで納得できる暮らしを実現できる家や街の実現が求められます。


写真はいつの日か…札幌市手稲区の前田森林公園から手稲山を撮影したものです。

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