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『優しさ』のはき違え

母がお手伝いを依頼する人

長男たこ・長女ぴこ・次女ちぃは、不登校中だ。
今回は長女ぴこの話をしたいと思う。

長女ぴこは、とても面倒見の良い女の子だ。「優しい子だね。」と褒められることも、彼女にとっては日常だった。
母も、ぴこの“優しさ”に甘えて、お手伝いを依頼するのはいつもぴこだった。その事実に気が付いてもいなかった。

ぴこは、喜んでお手伝いを引き受けていたし、母も何も考えずぴこにお願いしていた。
しかし、ぴこの様子が少しずつ歪み始める。
お手伝いを「やだ」と理由もなく断る様になった。

「え?なんで?」と母も戸惑う。機嫌でも悪いのかな?と。
そのあと、ぴこが発した一言には大きな気づきがあった。

「どうして、たことちぃには言わないの?なんでいつもぴこばっかり使うの?もうヤダ!」

本当だ。言われてみて初めて気が付いた。たことちぃに何かを頼んでも、9割の確率で、「やだ。」「無理」が返ってきた。承諾してくれても、取り掛かってくれるまでにすごく時間がかかった。

母の気持ちも乱されるおまけに効率も下がる。自然に、素直にいう事を聞くぴこにお願いするようになっていた。
家族全体がそんな空気感になっていた。

ぴこがお手伝いを「やだ!」と断ったとき、母の中にモヤつきが生まれたのは確かだった。何言ってんの?あなたが手伝ってくれなきゃ、私一人でやるの?もう、ぴこに決め打ちしていたので、たことちぃの事をぴこと同じ土俵で見れていなかった。

ぴこが断ったら、たことちぃのどちらかに頼めばいい。しかし、母は、そのたことちぃを動かす動力を考えて言ってるのか?とぴこに不満をぶつける自分が居ることに気が付いた。

そして、兄妹たちもまた、お手伝いを受けないぴこを責めた。
「お前がやらなきゃ、おれたちに仕事が回ってくんだろうが!やれよ!」
その状況を見た時に、ものすごく違和感を覚えた。

良く考えたらおかしな話だ。同じ兄妹で、格差があっていい訳がない。
母は、たこと、ぴこと、ちぃに、平等にお手伝いをお願いするべきだった。ぴこにだって『断る権利』は当然にある。

つまり、母は、ぴこの優しさを搾取していたんだ。
使いやすいコマとして、位置付けていた。
それは、“困ったから頼る”という認識よりも、“使いやすいから言う”とういニュアンスが強くなっていたことに、ぴこのストライキを受けて、初めて気が付いた。気が付いてしまった。

子ども同士の社会での話

ぴこのステイタス

ぴこは、不登校をしている。それは、学校の友だちや、先生との人間関係が大きかったのではないか、と母は現時点、考えている。

ぴこは、誰かとの争いが大嫌いだった。
嫌なことも、自分が我慢すればその場は丸く収まるだろう、とぴこは考えがちだ。と母は感じていた。

友だちとのやり取りを聞くたびに、「嫌なことはイヤ!って言いなさい!」と母はぴこに説教した。
しかしぴこは、友だちとの直接対決は避けた。
「ぴこがヤダって言ったら、相手を傷つけるかもしれない。言えない。」
と。

せっかく遊びに誘ってくれた友だち。ぴこを選んでくれた友だち。そんな友だちにカラかわれて、心がぎゅっとしても、笑って流していた。流している振りをしていたんだ。だから、今、ぴこは苦しくなって不登校なんだ。

そして、そのカラかいはイヤだ!とぴこが声を上げたら、大人が飛んできてぴこを傷つけた子を叱るだろう。周りの友だちも、もしかしたら、ぴこをからかった子を責め立てるかもしれない。そんなことをしたら、相手の子が可哀そう。ぴこはそう考えていた。

ちょっとまて、と。もう既に、ぴこ自身が傷ついているのだろう?そこは、どう処理するつもりなの?あなたの気持ちは、どうなるの?母はぴこを問い詰める。ぴこは、「いいよ。どうせ。」と力なく笑う。

この子は、優しさが過ぎるよ。と母はぴこに憤っていた。

ゲームのルール

決定的に危機感を感じた出来事が起こった。
ぴこが友だちと遊んでいる中で、『ゲームで負けた人が、勝った人のいう事を聞く』という子どもの中でルールが立ちあがった。みんな承諾してゲームを始めた。

そして、友だちが勝って、ぴこは負けた。
友だちはぴこに、
ズボンを脱げ!」と命令した。

ぴこは、その遊び場に行けなくなった。母は、何も知らなかったので、いつも通り送迎をしたが、ぴこは車から降りられない。
不登校になる前の、行き渋りもそうだった。「怖い」という言葉のみで、中々真相が見えなかった。
きっと、何かあったんだろうな、と母は感じたので、無理強いはさせずに休ませることにした。

ぴこの「行きたくない」という気持ちを母が汲んだことで、ぴこは、言いにくそうにその話、「ズボンを脱げ」と言われた話をしてくれた。

どうしてすぐに話してくれなかったのか。母はぴこに確認する。
「だって。。友だちが怒られちゃうから。。。」
やっぱりそうか。ホントにため息が出る。母は頭を抱えてしまう。

気を取り直して、母はぴこと向き合って、真剣に話をする。
「ぴこ、友だちが怒られるとか、傷つくとか、そんなことぴこには何の関係もないよ!!」
言っているうちに、母も感情が高ぶってしまう。

「ぴこ、何があっても、ぴこが怒らなちゃいけない時がある。自分の尊厳を傷つけられた時!心や体を傷つけられた時!それだけは絶対に許してはイケナイ!!!」
母の剣幕にぴこはうなだれてしまう。「だって。。」と下を向くぴこに、
「“だって”じゃない!!絶対だ!!」強引に押し通した。

母は、興奮している自分に気が付き、いかんいかんと、冷静さを取り戻しつつ、ぴこを見る。ぴこは、とても困っているように見えた。判断が付かないように読める。何がよくて、何がいけないのか。ぴこには分らない。と言いたい様子だ。

ぴこの話をよく聞こう、と思った。ぴこ、教えて?と母は、ぴこの話をまず聞くため、体勢を整えた。ぴこは、ぽつぽつ話し出した。

ズボンは脱いでいないとの事だった。でも、また同じような事を言われるのは怖い、と。
そして、「ズボンを脱げ」というような、変態的な発言をしたことを、ぴこが誰かに広めたら、その子の立場が無くなってしまうだろう事を危惧していた。その子が、怒られる以上の、辱めを受けてしまうのではないか、とぴこは考えていた。だから、言いたくなかった、と。

これは、ちゃんと答えなくてはいけないぞ。と母は思った。

問題を切り分ける

不登校を一緒に闘って来たママ友がいる。私は彼女を戦友と呼んでいるのだが、戦友と最近よく話すことがある。
『問題の切り分け』についてだ。

そのモヤモヤは、結局“誰の”問題なのか?
子どもが学校に行かないことにモヤモヤしているのは、学校に行かない子どもの問題か?学校に行かないことを許容できない親の問題か?というように。

さてここで、ぴこの話に戻るが、「ズボンを脱げ発言」という事実に対して受ける印象は、衝撃的で、少なからず引いてしまう。

しかし、ここで『ぴこ問題』は、『自分の違和感を相手に伝えられない事』にあると思う。
ぴこは女の子だ。母が大げさに捉えているだけかもしれないが、ぴこが大人になって、“望まない妊娠”をさせられてしまう最悪のシナリオが脳裏をよぎってしまう。
そこはしっかり、自己主張して、自分を守るスキルを習得する必要があると思っている。

そして、『友だちの問題』は、「ズボンを脱げ」と言ってしまうような、『相手を不快にさせる発言をしてしまう事』にあるだろう。それが、冗談でも本気でも、相手に嫌悪感を与えてしまう言動をしてしまうのは、ぴこの問題ではなく、友だちの問題だ。と思った。

そして、母は、それを学ぶのが経験だと思っている。
ぴこと、ズボンを脱げと言った子を、今後一切引き離して、接触を断つ様なことは、何の解決にもならないと思う。

ぴこには、「それ、嫌だよ」言えるようになることが課題だ。
友だちには「これを言ったら相手は嫌がるな」と知る事が課題。

お互いにまだ子どもなのだから、そうやって、浅い傷を経験していく中で、自分の判断材料を増やしていければ良いと思っている。そして、大人は、ぴこと友だちを引き離すのではなく、二人が適切な判断をして社会を渡って行けるように、助け舟を出せたら良いな、と思う。それが大切だと思う。

ぴこの自己主張

我が家では、風呂掃除を子どもたち3人に任せている。
その日その日で、誰がやるか3人がジャンケンをしているのだが、
ジャンケンで負けたぴこが、「ぴこヤダ!風呂洗いやらない!」と言い出すことが多発した。

兄妹で揉めて、すったもんだあって、それなら当番にしよう、と順繰りに風呂掃除をしていても、ぴこが当番を「ぴこヤダ。やりたくない!」と言い出すようになった。

母は、(ははーん。嫌なことはイヤって言いなさいの部分が強烈にインプットされているのだな。。。)とぴこの様子を見ていて思った。

3兄妹と共に正座をし、母が話をする。
社会と言うものは、人と人がそれぞれ協力し合って成り立っている、と。
みんながぞれぞれに自分の時間を出し合い、仕事を回しているのだ、と。

ママも、自分の時間を使って、料理をする。ママだって本当は寝っ転がってYouTubeが見たい。
風呂洗い、洗濯、掃除、買い物。全部ママの時間だけを使えば良いと思うかい?そしたら、ママだけが、時間を搾取されていないかい?不登校でみんな家に居て、それで時間は24時間みんな平等だ!なんて言えるかい?

私たちは、家族いう社会の中で協力し合わなければいけない。生活を回すために。協働しようじゃないか。

小6のたこは納得したのか、「はん。」と納得よりに首を斜めに頷いている。
ちぃは、「ママもYouTube見て良いよ!一緒に休もう!」と言う。ぴこは黙っている。

いい事言ったね!とちぃの発言を受けて、正座を崩さず深堀りする。
「じゃ、ママずっとお仕事しないでYouTube見て良いの?ありがとう!
ご飯はどうする?ご飯を作る材料は?買い物するのもお金が居るね。お洋服は、同じものをずっと着ていようか。お風呂も入らずね。身体が臭くなってかゆくなって、お腹が空くだろうね。」

ちぃの顔が未来を想像している。「そしたら、やっぱり誰かが動かなくちゃ。」とちぃ。
そう。私は大人で、あなたたちの親だから、最低限やるべきことはやっているつもり。けど、全部は大人でもやっぱりキツいときがあるんだ。ちょっと協働してくれたら、すごく助かるんだよね。お願いできないだろうか?

改めて子どもたちに問うと、たことちぃは納得した。もちろんダダをこねたり、のらりくらりと効率の悪い動き方をするのが急に改善されるわけは無いが。根底意識は少しだけ理解したようだ。

ぴこは、まだ眉間にシワを寄せていた。
「嫌なことはイヤだって言っていいのに。ヤダって言っちゃいけないこともあって。ヤダって言わなきゃいけないこともある。うぬぬ。。」
ぴこはもう耳から煙が出そうになっている。

「もういいから!ママの言う事聞いてろ!」
と振り出しに戻るのであった。

自分への教訓

  • 優しさを搾取してはいけない。

  • 自分の尊厳は、しっかり守らなくてはいけない。

  • 問題を切り分けて考える。

  • みんなで協働して、うまく回していこうよ。






学校で生きずらさを抱える子どもたちのために何ができるのか。 たこ・ぴこ・ちぃだけではなく、不登校児の安心できる居場所づくりの資金にしたいと考えています。