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9月9日

昨日の夜は星空を眺めながらこれ以上なく贅沢な眠りについたのだが、その目覚めは打って変わって、ロマンチックとは言い難いものだった。
布団は朝露かなにかでぐっしょりと湿っていて、座っていると無数の虫が飛び回る。
遠くから聞こえる犬の鳴き声は一向に止まず、手櫛の通らない砂でパサパサな髪、ベタつく体もなかなかに苛立たしかった。
ただし朝焼けに染まる砂漠はまた違った美しさで、そんな状況でも離れがたい気持ちにさせた。
バギーに乗ってキャンプ地に戻り、朝食をとってジープでジャイサルメールの市街地に戻った。
ジープに乗っていたときの記憶はほとんどない。やはりこのときも、気を失ったように寝ていた。

やっぱりこの空が好き
夕焼けみたいな朝焼け
やっぱりシンプルな砂漠のごはん

ツアーを組んでくれたおじさんは会社を Google でレビューするようしつこかったが、シャワーを浴びさせてくれた。
砂がついた髪の毛はどうしても元通りにはならなかったが、ジョードプルへの電車が来るまでの数時間、観光できそうなくらいリフレッシュにはなった。
のんびり支度したのでジャイサルメール城にリベンジというわけにもいかず、近くでお昼ごはんを食べつつ Haveli という王邸を眺めることにした。
しかし暑い。砂漠の町と言われるだけあって、直射日光の鋭さに外で歩き回る気力を奪われる。
結局外から建物を眺めて、ゆっくりと昼食を摂ることにした。

普通の邸宅でもこんな彫刻が施されている
町のいたるところにお土産屋さんが並ぶ

ラージャスターン特有のターリーを2つ頼み、友人とシェアした。
テント付きでファンは回っているものの暑くて、私は熱くて辛いカレーをあまり食べる気にはならなかったが、それでもいくつかルーをおかわりして美味しくいただけるほどだった。
インドは暑いのになんで辛い物を食べるのだろうと思っていたが、暑いからこそ辛い物を食べて汗をかき体を冷やそうという古代の知恵なのかもしれない。

熱風を送ってくれる扇風機
1人じゃ食べきれないほどボリューミー

お腹いっぱいでレストランを出て、大汗をかきながら街並みを楽しみつつ、ツアー会社のオフィスまで歩いて戻った。
途中3人でココナッツウォーターを分け合った。
以前から気になっていたのでワクワクして飲んだのだが、飲んでから3人全員首を傾げた。
不味くも美味くもない味。冷たくも熱くもない水。
少しずつ飲んだが3人1杯で満足するものだった。

3本ストローを頼んだらおじさんに笑われた

ツアーを手配してくれたおじさんのオフィスに戻ってシャワーを浴び、リキシャーで駅まで行った。
ジャイサルメールでの思い出はほぼラクダと星空で占領されているが、どの路地裏に入っても綺麗に建物が装飾され、土色の壁を背景に行き交う人々の装いや土産物はカラフルで、もっと涼しい時期にゆっくり町中を観光するのもいいなと思った。
これから寝台列車でジョードプルに向かう。
バスがほぼトラウマになっていたので、駅に到着した途端、これはヤバいと思った。
デリーメトロとは対照的な、簡素で必要最低限なホームとチケット売り場を見て不安がさらに募る。

無駄がない

やたら話しかけてくるおじさんに案内してもらって、AC(エアコン)付き2A(上から2番目に上等な席)の車両にたどり着いた。
出発前だからエアコンは聞いておらず、木目調の木枠に革製のクッションが敷き詰められていて、見ている分にはレトロで可愛い。
Red Bus というアプリで予約したところ、希望していた席は取れておらず、私には3段ベッドの真ん中という微妙な席が与えられた。
ぬるっと発車して、本当にのろのろと砂漠の景色が後ろへ流れていった。
幸い最初の1時間ほどは周囲の乗客がおらずのびのびと3段ベッドを使えたのだが、後半は良い席を見つけたと言わんばかりにどこからか来たおじさんの集団に取り囲まれてしまった。
おじさんたちは最初こそ寝台列車に乗る日本人の小娘に興味津々で、色々とヒンディー語で話しかけてきたが、私がコミュ障だとわかると次第に諦めたのか、足を私の方の座席に投げ出して談笑したりマッサージしたりしてうるさかった。

頭より上に人が寝ている不思議空間
砂漠ともお別れ
寝てるおじさんが反射して映っちゃった

眠れないので仕方なく映画を観ることにした。
たまたま Netflix でダウンロードしていた Masaan という映画だ。
インド映画らしからぬインド映画だった。
初っ端ベッドシーンだっただけでだいぶ面食らったが、肝心なのはそこではなく、各々の立場の違いはあれど皆同じく宗教という闇に翻弄される4人の数奇な運命を、しっとりと写実的に描いたその構成の巧みさ。
気になって調べるとフランスとの合作とのことで納得がいく。なるほど、踊らないし奇天烈アクションもないわけだ。
ワーラーナスィーに行きたい、などと簡単に口にしていた私だが、この映画を観てから、その地を訪れることの意味を考えずにはいられない。
インド映画らしくはないが、インド、宗教に真っ向から向き合った、何よりインドらしい映画だった。
少なくとも私が観たインド映画の中では1番好きだなと思う。

なんだかんだで5時間の寝台列車の旅はあっという間に終わった。
ジョードプルの駅は人でごった返していて、ホームで寝ている人もいれば日本人の私たちが余程珍しいのか盗撮してくる人もいてカオスだった。
夜のインドの町は昼間よりもやかましくて、ネオンの看板がギラギラしていて、怪しさ満点だがなんとなくその危うい雰囲気が好きだったりする。

駅のホーム、大きな荷物の人がたくさん
ジョードプルの駅正面から

お腹が空いたのでたまたま見つけたホテルに併設されたレストランに入り、finger kabab を頼んだ。
が、私の期待した「ケバブ」は来なかった。
肉は入っておらず、カレー味のマッシュポテトにパン粉をつけて揚げた食べ物だった。
美味しいけど、辛いし、肉入ってないし…
友人が頼んだメニューも頓珍漢な味付けで、失敗したと言わざるを得ない結果だった。
メニューに書いてあったから頼んだものがないと言われるのも腹が立つが、ないのに断りもなく別の料理を出して誤魔化されるのもなかなか許し難い。
ケバブ食べたかったなぁ、と思いつつレストランを後にした。

飛び出ているのはポテト

ONE PIECE のアラバスタ編に出てくるもののモチーフになったとされる時計塔を横目に広場を通り抜け、薄暗い路地を進んでホテルにたどり着いた。
荷物を抱えてヒイヒイ言いながら階段を上ると、受付に河野太郎みたいな見た目のメガネのおじさんがいて出迎えてくれた。
受付の横に Zipline というアクティビティの看板が置いてある。
メヘランガール砦を眺めながら空中を移動するやつらしい。
怖いし金がかかるのだろうけど、一度バンジージャンプとかこういうアクティビティをやってみたい。
受付のすぐ近くの部屋を案内されたが、あまりに綺麗で広いので驚いた。
この度で初めて立ってシャワーが浴びられる。
別にアメニティが充実していたとか言うわけでもないが、ホテルらしいホテルに泊まれたことが嬉しかった。
今日はもっぱら移動ばかりだったが、明日はジョードプル市内を観光する予定。
朝になって太陽の光を浴びた青の街がどれほどきれいか想像して眠る。

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