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伝統芸能の難しさと楽しさ、そしてその先〜映画「ウムイ 芸能の村」が語りかけるもの


©️2023 VIVA RYUKYU

一匹の獅子が、村を練り歩く姿。

鮮やかな黄色と白のコントラストが美しい獅子が、静かな町の中をゆっくりと進み、惣慶宮へと登る姿は神秘的の一言に尽きる。

獅子が願うのは、病気平癒だろうか。

出演者の一人、比嘉勝さんの奏でる三線の音と歌声がゆっくりと響く。

沖縄県国頭郡宜野座村。そこには、消えつつある伝統芸能を守ろうとする人々がいる。

世代を超え、熱い思いを胸に活動する人々の姿に、私たちは何を見つけるだろうか。

コロナ禍の中で

世界中が新型コロナウイルス感染症の拡大に見舞われたとき、文化芸術は「不要不急」として停止を余儀なくされてしまう。

地域で伝承されてきた民俗芸能に至っては、より深刻な影響を与えたと言えるだろう。

人口約6000人の小さな村、宜野座村。

そこには、世代を超えて民俗芸能の伝承を絶やすまいと、熱い気持ちを持つ人々が暮らしている。

琉球舞踊、三線、琉球笛、島太鼓、エイサー、琉球古武道、獅子舞。

数々の伝統的な民族芸能が、生活のそばで息づく村。

©️ 2023 VIVA RYUKYU

担い手の減少に思い悩む中、仲原瑠季さんや島袋拓也さんなど、若い世代はどうにか伝統を繋ごうと熱い想いを持って活動している。

コロナ禍の中、マスクをしながら子どもたちに踊りを教える金城平枝さんの姿の中には、大きな優しさと微かな厳しさが見える。

伝統を守り、繋いでいきたいという想いがそこにはあふれているように見えた。

獅子がまたゆっくりと宜野座の村を進んでいく。

人々の想いを繋ぐかのように。一歩一歩。

子どもたちの想い

琉球笛の製作者であり、演奏者でもある仲本克成さんの娘さんは、伝統を継ぎたいという気持ちにあふれていた。

父が笛を作っている姿を見て、自分もという気持ちがあると言う。

子どもは親の姿を見て育つ。その辛さや喜びを間近に見て、自分はどうするのかを決めていくだろう。

受け継ぐのか、それとも…。

しかし、それも伝統芸能の運命なのかもしれない。

伝統的な楽器をいくつも習う、仲本あいさんも印象的だ。

箏を懸命に習う姿は、伝統芸能に向き合う真剣な姿勢がうかがえる。

前田心誠(まえだ しせい)くんは、踊りの稽古を受けるために週末に宜野座村を訪れる。

友達と遊べるからという、子どもらしい理由もあるかもしれない。

しかし、踊りを習っている時の顔は真剣そのもの。

子どもたちも、伝統を守るために想いを抱いている。

獅子頭が外される。

感謝の祈りを込めて、獅子頭と衣装に泡盛を塗り込んでいく。

地域の民俗芸能は、熱い想いを持った人々が担っている。

でも、この先は分からない。

人と人の関係が、次第に希薄になる中、伝統芸能は伝統芸能として生き残っていけるのか。

その先は、きっと誰にも分からないのだろう。

監督の想い

©️ 2023 VIVA RYUKYU

本作の監督は沖縄に移住して20年になる、ダニエル・ロペス氏だ。

沖縄の文化の豊かさに触れてきたロペス氏はこう語る。

「伝統が薄れつつあるのを感じている。伝統は生き残るのかどうか、生き残るとしたら、どのようように変化していくのか、私には分からない。

この映画では、薄れ行く文化をさまざまな形で守ろうとする「伝統の守護者」に敬意を表したいと思っている」

本作の中では、獅子が守り神としてシンボリックに描かれている。

その獅子で表現された、自然崇拝の表現は沖縄の人々の精神性を映し出しているように感じられた。

それは、決して狙ったものではなく、偶然のものだったとロペス氏は語る。

守り神である獅子が、伝統芸能の美しさや、それを守る人々を撮影したロペス氏の想いを汲み取ってくれたのかもしれない。

守るべきもの

伝統芸能の面白さを、私たちは認識できていないのかもしれない。

40代になる私も島言葉には疎い。まったく理解できないこともある。

そのため、伝統芸能からは距離を置いてしまっていた。

しかし、本作を観て感じたことがある。

それは、「伝統芸能を守るという想いの大切さ」だ。

私たちの先祖が繋いできた文化を終わらせてしまうことは、とても簡単なこと。

それを継承しなければ、連綿と続いてきた文化は一瞬にして消えてなくなるだろう。

しかし、繋いできた想いを受け取り、また先へと繋ぎたいという気持ちが何百年という歴史を紡いできたと考えると、簡単に終わらせしまって良いものとは思えない。

本作は、伝統芸能に携わる人々の熱い想いが伝わる素晴らし作品だ。

伝統芸能を守っていきたいという気持ちが、ひしひしと伝わってくる。

そして、そこから私たち自身が伝統芸能について考えたくなるような映画となっている。

伝統芸能が身近な人も、そうでない人も、本作で描かれる人々の想いと、沖縄の人々の心を映し出したかのような美しい光景を観ていただきたい。

民俗芸能の奥深さ、面白さ、そして儚さまでもが心に去来してくることだろう。

それをどう受け止めるのか。それは観た皆さんの心に聞いてみるしかない。

「ウムイ 芸能の村」 公開日程

©️ 2023 VIVA RYUKYU

映画「ウムイ 芸能の村」は、以下の日程で公開されます。

ぜひ、劇場へ足をお運びください。

那覇市・桜坂劇場

2023年 7月 8日(土)〜

沖縄市・ミュージックタウン音市場

2023年 8月17日(木)〜

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