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社会人編4 人の心が読める男

※この話はフィクションです。

中学校来の友人だった袴田君

 学生の頃は友達がたくさんいたはずなのに、進学、就職するにつれて殆どの人と疎遠になった。社会人になった今、友達と呼べる人は数人だ。それでも繋がりがあること自体には感謝したいと思う。
 そんな数少ない、中学からの友人に袴田君という男がいた。彼は同じバスケ部でベンチを温めあった仲間で、高校の時に一度疎遠になったが社会人になってまた遊ぶようになった。鋭い突っ込みとワードセンスが光る男で、言葉の節々に人を下に見ている態度を滲ませてしまうような、一体何がコンプレックスかはよくわからないが香ばしい一面を持つ魅力的な男だった。

袴田君は悩みを打ち明けてくれた

 再開してから5~6年経ったある日、サイゼリヤにてシーフードドリアを食べながら袴田君は打ち明けてくれた。
「俺、実は人の気持ちがわからなかったんだ」
どうやら彼は、人の気持ちを汲むのが苦手だったらしい。全くわからない自覚があると教えてくれた。僕としては、袴田君に対してそのようなことを考えたことは無かったので意外だった。
「今まで彼女ができてもすぐにフラれていたのはこのせいだったんだ。ずっと悩んでた。」
 人は誰しも悩みを持っている。第三者が聞いたらそんなことか、と思うことも、本人からしたら大きな問題と認識していることもある。きっと袴田君の心の中で、大きな割合を占める部分だったんだろうと感じた。
「で、ようやく答えが見つかったんだ。」
そう言って目を輝かせる袴田君。
「知ってる?人って絶対8種類の人格に分けることができるんだ」

悩める人々を導く存在に

 袴田君は、人間を理解するためのセミナーを受けたと言っていた。その内容にいたく感動したらしい。そこからセミナーに何度も通うようになり、今ではセミナーで説明するための資格を手に入れたと言っていた。

「人を理解するための手がかりを掴めることがうれしい」

きっと長年の悩みに対する攻略本を見つけたような心境だったのだろう。彼の瞳には一点の曇りもなかった。スマホを取り出すと、8人格について資料を見せながら色々教えてくれた。
「〇〇の人は絶対に感情より理論で考えるんだ!だからそんな人と会うのは××のタイプなんだよ」
まるでポケモンの相性表を見ているかのようだった。

人の心がわかるようになった彼は

 袴田君は僕のことやもう一人いた友人のタイプ分けをしてくれた。詳しくは覚えていないが、遠からずも当たらずといった分類分けをされた。でもこれで僕のことを理解してくれるならうれしいし、袴田君の自信に繋がればいいと思った。
 帰り際、彼は僕の持っていたカバンを見て
「その色はへたれびと君には合っていないんじゃないかな。大きさもアンバランスだし、もっと似合うバッグを紹介してあげるよ」
とアドバイスしてくれた。これは当時の彼女が誕生日プレゼントでくれたもので、お気に入りのバッグだった。相手が持っているものが、必ずしも本人が買ったものとは限らないことを、彼は知らなかった。それは彼の人生における他人との関わりの薄さを突き付けられたような気がして悲しくなった。
 いつか、8パターンの内のどれかがその事に気づかせてくれることを願わずにはいられなかった。

それから

セミナーに酔狂した袴田君と再び会う勇気が出なくて、あれ以来会っていない。もう何年経つのだろうか、結婚したという情報は流れてきていないので独身なのだろう。彼に合う人格の女性に出会うことができたのだろうか、なんて遠くから心配している僕はどの人格なのだろうか。一度会って聞いてみたいが、サイゼリヤで僕に放った
「へたれびと君もセミナー参加してみなよ!絶対良いよ!」
の言葉がどうしてもLINEを送る指を止めてしまうのだった。


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