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社会人編3 減らないたばこ

※この話はフィクションです。

実家はタバコ屋だった

 僕の実家は昔、おばあちゃんがタバコ屋を経営していた。経営といっても会社のような規模ではない。店先におばあさんが座っているタイプの小さな店だった。昔は知り合いの工場などに自販機を置かせてもらったりもしていたが、おばあちゃんの体力がなくなるとそれも辞めてしまい、店頭販売のみを行っていた。
 おばあちゃんが若いころからやっていたらしく、常連さんは多かった。高校の怖くて有名な社会教師も常連だったと知ったときは焦った。もうけを狙っていたわけではなくライフワークのようなもので、田舎なのに自動車の免許を持っていないおばあちゃんは人と触れ合うために店を開いていた。

不人気な煙草を在庫処理として買っていた

 たばこにもいろんな種類があり、マルボロだけでも十数種類存在する。店頭販売では種類を多く在庫しておかなければならないため、当然売れ残るものもある。
 僕も昔はタバコを吸っていたが銘柄にこだわりが無かったため、売れ残りのタバコを購入して吸っていた。在庫処理の助けになればいいと思ったからだ。売れ残るだけあって美味しくないがそもそも煙自体美味しいものではないので問題はなかった。1箱吸うのに2~3日はかかっていたため、1カートン(10箱セット)で1か月は過ごせた。

なぜか不人気たばこの在庫が減らない

 カートンを吸い終えると次の不人気タバコを購入しようとする。しかし僕が在庫を消費した不人気タバコは、1か月後には在庫が復活していた。
(なぜ再入荷しているんだ?人気がなかったはずなのに。もしかして実は買い手がいるのか?)
 そう思った僕は、別の不人気タバコを購入する。するとまたその銘柄が補充される。最低限度の在庫量が必要なのか?売れているところをみたことがないのに。そう思いながら中南海を購入する。

おばあちゃんの優しさ

 ある日おばあちゃんにそのことを聞いてみた。
「この銘柄ほかに誰か買ってる?」
おばあちゃんは答える。
「へたれちゃん(僕の呼び名)だけだねぇ」
「え、なんで在庫入れてるの?」
「へたれちゃんが好きかと思って」

 おばあちゃんは僕のために在庫を入れてくれていた。道理で在庫が補充されるわけだ。単に優しさがすれ違っていただけだった。
 僕は事情を説明して、マルボロのメンソールライトがいいと伝えた。それからおばあちゃんが店をやめるまで、マルボロメンソールライトの在庫が切れることはなかった。

 今はもうタバコは吸っていない。一時期体調を崩したときに辞めてしまった。ふと吸いたくなるときがあるが、その度におばあちゃんのことを思い出してはほっこりする。親も知らない、僕とおばあちゃんだけの笑い話だ。

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