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映画

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2022年8月の記事一覧

【渡る世間は殺し屋ばかり】『最強殺し屋伝説国岡 完全版』感想

『ベイビーわるきゅーれ』、『黄龍の村』などで知られる阪元裕吾監督の作品『最強殺し屋伝説国岡 完全版』。ある殺し屋の日常と仕事の様子に阪本監督が密着するという体裁のモキュメンタリー(フィクションをドキュメンタリー風に撮る手法)となっている。 以前にも鑑賞したことがあるのだが、今回、続編にあたる『グリーンバレット』が公開されたという事で復習も兼ねて改めて鑑賞した。 ※なお2019年に上映された作品に再編集を加えたため『完全版』となっているとのことです。 創作物の殺し屋というと

異動辞令は音楽隊!

観た映画の紹介 制作:2022年 日本 上映時間:119分 配給:ギャガ この映画を選んだ理由 「ミッドナイトスワン」の内田英治監督オリジナル脚本の映画で、それも夫が演奏する音楽が題材になっているので公開前から気になっていました。 キャスト・スタッフ キャスト:阿部寛、清野菜名、高杉真宙、磯村勇斗、板橋駿谷ほか 監督:内田英治 原案・脚本:内田英治 あらすじ 感想 阿部寛さん演じる30年刑事一筋の成瀬警部補は、私が勤務していた頃の仕事第一で家族を二の次にしてい

【スロヴァキア版アリス?】映画『不思議の世界絵図』感想

先日『EUフィルムデーズ2022』のオンライン配信で『神に仕える者たち』というスロヴァキア製作の映画を観た。その時に「スロヴァキア映画ってどんな作品を観た事あったっけ?」と思い出した時に浮かんだのがこの作品。 『不思議の世界絵図』は今から25年前の1997年に製作された映画になる。監督はスロヴァキアのマルティン・シュリーク。スロヴァキアを代表する巨匠とのことだが、後述する理由で筆者が観ているのは本作のみ。 『不思議の世界絵図』を初めて観たのはもう何年も前のことになる。当時

映画「長城」

観た映画の紹介 原題:The Great Wall 制作:2017年 中国・アメリカ合作 上映時間:103分 配給:東宝東和 日本初公開:2017年2月17日 この映画を選んだ理由 「HERO」「LOVERS」などの武侠映画から「初恋のきた道」「単騎、千里を走る。」といったヒューマンドラマまで幅広い作品と、2008年の北京オリンピックで開幕式の演出も担当したチャン・イーモウ監督の作品だったからです。 キャスト・スタッフ キャスト:マット・デイモン、ジン・ティエン、ウ

【無常な世界にも光は差す】映画『ビューティフル・デイ』感想

『ビューティフル・デイ』という映画が好きだ。劇場で観たのは数年前。その時も「これは好きだ!」と興奮したが、その後も何度か思い返すことがあり、気付いたら記憶に残る作品となっていた。「好きな映画」にも色々あるが、この作品は手元に置いておきたいと思いソフトも購入した。 内容を一言で説明すると、熊みたいな姿をしたホアキン・フェニックスが囚われた少女を助けるという話だ。万人受けするタイプの作品ではないし、どちらかというと癖の強い作品だが自分には見事にハマった。どんな所が好きなのかこれ

「欲望のあいまいな対象」-ブニュエル最後の作品

「欲望のあいまいな対象」-ブニュエル最後の作品CET OBSCUR OBJET DU DESIR(欲望のあいまいな対象)- ルイス・ブニュエル(Luis Buñue) それは、ルイス・ブニュエル(Luis Buñuel, 1900-1983/ 映画監督)の遺作でもある作品だ。 概略 - CET OBSCUR OBJET DU DESIR正体不明のテロ事件が頻発するセビリアの町から、パリ行きの列車に乗り込んだのは、初老のブルジョワ紳士マチュー。追いすがる女にバケツの水を掛け

【EUフィルムデーズ2022】『オーナーズ』感想【チェコ映画】

欧州連合(EU)加盟国の映画作品を一堂に集めて上映する映画祭「EUフィルムデーズ」。今年で20回の節目を迎えるユニークな映画祭で、東京はじめ京都や広島と全国各地で開催されている。8月7日までオンライン配信もされており、その中の1本『オーナーズ』を鑑賞した。 筆者がこうした映画祭の作品をチェックするのは、漫画や音楽でいうところの「ジャケ買い」と同じ感覚に近い。内容をよく知らない状態で観た映画が面白かったら喜びもひとしおだし、そういった作品は忘れられない作品となる。加えて映画祭

『WANDA ワンダ』を観て、その人生に思いを馳せる【映画感想】

7月9日から公開している映画『WANDA ワンダ』。女優として活躍していたバーバラ・ローデンによって1970年に撮られた作品で、家族も仕事も失った女性と強盗の男の逃避行が描かれる。 本作は今でこそ「フェミニズム映画」を代表する1本として評価されているが、当時は映画業界からその存在を黙殺されてきた映画だ。筆者が好きなケリー・ライカート監督の『リバー・オブ・グラス』が、この作品から多大な影響を受けているという事で観るのを楽しみにしていた。 鑑賞した感想としては、まさに「埋もれ

映画 『WANDA / ワンダ』 たったひとりありのまま生きた女性の悲しい逃避行

ある時代、ある場所にいた破滅的で孤独なたったひとりの女性の人生を覗き込む。 アメリカのざらついた風景の中を走るブルーの車。 剥げかけたピンク色のマニキュア。 田舎の廃れたソフトクリーム屋と、冷め切った3つのハンバーガー。 お腹を満たすだけのビールとチップス。 誰かにもらった一本の煙草。 50年前、ある1人の女性が撮ったこの美しくて儚いロードムービーに、私は観るなりなぜか動揺を覚え、次第に強烈に引き込まれていた。 主人公ワンダは、女性のヒーローでもないし、社会の代弁者

【ポップなのにシリアス】映画『なまず』感想【見えない部分にこそ闇が潜んでいる】

7月29日から公開されている映画『なまず』。看護師として働く女性とその恋人の男性の周囲で起こる不思議な出来事と、彼らの間に湧き上がるある疑念を描いた作品。 監督は今作が初長編作品となるイ・オクソプ。主演のユニョンを演じたのは『野球少女』(2021)、『ベイビー・ブローカー』(2022)のイ・ジュヨン。ユニョンの恋人、ソンウォンを演じたク・ギョファンは、本作の製作・脚本・編集もつとめている。 シュール・不条理系が好きな筆者としては、SNSで情報が流れてきた時から気になってい

映画「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」

また暑さが戻ってきました。昨日少し雨が降ったので、湿度も高くてとても不快です。本日はNetflixでの映画鑑賞備忘録です。 観た映画の紹介 制作:2020年 日本 上映時間:118分 配給:東宝 劇場公開日:2020年2月21日 この映画を選んだ理由 前作も強烈な印象を受けた作品でした。劇場で観たかったですが、時勢を考え、Netflix配信を待ちました。 キャスト・スタッフ キャスト:千葉雄大、白石麻衣、鈴木拡樹、田中哲司、井浦新、成田凌ほか 監督:中田秀夫 原作

【EUフィルムデーズ2022】『神に仕える者たち』感想【スロヴァキア映画】

欧州連合(EU)加盟国の映画作品を一堂に集めて上映する映画祭「EUフィルムデーズ」。今年で20回の節目を迎えるユニークな映画祭で、東京はじめ京都や広島と全国各地で開催されている。筆者も過去に何度か東京会場に足を運んでいたが、今年は現地での参加は難しいため、オンラインで配信されている作品を鑑賞することにした。 今回鑑賞したのは『神に仕える者たち(原題:SERVANTS)』という作品。スロヴァキア映画という、日本ではあまり目にする機会のない国の映画を目にする事ができるのもEU映