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映画

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#映画感想文

【悪夢の島で最悪なヴァカンスが始まる】映画『インフィニティ・プール』感想

これぞまさに『The 悪趣味映画』清々しいまでの悪趣味映画だった! 監督は本作が長編3作目となるブランドン・クローネンバーグ。 これまでもセレブの掛かったウィルスをマニアに売りつける『アンチヴァイラル』や、人の意識を乗っ取って暗殺をさせる『ポゼッサー』などアブノーマルなテクノロジーを題材にした映画を撮っている監督だ。 父親は『スキャナーズ』、『クラッシュ』など数々の傑作で知られるデヴィッド・クローネンバーグ。 父親は"鬼才"、"変態"という通り名で呼ばれているが息子のブラ

2024/03/30の日記:Remember Mr. Lawrence オッペンハイマーにおける役者トム・コンティの位置付け

オッペンハイマーを観てきた。映画全体の感想は多くの人が、より鋭敏な人が物語や演出の構造における気付き、感嘆を現してくれるだろうから、自分の視点で最も驚き印象に残った一点について書く。 スタッフロールでトム・コンティの名前を見つけたとき、声を上げてしまった。アルベルト・アインシュタイン役が彼であったのだ。 トム・コンティ。 大島渚監督「戦場のメリークリスマス/Merry Cristmas Mr. Lawrence」でジョン・ローレンスを演じた役者であるが、 その柔和で温か

『ゴジラ-1.0』

外から見たゴジラ 真っ暗な映画館内に重低音が響く。耳障りな、しかし聞き慣れたリズムだ。IMAXの巨大スクリーン内では、小洒落た街並みを覆い尽くすように、鋭利な岩を体中に生やした壁がまっすぐに立ち上がる。壁の片方にある長い尾は地面を裂くようにゆっくりと揺れ、もう片方にある二つの目はこの世の憎しみを閉じ込めたかのように燦々と光っている。街を破壊して歩くカイジュウの全貌をとらえたヒロインがその名前を呼ぶ。映画に詳しくない人も必ず知っている名前。「Godzilla」という一言に、場

【復讐の果てにある世界】映画『ペナルティーループ』感想

恋人を殺された青年は同じ時を繰り返しその度に犯人を殺す。 3月22日から公開されている映画『ペナルティループ』。 復讐とタイムリープを題材にしたSF映画だ。 監督は『人数の町』の荒木伸二。主演は『街の上』での若葉竜也、共演に伊勢谷友介、山下リオ、ジン・デヨン。 ここ最近「タイムループ」を題材にした映画を見かけることが多くなった。 2019年に公開された『ハッピー・デス・デイ』。2022年公開の『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』、去年公開

【圧巻!これぞ本当の異世界体験】映画『デューン 砂の惑星 PART2』感想

3月15日から公開予定の『デューン 砂の惑星 PART2』。 デューンと呼ばれる砂漠の惑星を舞台にしたSFアドベンチャーで、2021年に公開された『DUNE デューン 砂の惑星』の続編にあたる作品だ。 3月8日から3日間、全国のIMAX、Dolby Cinemaの劇場で先行上映をしていたので自分も観に行ってきました。鑑賞したのはミッドランドスクエアシネマの3月8日の19時30分からの回。客入りは7割ほど、性別、年齢はさまざまという印象。 前作の『DUNE デューン 砂の惑

【観たらあなたも虜になる!】映画『赤い糸 輪廻のひみつ』感想

昨年の12月22日から公開されている『赤い糸 輪廻のひみつ』。 現代の台湾を舞台に、死んでしまった主人公が再び人間に転生するために、縁結びの神様「月老(ユエラオ)」になって奮闘するファンタジーだ。 この作品、観た人の感想が熱い。 年末くらいからSNSで本作の感想が流れてきたのだが、「多くの人に観て欲しい」、「本当に面白い!」などみんなのハマり具合がとにかく熱い。 経験上こういう感想が熱い作品は面白いことが多い。そしてその予感は間違ってなかった。 ちなみに鑑賞したのは愛知

【徹底解説】 映画『PERFECT DAYS』

いよいよもうすぐ米国アカデミー賞。 日本勢からも3作品がノミネートされています。 長編アニメーション賞の「君たちはどう生きるか」、視覚効果賞の「ゴジラ -1.0」、そして国際長編映画賞の『PERFECT DAYS』。 個人的にも昨年のベスト映画だったので、とても期待したいところです。 とはいえ他2作品が有力候補なのに比べて激戦区なのでどうなるか。 そんな期待も込めてより本作を楽しめるように色々調べたことをnoteにまとめておきたいと思います。 『PERFECT DAYS

【あなたは何を信じるか?】映画『落下の解剖学』感想

人里離れた雪山の山荘で起きた事件 不自然な男性の落下死。疑われる妻、盲目の息子。果たして男性は事故死か、殺人か、自殺か? 2月23日から公開されている『落下の解剖学』。 フランスの山荘で起きた事件を巡るヒューマンサスペンスだ。 監督は『ソルフェリーノの戦い』、『愛欲のセラピー』のジュスティーヌ・トリエ。主演は『さようなら、トニー・エルドマン』のサンドラ・ヒュラー。 第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でパルムドールを受賞をはじめ多数の映画賞受賞ということで公開前

『Disappearance at Clifton Hill』

謎を解く映画 地下鉄を待つ間に、頭上のモニターを確認する。時刻、天気予報、コマーシャル、地方ニュース。まばたきする間に内容は変わっていくものだが、その日はずっと同じ映像ばかりが繰り返されていた。ナイアガラの滝周辺の国境で起こった爆発。自動車事故という話らしいがテロという言葉も見かけた。あの日、私が目にした情報のなかで、どれだけの表現が的確なものだっただろう。 「真実と嘘。どっちがどっちかは自分で考えなさい。まだまだ、お勉強が必要ね」 ナイアガラの滝で有名な観光地を舞台に

【この世は不安と怖いモノだらけ】映画『ボーはおそれている』感想

まさに3時間の悪夢。『ボーはおそれている』は2月16日から公開されている映画だ。 監督は日本でも話題となった『ミッドサマー』、『ヘレディタリー 継承』のアリ・アスター監督。主演『ジョーカー』などで知られる名優ホアキン・フェニックス。 アクの強い両者がタッグを組んだということで公開前から話題になっていた作品だ。自分が鑑賞したのは公開初日のレイトショー。116席に対し客入りは7割程度、男女比は6:4くらい。 大学生くらいのグループがきていて「いや~来たくなかったのに来ちゃった

【この神秘性は色褪せない】映画『ミツバチのささやき』感想

土曜日に映画館で『ミツバチのささやき』を観た。 『ミツバチのささやき』は今から50年も前に公開されたスペインの映画だ。映画好きの間では「生涯の1本」として選んでる人もいるほど名作として名高い作品でもある。 監督はスペイン出身のビクトル・エリセ。 この監督、とても寡作な方で1969年の長編デビュー作から2023年までに長編は3本しか撮っていない。 その監督の31年ぶりの新作『瞳をとじて』が2月9日に公開された。その公開に合わせて『ミツバチのささやき』もリバイバル公開されてい

【これぞフランス産エンターテイメント】映画『ジェヴォーダンの獣』感想

18世紀のフランスを震撼させた謎の生物「ジェヴォーダンの獣」にまつわる伝説をもとに描かれたアクションミステリー映画『ジェヴォーダンの獣』。 日本では2002年に公開されたが22年経った今年4Kレストアされた映像のディレクターズ・カット版が公開されたので観に行ってきた。 「ジェヴォーダンの獣」とはフランスで実際に起きた怪事件。 18世紀のジェヴォーダン地方で女性や子供ばかりが謎の生き物に襲撃される事件が起きた。被害者数は3余年あまりで100人以上。だがその正体は謎に包まれ

【ネタバレ有】映画鑑賞記『ファイアバード』

2/9劇場上映開始されました。 あらすじ 舞台は旧ソ連のエストニア軍。 同性愛は、5年以上の強制労働収容所送り(環境や気候が劣悪であり、「労働」とは名ばかりで事実上の「死刑」)という、ゲイには過酷で、規律も厳しい縦社会の中。 パイロットで将校のロマンと、二年間の義務兵役を間もなく終え故郷に帰る日を待ち望んでいる二等兵のセルゲイは、密やかに愛を育むが、時代・社会ゆえにカップルとして一緒に暮らしたり、公の場に姿を現すことは許されない。互いに「何もなかったことにしよう」「

【まるで実写版ナウシカ!!】映画『VESPER ヴェスパー』感想

生態系が破壊された地球を舞台に絶望的な世界から抜け出そうとする少女たちの生き様を描いたSFファンタジー映画『VESPER ヴェスパー』。 この映画、観たいと思っていたものの2回ほど観る機会を逃していて(1回はチケットを購入した後だったので悔しかった)。 だから上映最終日ギリギリに観に行くことができて良かった。 そこまでして観に行きたかった理由、それは本作を実写版『風の谷のナウシカ』と評する感想をいくつも見かけていたから。 『風の谷のナウシカ』は日本を代表するアニメーシ