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私は日本人らしい。

フランスのリヨンという都市は美食の街として有名ですが、あの『星の王子様』を書いたサン=テグジュペリの生家があることでも知られています。ベルクール広場で撮った一枚。

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またガリア時代の名残りが色濃く、円形闘技場なども見られます。

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上の写真はJacquard氏。織物機の開発者として京都でも有名なのだとか。この時期(12月)だけ赤い外套を羽織っています。

私にはリヨンに二人の友人がいて、彼らは夫婦なのですが、二人ともプレパと呼ばれる予備校の講師であり、奥さんは数学、夫は生物を教えています。夫妻はリヨンに住んで長い、生粋のlyonnais(リヨン人)。この街の様々な文化を教えていただいたのです。

これから少しだけリヨンの文化を紹介するのですが(写真が多めになります)、そのあとに私自身の文化、つまり日本文化が三人の話題にのぼったときの体験談をさせてください。話題は算額についてでした。この経験はそのあと一時も忘れたことのない強烈なものでした。

光の街リヨン

この街では毎年12月になると、Fête des Lumièresと呼ばれる光の祭典が催されます。子連れの親や旅行客で賑わうこの時期は、街のいたるところで様々なイベントや遊技場が設置されます。

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真ん中にあるボタンを押して光を明滅させて遊ぶ子供たち。

ペストが蔓延していた時代、この街だけその災禍から逃れることができました。聖母に守護されたお陰と、それを感謝するためにこの街は毎年この祭典を催すのだとか。

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「マリア様感謝します」という意味の巨大なイルミネーションが、街の丘の上、フルヴィエール教会の隣にありました。

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Lumignonと呼ばれる小さな蝋燭を窓際に飾る風習は、もう160年以上続いているそうです。

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観光客を導く赤い街灯。地元の人はこの光を避けて歩くのだそう。

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こちらはリヨン特有の外に飛び出した階段。この他にも入り組んだ通路が数多く、戦時中の隠し通路として機能していたようです。

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Yann Arthus-Bernardによる航空写真を絵画にしたもの。リヨンでは壁にアートがよく見られます。

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サン・ジャン聖堂。ファサッドに映像が投影される光のパフォーマンス。多くの観客で賑わっていました。

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リヨンの街並み。赤い塔は地元の人にクレヨンと愛着をこめて呼ばれています。真下にはリヨンの主要駅Lyon part dieuがあります。

街を一緒に歩きながら、いろいろなリヨンの文化を紹介していただき、そのままここで年を越すことになりました。

日本人として海外にいること

夫妻の自宅でのんびりとした時間を過ごしていたある日。奥さんに呼ばれたのでリビングに行くと、なにやらコピー用紙とにらめっこしている。回り込んで覗いてみると、そこには絵馬。しかもその上に幾何学的図形が描かれています。

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(和算の館より:http://www.wasan.jp/)

一見して数学の問題だとわかりました。直方体の中に円がいくつか接していて、その内のひとつの半径を求める問題です。(もう大分前ですがはっきり憶えています。)あとでこれが算額と呼ばれる江戸時代の文化だということを知るわけですが、このときはそれさえも知らなかった。

奥さんにこれが読める?と聞かれて文章に目を通すもまったく読めず。数学の問題でなになにを求めている…と説明したのですが、いま思えば奥さんも当然そのことは分かっていたはず。彼女の真意は、その裏にある文化を日本人である私の口から語ってほしかったのでしょう。

なぜこのような風習が全国で見られ、しかも寺社に奉じているのか。日本人のあなたはこの慣習をどう思うか。この時代の精神性はなんなのか。

今の私だったら少しだけ自分の意見を述べることができていたかも知れません。それが日本人の自然観に関わっていること。自然の姿を法則として再現性のあるもの(大人しい)と捉えるのではなく、千変万化の流転から、が良ければ、一瞬顔を拝ませてもらえるもの(凶暴だが時に仏)、そういうものとして観ている。数学においてもそうだったのではないか。だから寺社に奉じていたのではないかと。

この10分に満たない出来事で、その後の私の日本文化に対する構えが変わりました。自分が日本人であること、より正確には、日本という国のある特定の地域で、ある特殊な環境に埋め込まれて生きてきた人間だということを自覚し、自分の体内に根付く、悠然たる歴史の流れを発見していくこと。これが出来なければ、海外の方々にその地の文化を教わることは到底できない、そう思うようになったのです。

人生これからあと何年続くかわかりませんが、歴史に対する視線を常に持ち、それを自分の中のミクロコスモスへと還元する、これを実践し続けていきたい。


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