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『三日坊主のさとり』~1話~

昔々、とある山奥に大きな寺があったそうな。

その寺には『悟り』の境地を目指し。国中から多くの僧侶が集まり、日夜修行に明け暮れていた。

そこにひとりの小僧がおったそうな。彼には、まだ名が与えられていなかった。しかし、皆からはこう呼ばれていた。

『三日坊主』と――。

「やーい、三日坊主! 今回も三日目で修業は終わりか?」

体格のよい小坊主を中心に、三人の小坊主が三日坊主を指さして笑っていた。

「うるさい! 今回こそ『掃除』を極めて悟りの境地にいたるんだ!」

三日坊主が吠えるように言い放つ。自分に向けられた指に嚙みつくような勢いであった。

慌てて指を引っ込めながら、体格のよい小坊主が言い返す。

「その割には、掃除の手が止まってるじゃないかよ! 昨日まではあんなに必死で掃除してたのに。どうせ今回も、オマエは『三日坊主』さ!」

三日坊主を囲んでいる、小坊主たちがいっせいに笑う。

「コラ! 何をしておる‼」

小坊主たちの後ろから、先輩僧侶の喝が飛ぶ!

「今は寺の掃除の時間であろう!」

一瞬にして小坊主たちは、自分の持ち場に駆けていった。

三日坊主は箒を強く握り締めて。乱暴に箒を振り回し、掃除にもどった。

「はぁ~~」

三日坊主の様子をみて、先輩僧侶は深くため息をついた。

そんな事はつゆ知らず。三日坊主はぶつぶつと同じ言葉を繰り返しながら掃除をする。

「次こそは、次こそは……」

心ここにあらず、悟りの境地はまだまだ遠いーー。

【つづく】

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。