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ご冥福をお祈り申し上げます。

Youtubeがお勧めしてきた動画に振武館の黒田鉄山先生のものがあった。

1分ちょっとの短い動画だったので視聴してみたら

先生の紹介で1950~2024と出ていた。

どうして?そう思ったら

3月3日に黒田先生が亡くなられたと記されていた。


20代後半から8年ほど先生の下に通って稽古させていただいた。

野口整体の修業の道に入るときにピリオドを打った振武館の古武術の稽古。

武士という種族の時代に生まれた身体技術。

辛うじて黒田先生を通じて現代に1人だけが残っていた。


絶対に力を入れてはいけない。

という身体稽古。


人を投げるのは羽織を投げるのと同じ。

今でならコートを天井に放り投げるのと同じ感覚で

人間を天井に放り投げることが江戸時代の頂点の武士には出来た。


実際に黒田先生に投げられると

ふつうに立っていたのに

一瞬で頭が床にあって足が天井を向いてしまう。

しかも受けていて力を感じない。


その軽さ、力を絶対に入れてはいけないという身体操作。

合気道にも受け継がれていない。

もちろん現代の剣道や居合道には微塵も残っていない。


負けは死を意味していた時代。

相手は必ず日本刀を持っていることが前提。

どんなにパワーがあっても

どんなに格闘技のチャンピオンであっても

日本刀の前では平等に切ることが出来る。


従って、力を増強することは必然的に無意味になる。

日本刀の存在が力を絶対に入れてはいけないという身体技術を生み出した。

もともとは上泉伊勢守が到達した身体技術。

戦乱時代の中で積み重ねられた身体技術が上泉伊勢守という天才を通じて

別次元の身体技術に昇華された。

そして新陰流が生まれた。

上泉伊勢守の弟子が残した流派が振武館の駒川改心流剣術になる。


近畿一の剣士だった柳生石舟斎は

上泉伊勢守に破れて、その場で弟子入りをした。

その逸話が教えてくれるのは

ただ負けたのではなく、まったく手も足も出ない負け方だったということ。

自分が努力して越えられるレベルの相手じゃない

別次元の相手だと、その場で痛感したからに他ならない。

ワンピースで、ゾロがミホークに負けたようにね。


黒田先生と相撲のように組むと

力を感じないのに自分の腰が崩れていく。

先生の刀を押さえつけても

力がぶつかることなく剣が鞘から抜けてくる。

当然、実戦であればぼくは死んでいる。


ふつうは、そんなことはあり得ない。

刀が抜けないように押さえたら

100人いたら、100人ともが刀を抜こうとすると

押さえているこちらの力とぶつかって

そして刀は抜けない。


先生の額に指を当てて

先生が動き出したら、先生の額を押すという遊び。

先生の右手が左の剣にかかって、剣が抜けて

逆袈裟切りにぼくのカラダが一刀両断されてからしか

どうしても先生の額を押せない。

反応できないの。


通常であれば右手を左腰の剣へ持ってくる。

剣を握る。

そこから剣を抜く。

3動作もあるのに、そのあいだに先生の額が押せない。

それって、ぼくは既に死んでいる。


ぼくが遅いんじゃなくて

空手家の先輩がやっても

キックボクサーの先輩がやっても

誰がやっても先生の額を押せない。

押したときは既に自分のカラダを剣が通過したあと。

みんな死んでいた。


短い動画で

侍の到達した武術には力、筋力は一切不要とおっしゃっていた。

居合というのは剣術中の精髄である。

誰もがその精髄にたどりつけるわけはないんです。

だから難しい。難しいから楽しい。


一握りの人しか到達できない技術

だからこそ消えつつある。

人類が到達した究極の武術的身体技術の頂。


ぼくは先生の下で稽古させていただいたからこそ

見えないものを扱う身体技術は直伝が必須だと痛感できた。

だからこそ野口晴哉のまともな直弟子を求めた。

そして後継指名された田総先生を見つけることが出来た。


人にふれて、他人のカラダの中を感じるという体験は

振武館の稽古によって初めてぼくの人生に現れた。

それまでに体験していた気功などは全部自分のカラダの中を感じるものだった。

遺された型稽古を通して、相手が力でぶつかってきたら止める。

その時に、相手のカラダのどこが力んでいるのかを感じとる。

どうやったら力まずに動けるのかを稽古していく。


振武館の稽古で培われた身体感覚が

愉気でふれた目の前の人のカラダの中を感じていく感覚と同じだった。

整体指導者としての大切な身体感覚の種を

奇しくも振武館の稽古を通じて授かっていた。


黒田鉄山先生、ありがとうございました。

ご冥福をお祈り申し上げます。














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