主体病、すなわち自己を認識することで生じる認知的錯誤が及ぼす現実乖離の実態

日本人の罹患率99.9%(推定、私見)
症状:精神、思考、自我、主張の押し付け等
病原体:大脳の発達と誤作動
発症条件:言語の不適確使用を強要されることによる、現実と認知の錯誤の習慣化とその伝播。
治療法:深い孤独の継続的投与により治癒が可能。

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匿名性、読人知らず、編集者不明な情報体の繁盛と、存在の多様化による人格の多重化、流動化が進む時代において。

「流れる時間」という観念(言い回し)が、本来不定形かつ重層的かつ霊的な「自己意識」を時間軸上に固定し、まるで意識が意識によって観測可能なものであるという認識に陥落させてしまった。
日常会話に潜むこのような不自然な言い回しや言葉遣いから思考回路はいかれていくのだ。

          ※※

世俗性を含んだ生活感のある文章(表現)と
概念や観念や言葉自体に関する文章(表明)、

これら間の大きな違いは主体を客体化できているか否かであろう。

ある行為者としての私と、
ある生活者としての私と、
ある表現者としての私と、
ある表明者としての私と、
その他諸々の私。

認識、あるいは場面という、他己の関係性を限定する言葉がある以上、私はこれら幾重にも重なる私——その中にはほぼ見ず知らずの私も含む――をそれぞれ正しく区別されなければならなくなった。そうしなければまるで心が分裂したような「錯覚」が生じてしまうからだ。換言するなら、

隠し事の数、場合の数だけ人格は増える。

このことをゆめゆめ忘れてはならない。

他己に対し全く隠し事ができない、もしくはする必要がない状態においてのみ、知性はその場のあらゆる対象(自己を含む)に対して、終始一貫した人格を呈することができる。

これはつまり恵まれたものだけが恵まれているというのに等しく、トートロジックではあるが、自己認知の恣意性を考慮すれば、悲劇的要素は一切感じられない。

主体性も分裂症も精神障害も言ってしまえば”気分”だ。

われわれ意識は知覚が思うように図ったことを思うことができるだけであり、裏を返せば、思える範囲では何でも思うように思うことができる。
しかし、内的に思うことというのは外部に思うようにしむかれたことに等しく、外部を内部と認めない限り、その知能は何の自由も有しないことになる。愛を施し、外部を許した分だけその意識は自由かつ明瞭になる。自由は愛の知的性質なのだ。

場面に応じた行動、対象に合わせた態度というのは、外部を限定してしまっている。その時、その意識はユニバーサルでなければグローバルでもなくローカルでさえない。偶有性、偶然性、恣意性を持った不完全で不安定で弱い精神がそこに生まれてしまうのである。人はこのような意識様式を「社会性」と呼ぶ。

精神の安定のためには――真に目指すべきは精神の霧散ではあるが——せめて外部は常に、内部以外の想定できる”すべて”でなければならない
梵、神々、神話と呼ばれるもの、絶対孤独、常在戦場の精神がこれである。 
侍や公務員はこれではない。かれらは限定的な何かに属してしまっている。故人の言う、「正義の遂行のためには公人ではなく私人であれ」とはこのことだ。正義は動ぜず屈しないがゆえに正義たりえるのだ。

         ※


さて、この記事を読まれたあなたは、主体性、自由意志、主観、個体意識を危険なもの、治療すべきもの、取り除くべきものと思われたであろうか。

強く思ったならば、あなたはおそらく「病」という言葉の意味を改めて考えてみる必要がある。強く自由な精神は言葉そのものの意味に囚われることはない。

全く思わなかったならば、他己の意思の多重性を理解しておられるか、あるいは社会性の高い状態であられる可能性が高い。主体病とうまく付き合うことができているよい証拠である。


正直これまでの内容がよくわからなかったとしても、あなたが不安になる必要はほとんどない。

今のところ、この病による人間の死亡率への影響は確認されていない。

というのも、影響を比較できるものが一切ないためでもある。

しかし、この病が人間に、人間が人間だと思う生物以外への配慮や関心を低減させていることは明らかである。

いわば、人間が人間のためを思い、育て上げてきた機構こそがこの病なのだ。

ゆえに人間がこの病に反抗する道理や理由は無に等しい。
おそらく症状を自覚し、付き合い方を少々改めるだけで十分と言えよう。



さあ人間よ、あなた方はいつまで人間のつもりでいるつもりか。


どうか、ルサンチマンや世人と呼ばれてしまう前に、自らのその手で。




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