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俺の行き付け 1軒目「浮間舟渡 松月」

俺が好きな居酒屋を紹介してみたい。

お店には全く許可を取っていないので、出来るだけ褒めちぎろうと思っているが、残念なところもしっかり書くのが「愛」とも思う。

それでは行きまっせ。


まずは1軒目。

俺がまともに1人で居酒屋に通うきっかけになったお店だ。

何しろ実家からほど近くで、通いやすい距離感なのも大きかった。

しかしながら、生来のビビり症なので、あまり1人で居酒屋へ行ったことのなかった俺は、なかなか一人で入ろうとは思えなかったのだ。

何しろ外観が古い。店の外に書かれた「やきとん」の文字しか情報がない。

そして、その店の奥には歴戦の兵(つわもの)が巣食っている、そんな感じが外観から見て取れた。

店の入口のガラスが、長年の焼き物作りから出たであろう煤(すす)のおかげで”すりガラス”のようになってて、店内はうっすらとしか見えないのも理由であった。

初来店の前までは、店の前を通っても、ベテランの酒飲みが跋扈する魔窟のように感じられた。


今では、実家へ帰る度に寄っていくんですけどね。


では、お店をご紹介。

そんな店の戸をくぐると、迎えてくれるのは、焼き台と板場を挟むように奥へ伸びる2本の木作りカウンターだ。ずらっと赤い丸椅子が奥へと、スポットライトのように続いている。

入口から見て、右側が小上がりで3テーブル。

焼き台に立つ店主は物静かだけれど、地元の吞兵衛たちの注文をサクサクと捌いている。板場に立って、酒作りや一品ものを受け持っているのは女将の「かおる」さんだ。

この店ではまず生ビールをいただきたい。
ほぼ大ジョッキと言って差し支えない「中生」

グラスはキンキンに冷えているが、安いチェーン店の凍っているグラスのような過度な冷やし方ではない。適度なキンキン具合。

まずはコイツをグーッとやろう。

落ち着いたところで、焼き物。
ここは7種ほどの焼きトンが定番メニューで、野菜や変わり種は最低限。

俺の定番は「タン、ハツを塩。レバーをタレ、それとネギ串」

これである。

ビールを呷っていると、サッと焼かれた焼き物がやってくる。

焼きトンは歯応えだ。じっくり噛みしめながら、思い思いの酒を流し込む、その塩梅が楽しい。

タン、ハツのしっかりとした噛み応えと、対照的にトロリとしたレバー。
しゃっきりとしたネギで口をリセットすると、またもう一本、と焼いてほしくなる。


さて、酒をホッピーセットに切り替えて、ここのメインをいただこう。

俺がここに通うようになって、初めて出来た「店友達」の方が言っていた。

「この店はチャーハンとニラ玉を食うための店だよ」

そう、意外にもこの店で常連がよく頼むのが、上記の2品だ。

まずはニラ玉から行こう。

注文すると、店主が中華鍋に火を入れる。

そして、香ばしいごま油の香りが店内に漂い始める。

「誰かがニラ玉を頼んだな」。常連が気付き始める頃合いだ。

シャシャッと炒めたニラ、それを包む卵。具はそれだけ。

たったそれだけなのに、延々と酒が飲めてしまう独特な味付けがされていて、吞兵衛にとって「酒泥棒」とも言える一品に仕上がる。

ハフッと口に放り込めば、卵とニラが濃い目の中華味で相まって、どうにも口が酒を欲する。そこへ、さっぱりとしたホッピー割を流し込む。


幸せというのは、こんな東京の片隅にもあったりするんだな
、としみじみしてしまう組み合わせだ。


そして、〆にはもう一つの名物、チャーハンを食おう。

これも店主が注文を受けると、中華鍋でザザッと仕上げてくれる。

およそ通常のチャーハンとは違う、黒っぽい色合いのチャーハン。

俺も当初は見た目に面食らったが、これが実に美味い。

今だにどういった調味料の組み合わせなのか判明しないのだが、そんな些細なことがどうでもよくなるほどに、このチャーハンは美味い。

以前、友人を連れて店を訪れた時、あまりの美味さに友人はチャーハンを「おかわり」していたほどだ。

改めて店内を眺めやると、吞兵衛の親父も居れば、若い兄ちゃんが一人で来ていたりする。皆、各々のペースで酒肴に向き合っている。

2本の川のように並んだカウンターから向こう岸を眺めれば、常連らしい親父が隣の客に管を巻いている。その隣には、皿一杯の焼きトンを前にして酒を飲む、物静かなおっさんも居る。


そうして、色んなおっさん達の姿を眺めていると思うのは、この店が、それほど飲み屋も多くないこの地域におけるおっさん達の最後の止まり木なのかもしれない、ということだ。

仮に、この店が無くなってしまった場合、それによる損失は、たかが飲み屋1軒が潰れた、という次元を超えたものになるだろう。

それくらい、ここは地域に根付いた店と言えるかもしれない。


渋い外観、ここにしかない肴、そして色々な生態のおっさん達の姿。
あと、忙しい注文の合間を縫って構ってくれる女将さん。

そうした魅力を味わいながら、いつまでもこの空間で酔っていたい、と思わされるお店、それが「松月」だ。


近いうちに2軒目もご紹介します。


それでは。

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