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Netflixのリサ・ニシムラ、世界のドキュメンタリー映画市場で最も影響力を持つ人の話

ハリウッド業界におけるセクハラやジェンダーの違いによる給与格差(gender pay gap)、白人偏重(Whitewashing)の問題がある中で、女性、しかもアジア系が業界内で活躍しているのはなかなかレアなケース。でも、そんな状況下でも実際に活躍している人はいて、その筆頭株にLisa Nishimuraがいるんじゃないかなと思います。Lisa Nishimuraは、その名前から分かる通り日系人の女性、現在はNetflixのVP Original Documentary and Comedy Programmingとして、業界内で最も影響力を持っている人物のひとりです。

Netflixと言うと、何かとCEOのReed HastingsやChief Content OfficerのTed Sarandosの名前が出てくるけど、コンテンツ周りではVP Content AcquisitionのBela Bajaria、VP Original FilmのScott Stuber、VP Local OriginalsのErik Barmack、VP Original ContentのCindy Holland、そしてVP Original Documentary and Comedy ProgrammingのLisa Nishimuraの名前も外せません。

Lisa Nishimuraのインタビューはそもそも珍しいわけですが、The Hollywood Reporterのポッドキャストシリーズ「Awards Chatter」に、彼女のインタビューが掲載されていたので、関連記事も含めてちょっとだけまとめてみます。こんなことをまとめても、全く誰の得にもならないでしょうけれど。本当はこのポッドキャストが配信開始された1月のタイミングで書こうと思っていたんだけれど、あれから数ヵ月経ってしまいましたが…

さて、繰り返しですが、名前からも分かるようにLisa Nishimuraは日系人、シリコンバレーで生まれ、ベイエリアで育った二世。両親は日本人。父は科学者、母はバイオリニスト。父親がフルブライトの奨学金でカリフォルニア州のバークレーに来たのをきっかけに、以後移民として米国に住むことになり、その後彼女が生まれます。ちなみに兄弟の中で米国生まれは彼女だけで、家の中では日本語で話をしていたそうです。

大学卒業後はメディカルスクールへの進学を考えていた彼女は、学部卒業後の空いた時間は将来に直接結びつかないような仕事をあえてやりたいと考え、Palo AltoにあったWindham Hill Recordsでインターンシップをする道を選びます。まずは90日のインターンとして。これがエンターテイメント業界に入ったきっかけになります。彼女は音楽業界からキャリアをスタートさせたんですね。

その後Valley Mediaで海外向けのディストリビューションビジネスに携わった後、サンフランシスコにあるSix Degrees Recordsに移ります。そしてBob MarleyやU2など超大物アーティストを見出したIsland RecordsのChris Blackwellと契約を締結。Island Records内にあった映画部門のIsland FilmsでChris Blackwellと一緒に多くのプロジェクトに携わり、その後Island RecordsをPolygramに売却、Chris Blackwellが新しく立ち上げたPalm Picturesに2002年に移籍して、映画(映像)製作に本格的に関わることになります。

Palm Picturesは音楽ドキュメンタリーやアートハウス系など、知る人ぞ知るニッチなインディペンデント映画・海外映画の企画・買付・配給などを行なっているところで、彼女はジェネラルマネージャーとして75作品以上の製作に関わってきたみたいですが、中でもSpike JonzeやChris CunninghamやMichel Gondryなどミュージックビデオ監督を取り上げた「Directors Label」は日本でもヒット、実は私も持ってました。

そして2007年、もともとNetflixがPalm Picturesから作品を買っていたという繋がりもあり、既知の仲だったTed SarandosやCindy Hollandからオファーをもらって、単なるDVDレンタルサービス屋からストリーミング配信サービスに移行するタイミングだったNetflixに、VP Independent Content Acquisitionとして移籍することに。国内外400以上のインディペンデントスタジオやプロデューサーの窓口となって、日本のアニメから北欧のホラー、ドキュメンタリーからスタンドアップコメディまで、ありとあらゆるインディペンデント作品の買付を担当し、米国のユーザーにDVDとして作品を提供してきたそうです。

その後2013年、Lisa NishimuraはVP Original Documentary and Comedy Programmingに就任、その後多くのオリジナルドキュメンタリー作品の製作をリードします。そして「White Helmets | ホワイト・ヘルメット −シリアの民間防衛隊−」は2017年のアカデミー賞短編ドキュメンタリー部門を受賞、「Icarus | イカロス」は2018年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞するまでに。尚、ノミネート作品も含めると下記の通り。


▼長編ドキュメンタリー部門
•2014: The Square|ザ・スクエア 思いやりの聖域
•2015: Virunga | ヴィルンガ 
•2016: What Happened, Miss Simone? | ニーナ・シモン〜魂の歌
•2016: Winter on Fire: Ukraine's Fight for Freedom | 
    ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い
•2017: 13th | 13th −憲法修正第13条−
•2018: Icarus | イカロス
•2018: Strong Island | ストロング・アイランド

▼短編ドキュメンタリー部門
•2017: Extremis | 最期の祈り
•2017: The White Helmets | ホワイト・ヘルメット −シリアの民間防衛隊−
•2018: Heroin(e) | ヘロイン×ヒロイン


Lisa Nishimuraがドキュメンタリーとコメディーの2つの全く異なるジャンルの作品の製作を担うことに対して私も色々と疑問に思うことはありましたが、彼女はこの疑問に対してインタビューでこんなことを言っていました。確かにコメディーは社会を皮肉ったり笑いに変えて評論する表現なので、ドキュメンタリーに通ずるものはあるかもしれないですね。

"my answer to this is that, if you think about it, the best standup comedians and the best documentarians are truly social commentators of the day. What they do, I think better than almost anybody, is to take everything that's swirling in the world, and they synthesize it and present it in a way that we can actually engage."


Lisa Nishimuraは今でも50-75本の企画ピッチを毎週受けており、またドキュメンタリー作品のエンゲージメントの高さはNetflixも認めているところ。リサーチや取材に時間がかかり(そしてその時間が無駄になることも)、見るに値する素晴らしいストーリーでありながら上映スクリーン数が少なく、故に商業的なリターンも少ないドキュメンタリー映画にとって、資金も時間もフィルムメーカーに与えるNetflixは貴重な存在です。そしてオーディエンスにとっても、家のそばにユーロスペースでもない限り、Netflixは素晴らしいドキュメンタリー作品に触れることができる殆ど唯一の機会。ドキュメンタリー番組シリーズ(docu-series)となると尚更見る機会が限られてしまいます。話題になった「Making A Murderer | 殺人者への道」や最近公開された「Wild Wild Country | ワイルド・ワイルド・カントリー」などは、Netflixが無ければ日本人の殆どは見ることがなかったと。

ということで長くなって飽きてきたので、この辺で。素晴らしいドキュメンタリー作品を世界に届けるというNetflixのサービスの裏に、Lisa Nishimuraという人物がいたことに注目しながら。


Top Netflix Exec on 'Making a Murderer' Season 2 and Chris Rock's $40M Payday
Our Diverse 100: Meet Lisa Nishimura, the executive finding audiences (and Oscars) for Netflix comedies and documentaries
Meet the woman behind Netflix's growing influence in documentaries and comedies







140文字の文章ばかり書いていると長い文章を書くのが実に億劫で、どうもまとめる力が衰えてきた気がしてなりません。日々のことはTwitterの方に書いてますので、よろしければ→@hideaki