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「自由にやってみろ!」が自由でない理由

はじめに

このnoteでは、以前から日本の研究開発者を取り巻く「なんとなくのやりにくさ」について記述をしてきました。

今回もその辺について考察していきます。

幹部は本気で「自由にやらせよう」と思っているのか?

以前の記事で

'70-80年代より昔に用いられていた新規テーマ創出の方法論は全く使えない

日本の「企業内研究開発部隊」の変遷:「今」の研究開発部隊が最初に心に刻むべきこと
https://note.com/hideh_hash_845/n/nb103ed1634a6

と書きましたが、このような考え方に至るのは何故か?について引き続き考えました。

今回のTOP絵は4階層ある企業内のピラミッドを表しています。その最上位にいる幹部層は、先述の記事に示した年代で言えば、まさに「'80年代に入社した人材」になります。

これまで私は社内で、研究本部長直轄PJをいくつも実施してきました。その経験から言うと、どの幹部にインタビューしても、

実は幹部ほど本当に若手にはどんどん外に出てほしいと思っている

ようです。展示会や勉強会も自由に行けばよいし、アイデアソンのような外部交流も大いに結構。お金の問題や主業務に影響がないかなど、いろいろあるので、事前に言ってきてほしいけど、結構相談に乗れることはあると思っているという旨を皆さんが言います。これは、建前で言っているのではなく、本気で皆さんそうお考えだと思います。

幹部が気にしているのは「いろいろあるから」のところです。新しいことをやってほしいけど、新しいことをやったら何が起こるかわからないので、まず方法論を含め、いろいろ言ってきてほしいと思っているのです。

この時、そういうことがわかるとされる第2層がいるものですが、その下に第3層がいて、

実担当までに来るまでに、いつの間にか「やるな」にしかならない

となるのです。何故、研究者は自由に取り組みができないのでしょうか?

あなたにとっては初めてでも、組織にとっては初めてではない

結論から言うと、この第2層と第3層のいずれか、あるいは両方がこの活動について「圧力」側に立つことで、活動は99.7%は潰されることになります。また、この経験により、活動の主体者は「やらない方がマシ」という経験を得て、10年後に「新たな活動」が起こっても「圧力」側に立ってしまうという悪循環が10年単位で引き起こされることとなります。

第2層と第3層が何を考えているのかについて、それぞれ考えていきましょう。

第3層はコスパを気にしている

第3層は、入社10年~15年の社員です。2000年以降入社で、就職氷河期を潜り抜け、「失われたXX年」の中でより短期で、より即効性のある成果を出すことを叩き込まれた世代です。

そんなキャリアを過ごした世代としては、新しい試みで成果が出るかどうかわからない。それよりも、成果が出る確率の高い開発に取組んだ方が「コスパが良い=上長/外部から評価される」と考えがちです。これは彼らが悪いというよりも、第3層の上長筋にあたる人たちに「新しいこと」の取り組みに関するロールモデルがいないことが原因です。

そんな中でも、まれに社内での新しい取り組みを体験したことがある人もいます。その結果、どうなったでしょうか?

ハッキリ言って、何の見返りもないよ
以前、上を信じてエラい目に遭ったし
やめておいた方が身のためだと思うよ

彼らの言い分はこうです。上の世代に直接モノ申すチャンスがあるという新しい取組みに手をあげて参加して、土日も割いて、幹部向けの提言書を作成してみました。その結果どうなったか? 提言書を作ったということ自体でそのプロジェクトは終わり。まるで組織のガス抜きイベントとして使われただけで、二度とその提言書が顧みられることもなく、いつの間にかいつもと同じ日常に戻ってしまった。彼らはすでにそんな経験をしているので、

同じ目に遭わせたくないという親切心

で彼らは、そこに参加することに否定的になるのです。悪気がない分、性質が悪いのです。

第2層は「組織が壊れないような自由」を目指している

第2層は、だいたい'90年代入社で、会社人生も定年が見えてきている状態になっています。そんな彼らは、TOPが「自由にやってみろ!」と宣言した後、それを本気にしたメンバーのところにそっとやってきて、こう言います。

幹部はああ言ってはいるが、皆様にご迷惑が掛からぬように。
前もって皆に相談と承認を得て、ルールを守って行うように!

これは幹部と逆のことを言っているように感じますが、実はこれも幹部が考えていることの一部であったりします。皆が皆、勝手に行動し、統制が効かない状態になることを幹部は恐れています。幹部は細かいことまでは言いませんが、それは幹部が「何もかも自由にやってよい」ということを言ったわけではなく、実際は節度をもって。これまで調和を保ってきた組織があるので、そこには迷惑をかけぬように。幹部の言葉だけでは分かりにくいところもあるかもしれないので、第2層はそれを「翻訳」してあげるのが役目なのです。

ここで気を付けないといけないのは、上記の「翻訳」を含め、

第1層と第2層の思惑は、そもそも一致しているのかどうかわからない

ということです。「これは幹部が言っているから」と、幹部が実際には言っていないことを言っているかもしれません。「これは幹部がお考えのことだから」と、幹部が実際にはそんなこと考えていなかったことを言っているかもしれません。

ズバリ、第2層が考えていることは「組織が壊れないような程度の活動」です。これまでの記述で分かるように、組織が壊れて困るのは、実はこの層ですので、味方につけることは事実上不可能です。当然、この世代は活動に対して「圧力」側に回ることになります。この層は幹部に近いので、より性質が悪いです。

おわりに

こうして、現実は各層のマネージャによって、新しい取組みは提言会を実施できたとしても、言いっぱなしで終わり、その後は特に日の目を見ることもなく終了。

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